前川知大率いるイキウメの「人魂を届けに」をシアタートラムで観た。

 

まず、最初に言っておきたいことは前川の劇作家としての成熟した上手さ。今の現代演劇界でこれほどまでにストーリーテリングに長けた作家が何人いるだろうか、ということ。

ある意味当然のことなのだが、これほどまでに多方向の様々な問いを盛り込みながら、少しの無駄もなくきちんと2時間の芝居に落とし込む、流れを止めることなく常に加速しながら話を進めて行ける、これはきちんと劇作という手法を自らのものとして掌握しているから出来ることだと感じた。

前川は2009年に英国のロイヤルコート劇場でのワークショップ、世界各地から若手劇作家を集めて1ヶ月間行われたインターナショナルワークショップに参加した経験を持つのだが、彼のこの作品における上手さは英国の作家のそれを彷彿とさせた。

 

****** 演劇サイト より ********

人魂(ひとだま)となって、極刑を生き延びた政治犯は、
小さな箱に入れられて、独房の隅に忘れもののように置かれている。
耳を澄ますと、今もときどき小言をつぶやく。

恩赦である(捨ててこい)、と偉い人は言った。
生真面目な刑務官は、箱入りの魂を、その母親に届けることにした。

森の奥深くに住む母は言った。
この子はなにをしたんですか?
きっと素晴らしいことをしたのでしょう。
そうでなければ、魂だけが残るなんてことがあるかしら。
ところで、あなたにはお礼をしなくてはいけませんね。
母はベッドから重たそうに体を起こした。

魂のかたちについて。

*******************

 

 

撮影:田中亜紀

森の中で「ママ」と呼ばれる山鳥(篠井英介)さんのもとで共同生活をしている社会の遭難者たち

 

「死刑制度」「日常に溢れている言葉である『こころ』というものについて」「集団」「宗教のグル」「今の日本人の生き方」「特に若者たちの生きづらさについて」「国家の建前」。。。。と、観て行く中で頭には灯されるワードが次々とあがってくる。

 

これらのワードをバラけさせて、それからまとめようとすると抽出されるのが、(矛盾だらけの)死刑制度、そして魂。

 

心に届く、響く、、心から、、心優しい人、、などなど実態が見えないにも関わらず、みんなが共通して認識しているとされる「こころ=魂」を劇中で起きている極限状態、日常からかけ離れた森の中での暮らしを通して、観客にそのイメージを届けようと試みていている。

 

そして観客としては、幕開き直後からその劇世界→謎解きゲームのような”ものがたり”にどんどん引き込まれて行く。

イキウメの舞台を観た際にいつも感じることだが、観客側の集中度がとても高いことに驚かせされる。観客席の空気が良い意味でピリピリしているのだ。

この2時間が、それまでの人生観を変えるかもしれない、、そんな刺激を与えてくれる舞台は貴重だ。