パレードとレモネード

かもめ

白狐伝

 

静岡SPACふじのくにせかい演劇祭の後半戦、5月晴れを通り越すピーカンの静岡で三浦直之率いるロロの小作品オムニバス一挙上演シリーズ「パレードとレモネード」、ドイツベルリンのシャウビューネ劇場の芸術監督トーマス・オスターマイヤー演出の「かもめ」、そしてSPACの芸術総監督宮城總演出の「白狐伝」を観た。

 

まずはGWの街が目覚め出し、ツーリストが行動し始める時間朝の11時〜市内のメインストリートの一つ、中央に遊歩道がある青葉シンボルロードでロロのオムニバス・ストーリーズ・プロジェクト「パレードとレモネード」を観劇。

有料観客席の周りの歩道で立ち見をする無料エリアにも多くの人が集まっていて(これは先日SPACが東京駅周辺で行った「マハーバーラタ」の上演形式に倣っていますね〜)たいへん賑わっていた。

その有料観客席ももちろん満杯だったのだが、屋外での上演ということで日差しが照りつけ、後半はちょっとした体力勝負となった。—ボーッとしてくると集中力も無くなってきますからね〜。

 

 
実際に人が出会ったり、行き交ったりする街中でのパフォーマンスは劇の内容 —友人、そして人との繋がりであったり、ひょんなことで出会った同士の会話— とうまくマッチしていてたいへん面白く観た。市街地の日常風景がカラフルな背景となり、豊かな演劇の舞台を演出していた。
 
開演前に挨拶をするロロ主宰の三浦直之
終盤、出演者たちが集合した場面
観客たちの頭には日除けのタオルが。。
 
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午後は静岡芸術劇場でドイツシャウビューネ劇場の「かもめ」を観劇。
 
舞台上に三方を囲む形の仮設の客席が作られ、その囲まれた中央のスペースで劇が演じられるというスタイルで、スタジオ公演のようなスペースの中、至近距離で「かもめ」の世界を目撃、、というよりもさらに近い感じでその世界を一緒に体験するような演出になっている。
 
休憩を含んで3時間越えという長丁場なのだが、すっかり劇世界に引き込まれ、まったくその長さを感じなかった。なんなら続けてもう一回観ても同じように楽しめるだろうというぐらい、面白かった。
 
何回も観ているチェーホフの戯曲で話も熟知しているのに、その面白さはなぜなのだろうと考えたのだが、基本の”き”のところで、役者たちがすっかりチェーホフ劇の登場人物としてヴィヴィッドに舞台で生きながら演じていること、そして前述のように観客はその生(ライブ)の劇世界にウェルカムとばかりに招き入れられている観劇状況の中でチェーホフの劇世界を一緒に生きる=体験することができるからだと思う。これぞThe 演劇の醍醐味!!
 
この舞台のずば抜けた面白さは世界で最も勢いのある演出家の一人、トーマス・オスターマイヤーの演出がすごいからなのか、、、いやいや、演出だけでなく、やはり俳優陣の、そしてスタッフ陣の素晴らしさがあるからこそで、その意味ではシャウビューネ劇場(オスターマイヤーはそこの芸術監督を長年務めているわけでもあって)全体のチームでの創作の賜物と言えるだろう。
— Footballでも上に立つマネージャーが良くてチームを牽引する才能があるところは、選手がどんどん良い仕事するもんね〜。
 
上記の舞台写真はドイツで上演された際のもの(おそらくベルリン)で、セットとして背後に大きな木が見えると思うが、日本には植物を輸入できないということで(これは後で演劇ライターさんから聞いた)、今回はSPAC版としてそのリアルな木の代わりに背後に設置された白い布の上に墨絵のような背景—山々や木など—が描かれていく中で劇が進行していくという演出になっていた。
田舎の牧歌的な大木のセットの周りで繰り広げられる男女の恋愛模様も良いだろうが、今回の墨絵の背景も人里離れた田舎の避暑地といった雰囲気を十分に感じさせてくれて良かった。
 
当日パンフレットに今作のドラマトゥルクのマヤ・ツァーデが「私たちはいろいろな愛のあり方や微細なニュアンスを見つめています。(略)。。。愛と俳優に焦点を当てるというのが、私たちの選択でした」と話していたと書いてあった通り、登場する人たち一人一人のかなりダイレクトに放たれる恋愛が絡んだ思いの矢の行方を、それらが交差したり、思い人に届かずじまいだったり、ときに交差しかけたり、、、を見ていくことになる。その意味ではチェーホフの名作なのにすごく良い意味で”俗”っぽいのである。
フレッシュで、そして強烈な思いがこもった恋バナ、なのだから、テレビの高視聴率ドラマにも負けないくらい、つまり面白くないわけがない。
また、ツァーデさんが「観客と俳優が信じられないほど近いので、演じ方も変わってきます。なんでも正確に、小さめにやらないといけないので、お芝居多くないんですよ」と語っているのだが、そのお芝居っぽくない=嘘っぽくないところで、彼らの入り組んだ恋バナにどんどん引き込まれていくのだと感じた。
 
また、名作なのに(またもこの言葉がふさわしい)キャストがとても人間臭く、人として愛らしい。
 
得に顕著なのが、すっかりこの舞台の主役となっていた一家の母親で著名な女優のアルカージナ(シュテファニー・アイト)の愛人で人気作家のトリゴーリンを演じていたヨアヒム・マイアーホッフ。
上記の舞台写真で若くて魅力的なニーナ(アリナ・ヴィンバイ・シュトレーラー)のとなりでビールを飲みながら腹を抱えているのがその人だ。
よくある「かもめ」の舞台では、たとえばヒュー・グラントのようなイケメンでインテリ風(日本では田中圭、鹿賀丈史、野村萬斎、そして作家の筒井康隆などが演じている)が颯爽と登場し、若い女の子(ニーナ)の心を鷲掴みにするのだが、今回のオスターマイヤー版ではこのなんともお茶目なおじさんが演じている。劇中でも付け足されたセリフとして「通っている理髪店のおやじのよう」なんてイジられているのだが、このトリゴーリンを大女優と若い美女が夢中になって取り合いをするという設定がとてもリアルに伝わってきた。それほどリアルに魅力的なのだ。優柔不断で女に弱い、そんなおじさんとして。
 
そんなおじさんにしがみついて離さない、と未練たらたらにふるまう大女優さんも人間らしくてステキすぎるほどステキだ。
 
人間の悲喜こもごもが詰まったオスターマイヤーの「かもめ」、、前評判に違わず、今これが観れてしあわせ!!と思える傑作だった。
 
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最後はSPACの演劇祭の目玉、駿府城公園に特設ステージを設置してSPAC所属の俳優たちが出演する新作舞台「白狐伝」。
 
 
***** SPAC HPより *******
日本そしてアジアの美を世界に知らしめた智の巨人、岡倉天心。近代化・西欧化一辺倒の明治末期、日本にも欧米にも絶望していた天心の遺した物語がいま、宮城聰とSPACに手渡される。日本で歌舞伎に親しみ、アメリカでオペラに親しんだ天心が、今後の世界への灯火(ともしび)とすべく死を前に英語で書き残したオペラ台本『THE WHITE FOX』。宮城聰が新たに台本化し、SPACが長年磨き上げてきた「二人一役」の手法と俳優による生演奏、音楽性あふれるセリフ術、その唯一無二の劇的空間の中で、天心の最後の夢が形を現す。あたかも一夜、駿府城に現れる狐火のように…
 
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ここにあるように、これまで駿府城公園で上演してきた「天守物語(2023)」「ギルガメッシュ叙事詩(2022)」「アンティゴネ(2021)」「マダム・ボルジア(2019)」「マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険(2018)」などの演目同様に天候(上演が始まる時間にはすっかり日が暮れている)、駿府城の自然をうまく利用した作品となっていた。
得に今回は背景の木々を照らしたライティング(照明:花輪有紀)が見事でスペクタクルな舞台に仕上がっていた。
 
一人三役(大勢の人を表現するため、一人の役者が両脇に人形を抱え、三人にいるようにみせる)や滑車車でのスピーディーな動きなども合戦のシーンを盛り上げ、、などなどとあるのだが、何と言ってもSPACの二人一役(スピーカーとムーバー)劇の醍醐味といえば、美男美女(大高浩一と美加理)の立ちの決めポーズでしょう!
歌舞伎の見栄同様にこれを見なければ終われない、という感じ。今年もあっぱれあっぱれの大円団でした。
 
—美加理さんの女狐コルハが魔法の玉を口に加て登場するのだが、え?リアル竈門禰󠄀豆子(鬼滅)???って錯覚しましたよね、ね?
 
この演目を春の夜空にかける宮城さんはロマンチストなんだな〜、と、、自分の俗さを思い知った。