中野ザ・ポケットで青年座の「燐光のイルカたち」を観た。

 

劇作が手話劇「華指1832」で昨年度の岸田國士戯曲賞の候補となった京都を拠点に活動する注目の劇作家”ピンク地底人3号”さん。

 

彼は京都がベースの劇団「ももちの世界」での作・演出を担当するほか、他劇団で脚本または演出担当をすることも。

このところ数々の戯曲賞で受賞、または候補(せんだい短編戯曲賞、日本劇作家協会新人戯曲賞、OMS戯曲賞、そして岸田國士戯曲賞)の常連となっている。

 

今回の東京発進出となった「燐光のイルカたち」では、彼の戯曲を老舗劇団青年座が、熟練の演出家宮田慶子に託して上演に挑んだ。

 

このところ岸田國士戯曲賞の予想対談をやっているのだが、ピンク地底人3号の前作、岸田賞候補作「華指1832」(ちなみに華氏1832は人体が燃える温度だという)がとても面白かったので、ピンク地底人3号の名前を見つけたら今度こそ観にいこうと決めていたところ、意外にも青年座への戯曲提供という形で彼の名前をチラシに見つけたので(あやうく見逃すところだった)、チケットを購入。

 

 

****あらすじ 演劇サイトより******

 

その都市には南北を分断する壁が建っている。
壁の南側に位置するコーナーショップのオーナー桐野真守は、
北側が年々進める入植計画により、立ち退きを迫られていた。
激しい雨が降り注ぐ夏の終わり。
北から壁を超えてやってきた及川凛は、夕立から逃れる為、
偶然、真守の店に入ってくる。
真守は凛を一目見て、今はもういない弟ひかるを重ね合わせる。
―――――真守はなぜ、ひかるを失ったのか?

だって壁を作ったのは、そもそもそっちからでしょ?

現在と過去が交差し蘇る記憶、そして真守は思いも寄らない現実に直面する。
過酷な現実を懸命に生きる、愛すべき兄弟の、喪失と再生の物語。

*****************

 

ストーリーは架空の街(日本国内のどこか)のフィクションであるものの、今存在する現実の国の状況—ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区—を想像させる。

 

状況設定として巨大な壁が北と南の人たちを分離しているため南北の往来にはパスが必要で、劇の現場となる壁に近い南の家族が経営するカフェのすぐ近くにも北の軍人が常時そのあたりの人々を監視をしている塔があるという状況だということがそのカフェのオーナー、家族、北からカフェを訪れた青年の話からわかってくる。

 

現在と過去がで交互に演じられ時にその時間軸に混乱させられることもあったが、それは世代が代わるほど長期に渡るこの問題の進展のなさ、さらに言えば後世にまで綿々と続いていくことを感じさせる問題の根深さを感じさせるという効果もあるのだと感じた。

 

その先行きが期待できない現実を描きながら、最後、このタイトルにあるように若者二人ーー>これが海を自由に泳ぎ、壁を飛び越える2頭のイルカというイメージとして描かれるーー>に将来、この膠着状態を打開してくれるかもしれないという一筋の燐光の望みを託している。

 

小劇場で観客がごくごく間近で凝視している中、このような特殊な状況下にある人々を、さらに時間をまたいで演じるのは難しいところも多々あるとは思うが、気持ちばかりがさきばしるような過剰な演技をもう少しおさえた方がこの街の日常の風景が伝わりやすいかも。