下北沢OFF・OFFシアターで山本タカ率いるくちびるの会第8回公演「猛獣のくちづけ」を見た。

 

*****演劇サイト より ********

 

くちびるの会 第8弾は、人がワニになる変身譚。

舞台は、北関東にある倉庫街。
この街の倉庫で派遣作業員として働く大貫(おおぬき)は、暗澹たる思いを抱えていた。
過酷な労働に腰は悲鳴を上げるし、心は孤独に苛まれていた。
ある日大貫はカップ焼きそばに祈りを捧げた。
「僕の様な孤独な人々を救って下さい!ペヤング!」

それから、同じ倉庫で働く同僚を皮切りに、街の人々が次々とワニになる怪異が頻発する!
あのワニは、救われた姿なのか!?
大貫は、自身のワニ化から逃れるために、友達を作る!作る!

倉庫の休憩室でずっと無口のゲーム青年、小須田(こすだ)と友達になるし、宅配便の女性ドライバー、相川(あいかわ)とも友達になった!
そして、大貫、小須田、相川は、ワニだらけになった街に旅に出る。小さな小さな旅に出る。

彼らはいったい何を目指して旅に出るのか!?そもそも人はなぜワニになるのか!?
生きるのが下手くそな人々がどうにも愛らしくてたまらない、人間賛歌の物語。

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上記にあるように、人が次々とワニに変身していくものがたり。

当日パンフレットに中島敦の「山月記」カフカの「変身」イヨネスコの「犀」などの変身譚が好きで、自分の変身ものがたりを書いてみようと思ったのがきっかけ、とあった。

 

山月記にしても変身・犀にしても、それぞれに人がほかのものに変わってしまう理由があり、それが社会批判や人間の存在意義を問うことになるのだが、現代でワニへ変身してしまうこの芝居でも彼ら(なんとか日々を暮らしている若者たち)にとっての存在する意義、この世で生き続けることの意義について、笑いながら真剣に問うている。

 

この世で生きていくためには周りとのバランスを図りながらうまくコミュニケーションをとり、出る杭にはならないこと、だと日々を過ごしていた彼らだが、ワニという常識をぶち破った存在、現象が目の前に現れたとき、自らの求めるもの、生きていくのに必要なものー>友人、恋人、愛、、そしてくちづけをはっきりと認識しストレートに欲するようになる。

 

そんなそれぞれが変化を認めていく中で、最初から本能に従って変わらないまま人のことを気遣う大貫(薄平広樹)の存在が貴重。そして紅一点の恋人がワニになってしまったためその彼を救おうと奔走する女性相川(北澤小枝子)のテンション高めの演技が良かった。

 

作・演出の山本が開幕前には上演に関しての注意喚起(途中で大音量の効果音や激しい光が点滅するシーンがあることを告げて、実際にそれを披露していた)をし、アフタートークでは創作の経緯を説明し、、、さらに今回の公演では近所の喫茶店で使えるその日限定の無料のコーヒー券が配られている(当日パンフ&チラシの中にあり)ことを説明していた。

 

このような観劇をやさしいものにする(もっともっと劇場へ通うハードルを下げる)試みを実践しているというのはとても好感がもてる。

演劇、観劇にはお決まりごとのようなことがまだまだ多く、それらが新しいお客さんを遠ざける理由になっていることもあると思うので ——— 例えば、何年も前に行ったロンドンの劇場では上演中の飲食(ガラスなど割れるものではなくプラスチック容器に限り、また食べ物も劇場で売っているナッツやスナックなどに限っていた)もOKで、みんなリラックスして観劇を楽しんでいた。