(上から時計回りで)「かちかち山の台所」「楢山節考」「友達」

 

GW前半の静岡参り、ということで毎年恒例の春の演劇祭SPACふじのくにせかい演劇祭の三作品を鑑賞。

 

まずは観客たちがSPAC舞台芸術公演の周辺を歩いて、その道中に仕掛けられたパフォーマンスを見るという間食付きツアーパフォーマンス「かちかち山の台所」にお昼から参加。

 

十数人ずつの3つのグループに分かれ、時に装着したイヤホンガイドから流れてくるナレーション、パフォーマーの声を聞きながら2時間たっぷりと山歩きをして汗をかき、そして本当に怖いおはなし”かちかち山”の世界を楽しんだ。

 

出発前にまずはかちかち山の民話の前半部分(うさぎが登場する後半部分はカット)を聴いてからスタートするのだが、まずこの民話の怖さに思わず眠気も吹っ飛んだ。(ぜひWikiで確かめて)

 

演出の石神夏希さんが当日パンフの中で、息子が最近手にした絵本ではその怖い部分がソフトに変更されていたと書いていた。

それだと読後の感想もソフトんふにゃふにゃしちゃうんだろうな〜と思ったが、まあそれはさておき、、日本平の自然と民話の容赦ない怖さ、そしてみんなで歩くという行為の三位一体がとても充実した観劇体験となり、大いに楽しんだ。

 

3つのグループにはそれぞれ違ったたぬきさん役の案内がつくのだが、我々の班には本当に山の精霊ではないかと思われるようなひらりと山を駆け巡る山崎晧司(静岡出身で静岡在住だそう)さんがついてくれていて、彼の神出鬼没のパフォーマンスのおかげでさらにかちかち山の民話にリアリティーが加わった。

最後に登場するうさぎちゃんのボヤキも効いていた。

 

間食付き、っておかきでも配ってくれるのかなと思っていたら、ちゃんとツアー途中でおむすび、さらには観劇後には狸汁ならぬ鳥手羽汁、そしてお豆が入ったおむすびと冷えたお茶が出てきて、それを壮大な緑の山々と茶畑を見ながら楽しめたのは本当に身体で感じる、楽しめるパフォーマンスだな、と思った。

翌日も続いた足の疲れ、これも観劇体験の一つ。

 

「楢山節考」

 

昨年、利賀山房で初演された瀬戸山美咲による上演台本、演出作品「楢山節考」をSPACのユニークな屋内劇場の一つ、楕円堂で観た。

深沢七郎の小説「楢山節考」は今村昌平監督の映画がカンヌでパルム・ドール(最優秀賞)を受賞したこともあり、”姥捨のはなし”という程度は知っていても、詳細に関しては知らないところも多いかもしれない。

そもそも姥捨だけのエピソードでは2時間の映画になるわけもなく、映画では姥捨の風習に加え、貧しい村での閉鎖社会と人間関係、小さな集団という形態、娯楽もないその村での性、そして生(もちろんそれにつながる死も)について、主人公おりんと辰平のまわりの村人たちがそれぞれ抱える問題を通して描いている。

 

今回は三人の役者という少人数での上演ということもあり、またフォーカスを絞ることでより緊張を高める狙いもあったのか、口減らしのため、”姥捨”という生きたまま埋葬される厳しい掟がしかれたかつての時代を今のわたしたちへの戒めとして提示している。

 

神聖さを宿した楕円堂での70分間のパフォーマンスは張り詰めた空気の中で厳かな儀式のような様相で、俳優たちの技量のおかげもあり、一語一句が強く響いて届いていた。

 

おりん婆さんが生気漲る美しい女優(森尾舞)というのが気になるが、たくましい女性として家族の真ん中に存在してほしいからという意図なのかも。

 

個人的には姥捨という棄老伝説の事実よりも、そこに至るまでの人間の集団社会の恐ろしさ(ある意味その弱肉強食は今でも脈々と続いているので)の方が気になるところであるので、そのあたりも少し加えてくれたら、と感じた。ー>今作はいろいろ足された映画より原作に忠実ではあるのだが。

 

今回から加わったというチェロの独奏(五十嵐あさか)はとても効果的だと思った。

 

「友達」

 

夜はもう一つのSPACが誇るユニークな劇場、野外劇場有度で阿部公房作、鳥取にある鳥の劇場主宰の中島諒人演出による「友達」を観た。

俳優は鳥の劇場所属とSPAC所属の俳優が半数づつ参加している。

 

何もない空間(数個の大きな石のようなものがあるだけ)に役者たちが角材や木箱などを持って登場。

あっという間に主人公の男が住むアパートの部屋をその角材で形取って(線を引き)作り上げてしまう。

 

この線引きで作られたスペースというのが、都合によって外にもなり、内にもなるのが面白い。これらの白木の木材があらゆるもの(世界)と自分との境界線となり、最後にはやぶられない牢屋になってしまう。

(美術:ジャンフランソワ・ギヨン)

さ、その家族の中での存在価値の競い合いなども見応え十分

 

最後の男が牢屋に閉じ込められるシーンは先日観た映画「ナワリヌイ」(もちろん獄中死したロシアの反体制の政治家)を思い起こさせた。。。これで「友達」があり得ない話ではないということを物語っている。

 

この不条理劇を受け入れる(観劇する)という土壌ができているSPAC演劇祭の観客たちにも拍手。

 

蛇足になるが、今回「鳥の劇場」のHPを覗いてみたのだが、プログラム、その他イベントなど、充実していることが見てとれた。もし近くにあったら、通っていただろうな。