夜は渋谷へ移動して、太宰治がシェイクスピアのハムレットの設定とキャラクターを借りて日本の良家の子息(太宰自身のように)ハムレット(木村達成)が自らの特別な優位である出自を自覚しながらも、小市民的な自己満足を目的として悪事を正当化していく叔父クローディアス=クローヂアス(平田満)の姑息さを受け入れ難く反発していく様を描いた「新ハムレット」をパルコ劇場で観た。

 

****** 演劇サイト より ********

 

太宰治が初めて書き下ろした長編小説は、『ハムレット』のパロディだった・・・。
共感度100%の日本人的な“新しい”ハムレットがここに誕生!
太宰治が『ハムレット』を語り直した怪作を、演劇界注目の新鋭・五戸真理枝が戯曲化。かの日本の文豪がシェイクスピアを語り直したら・・・。

あの太宰治が昭和16年(1941年)に若干32歳にして大胆にも挑んだのは、あのシェイクスピアの『ハムレット』の翻案でした。それは太宰が初めて書き下ろした長編小説でもありました。
シェイクスピアの四大悲劇の一つに数えられる『ハムレット』。王位の争奪や国家の存亡という壮大なスケール感と詩的なセリフの数々が世界中の人々を魅了し続ける一方で、日本人にとっては外国の古い時代の物語でもあり、全てを直観的に理解することは容易ではありません。太宰治が語り直した本作は、設定は同じながらも太宰治のレンズを通すことで、ハムレットや彼を取り巻く人物たちが拗らせる悩みや関係性が非常に身近に感じられ、日本人の感覚のままで100%共感できること間違いありません。

演出を手掛けるのは、『コーヒーと恋愛』『貴婦人の来訪』『毛皮のヴィーナス』で第30回読売演劇大賞の最優秀演出家賞を2月に受賞したばかりの五戸真理枝。初登場となるPARCO劇場で受賞後初の作品に取り組みます。古典作品を現代的かつ親しみやすく立ち上げる手腕に定評のある五戸自身が、この戯曲形式の小説を上演用台本へとブラッシュアップし、客観性と諧謔と愛情に富んだ“新しい”ハムレットへと立ち上げます。その大胆かつ豊かな発想で観客を驚かせる五戸が、本作にどんな工夫を加えるのか、期待が高まります。

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上記の作品背景解説にあるように、文学座の五戸真理枝が太宰の長編小説の戯曲化→上演台本、そして演出(以前、彼女は2014年に文学座で「新ハムレット」のリーディング公演の演出をしている)を担っている。

彼女が10年に渡り関わっているこの太宰治の「新ハムレット」の演劇上演が、長年の想いの成果として現れた舞台で、言ってしまえばその企画(太宰の小説の舞台化)だけで、すでにある種の勝ち目が見えていた、そんな作品だと思った。

 

と言うのも、太宰の私小説的若者の悩み=「新ハムレット」がキャラクター設定と言い、それぞれの示唆を含んだ台詞=言葉と言い、本当に魅力的で、戯曲(戯曲化したのは五戸だが)の力が素晴らしく、自然とぐいぐいと物語に引き込まれていくからだ。

 

絵に描いたような悪人である原作(シェイクスピア)のずる賢いクローディアスではなく、一見誰よりもお人好しでありハムレットの理解者であるように見えて、実のところ自分に甘い弱い人間であるクローヂアス(太宰の小説ではこのように表記されている)。まだまだ世間知らずのお嬢様であるオフィーリア(島崎遥香)も今作では20歳に近い(?要確認)大人の認識を持った知的な女性として登場する。

新ハムレットの重要な登場人物であるポローニヤス(池田成志)などは原作とは最もかけ離れた人物で、賢くて子供思いのレアチーズ駒井健介)とオフィリヤの理想的なシングルファーザーだ。

ハムレットの母ガーツルード(松下由樹)は最も社会通念のある常識的な母親で、ハムレットの親友ホレーショー(加藤諒)はどこにでもいる年相応の青年でハムレットを友達として慕っている。

 

でもって、これらの原作とは一味違った有名な登場人物たちに適格な俳優たちがここでは集められている。

 

いかにも人の良い新王を平田満が、愛情深い常識人を松下由樹が、現代っ子でありながら意見を持った正直な女性を島崎遥香が演じている。蛇足となるが、島崎遥香の声がアイドルらしからぬ低音で、その意味でも今回のキャラクターに適していた。

 

そんな中で、レアチーズとオフィリア家族、つまり上級の家来の中心的存在であり、様々な側面でこの話の要となっているポローニヤスを演じた池田成志の芸達者ぶりと安定感がこの舞台をまとめ上げていたのは一目瞭然。

なんであんなに台詞が聞き取りやすいのか、、、巧みなイントネーションと強弱、そして声、、さすが、の一言に尽きる。

 

中心にいる悩める青年ハムレットがピンクのスウェットの上下を着て、良い意味での”軽さ”を有していたのはGood。

 

途中に導入されていたラップは今一つだったけど。。。今年の岸田國士戯曲賞受賞作品、金山寿甲氏の「パチンコ(上)」では絶妙な言葉あそびのラップが使われていて、ラップが最強の武器となる場合もあるが、毒の匙加減が重要で、またそこが難しいところ。