三軒茶屋シアタートラムでSISカンパニー主催の北村想書き下ろし芝居、栗山民也演出の「ケンジトシ」を観た。

 

こちらのチラシにあるように、主役の2人、ケンジ(宮沢賢治)を中村倫也、その妹トシを黒木華が演じるという豪華なキャストゆえ——それがSISカンパニープロデュース芝居の魅力の一つになっている——、一ヶ月近くの公演にも関わらず、小さな劇場での上演ということもあり立ち見席が出るほどの盛況だ。

 

SISカンパニーと劇作家北村想はこれまで日本文学シアターシリーズと銘打って、昭和の文豪の小説、例えば太宰治の「グッドバイ」、夏目漱石の「草枕」にインスパイヤされたオリジナル作品を発表してきたという経緯があるが、今回は同じ文豪に関した作品であるがちょっと方向性が異なっている。

 

生前は無名だった早世の作家宮沢賢治はその謎の部分の多さ、そして年々高まる彼の評価と比例して、そしてなんと言ってもその支持者の熱い思いからアートのどの分野でも取り上げられることの多い作家・詩人で、彼の作品から創作された芝居や人物評伝のようなものが多く発表されている。

今回の「ケンジトシ」上演後に、宮沢賢治関連の舞台上演が続くという記事も目にした。(と言うか、いつも何処かで賢治関連のものが上演されている)

 

北村想がこの「ケンジトシ」で取り上げたのは宮沢賢治という早すぎた天才であり、その意味では周りとは波長があわず奇人扱いされていた詩人が見ていた世界、彼が見据えていた日本の未來。

それらを賢治の言葉とともに(コロス役の三人が賢治の代わりに詩を口ずさんでいた)、当時は多くの人が見えていなかったその真実をこの舞台で見事に明かしてくれていた。

 

黒木華の役に憑依、それも自然な形でなりきる演技は見事としか言いようがない。

 

この1時間半の作品の中に数えきれないほどの導き(もしくはヒント)の星の欠片が散りばめられている。自らの自己確立の迷路の中で、絶対的に信頼を寄せてくれている妹トシの存在=愛がいかに大きかったか。この国の行く末を垣間見ていた賢治の落胆と一縷の望み。。。。

 

こちらも北村の名作「寿歌」のように、繰り返し多くの人たちに上演され続けていくことを願って。