新宿コマに新しく出来た劇場THEATRE MILANO-zaで韓国映画の金字塔、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」を鄭義信が翻案、1990年代(正確には1994年の暮れから阪神淡路大震災が起きた1995年の1月)日本の関西に住む貧困家庭と富裕層の家族の話に置き換えた「パラサイト」を観た。

 

今回の舞台版のタイトルに「半地下の家族」が抜けているのは、その日本へ場所を移したことによる変更だ。

 

韓国では南北朝鮮の対立が激化した1970年代に北朝鮮からのテロに対処する方法としてソウルの低層住宅に防空壕として使える半地下の部屋の設置を義務付けた結果、その後このような住宅が残り、今では格安の賃貸物件として使われているということらしい。BBCのレポートによると、例えば家を購入するためになるべく短期間でお金を貯めたい若者がいっときの住まいとして住んでいるケースなどもあるようだが、もちろんパラサイトの家族のように低所得者向けの住居となっている現状はあるようだ。

 

********* 演劇サイト より あらすじ ******

日本版『パラサイト』の舞台となるのは90年代の関西——。
堤防の下にあるトタン屋根の集落。川の水位より低く一日中陽がささず、地上にありながら地下のような土地で金田文平(古田新太)の家族は家内手工業の靴作りで生計を立てて暮らしている。
一方対照的な高台にある豪邸では、永井慎太郎(山内圭哉)、妻の千代子(真木よう子)、娘の繭子(恒松祐里)、引きこもりの息子賢太郎がベテラン家政婦の安田玉子(キムラ緑子)とともに暮らしている。文平の息子の純平(宮沢氷魚)は妹の美姫(伊藤沙莉)が偽造した大学の在籍証明を利用し、繭子の家庭教師としてアルバイトを始める。息子の賢太郎のアートセラピーの教師として、美姫が、慎太郎の運転手や玉子がクビになるように仕向け、その後釜に、文平と妻の福子(江口のりこ)が、と一家は永井家に寄生していく…。

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日本にはそのような物件がないため、今回の舞台版では鄭氏が大阪の堤防横の水位よりも低い土地にある居住地帯をイメージしてパラサイトする金田家族の住居兼仕事場(家族総出で靴を作っている)を登場させたとパンフレットに記してあった。一方、超金持ちのセレブ一家永井家の邸宅は神戸の高台、とのこと。

 

オープニング、鄭作品に多く参加している美術の池田ともゆきがその堤防下のバラック住宅群を舞台いっぱいにリアルに展開していて、金田家のジリ貧ぶりが紹介される。クリスマスケーキが正月の鏡餅で代用されても、家族はそんなものだろうと笑い飛ばし、あくまでも明るく仲が良い一家だ。(古田、宮沢、江口、伊藤)

鄭作品には欠かせない、3度繰り返すお笑いシーンも健在で、兄妹(宮沢と伊藤)仲が良いのが微笑ましい。

 

次にそのバラック地域が回転し現れるのが高台の大邸宅、永井家(真木、山内、、、そして住み込みのキムラ。さらには後半まで登場しない隠れ部屋の住人)の居間。右手にはキッチンや(隠れ部屋)地下室、そして奥には時々暴れる音が聞こえてくる引きこもりの息子賢太郎(今回、舞台に登場することはない)の部屋や夫婦の寝室へとつながる階段が見える。

背景に神戸の街を一望する全面ガラス張りの大きな窓が見えて、その景色がこの家の富裕度を一眼で表現している。

 

基本的に映画の筋を追っているのだが、若干の変更もあり — ちなみに映画はまだ観ていないのだが —、例えば前述のように賢太郎はその気配だけで実際には登場せず、また地下室に隠れている人物にも違いがある。映画の解説を読むと、登場人物にも若干のキャラの変更があるようだ。

 

その場で起こる2つの家族の騙し合い、そしてクライマックスの生死をかけた攻防、、などその成り行きをハラハラしながら楽しめたので、映画を観ていないことが功を奏した感もあった。

 

飄々とした江口のりこの家政婦(松尾スズキの「ツダマンの世界」でも暗躍する女中を好演)、お人好しのセクシーセレブママの真木よう子、豹変ぶりが見事な長年務めた家政婦役のキムラ緑子、憎めないお嬢様恒松祐里、そして現代っ子で絶対的な愛されキャラの娘の伊藤沙莉、、と女優陣が素晴らしい!— 今回、特に伊藤沙莉の魅力が全開、そのナチュラルな演技が見事だ。

 

笑いあり、ミステリーありのエンタメ舞台で、チケットが入手困難なのも頷ける。

 

今回、このレビューを書くために映画のレビューやYouTubeなどをチェックしたのだが、その韓国の社会背景、格差社会への皮肉、などなど、、読めば読むほど筋は舞台で知ったものの、ますます映画版を観てみたくなった。