この夏の演劇界の目玉イベント、劇団チョコレートケーキが終戦記念月に「日本の戦争」を扱った作品6編を一挙上演するという素晴らしい企画のうち3作品を東京芸術劇場シアターイーストで観てきた。(残り3作品は初演時に観ていて、比較的最近に上演されたものだったので今回はパスさせてもらった)

 

駒澤大学のOBを中心に2000年から活動を開始した劇団チョコレートケーキ。最初はコメディ劇を上演する劇団だったが、2009年から俳優の古川健が劇作を担当するようになり、そこで方向転換。

今も続く、歴史的出来事を題材にした社会派の芝居を上演する劇団となり、一気にその名をとどろかせるようになった。

特にナチスドイツの要人たちの生き様を描いた作品で若い人たちから圧倒的な支持を得て、演劇賞の常連となる。

演出は劇団主宰の日澤雄介が担当している。

 

劇作家古川、演出家日澤、ともに年々外部での活動も増え続けていて、今日の日本演劇界には欠かせない存在となっている。

 

こちら2014年のインタビュー(英語)↓

 

 

 

「〇六〇〇猶二人生存ス」ーー劇団チョコレートケーキの作品はできる限り追っかけているのだが、この短編作品は初めて観た。

 

**** 劇団サイトより ***

大日本帝国海軍特殊潜水艇〝人間魚雷〟「回天」。
昭和十九年九月六日、一八一二(ヒトハチヒトフタ)
二人の大尉が海底の回天に閉じ込められた。
人間魚雷に命を捧げた男達の鎮魂歌。

 

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人間魚雷「回天」に閉じ込められたという設定のため、2人が近距離で向き合う姿勢で、ほとんど動くことのない会話劇となっている。最小限の舞台セット(向かい合った椅子2脚)が観客たちの目と耳を自然と2人の言葉のやりとりに集中させることに役立っている。

このような極限状態でも弱音を吐かない(吐けない!?)大尉たちの心理状態とは、、戦争という異常な洗脳された状況の恐ろしさが伝わってくる。

回天と言えば、2016年同劇場プレイハウスで野田マップの「逆鱗」であつかわれていたな、と思い出す。

 

「その頬、熱線に焼かれ」ーーこちらは2015年にOn7(女優7人によるユニットカンパニー)による上演を駒場アゴラ劇場で観ている。

 

*** On7サイトより あらすじ ****

1945年8月6日広島、9日長崎。
米軍により投下された原子爆弾は一瞬にして街を廃墟に変え、数十万人の非戦闘員である市民の命を奪い去った。
かろうじて死を免れた人々も「被爆者」としての過酷な人生を送ることを運命づけられた。
灼熱の熱線は分け隔てなく人々の皮膚を焼いた。この熱線で柔肌を焼かれ、消すことのできないケロイドをその顔や体に負ったのが「原爆乙女」と呼ばれる女性達だ。
ケロイドは彼女たちから女性としてのアイデンティティを奪い、微笑みを奪い、当たり前の人との触れ合いを奪った。
1955年5月、25人の原爆乙女がケロイド治療の為に渡米する。彼女たちは勇気を振り絞って原爆を投下したアメリカの地に立つ。原爆に奪われた自分の人生を取り戻すために。

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こちらは戦争が終息した後に続くそれによる爪痕を考える話。ケロイド治療という見える爪痕もあれば、それぞれの中で戦争を総括することを喚起する、心(頭)の中を整理、直視するといった見えない傷跡を検証する姿も見せている。

誰が正しい、ということは無い。それぞれの乙女の悩む声、苦しむ姿を真っ直ぐ見届けたい。

 

 「ガマ」ー今回の特別企画のために書き下ろされた新作。

 

*** 劇団サイトより *****

太平洋戦争最大にして最悪の地上戦「沖縄戦」
激戦地首里から数キロ北にそのガマはあった。

 

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沖縄本土復帰50周年ということで、このところ沖縄戦、戦後の沖縄を取り上げた作品が作られているが、こちらも沖縄戦の最中、避難したガマ(鍾乳洞)で一緒になった女子学徒隊の少女(清水緑)と中学校教師(西尾友樹)、そして立場が異なる軍人3人と現地の防衛隊の男(大和田獏)。彼らがうちなんちゅう(沖縄県民)は戦争についてどう考えていたか、そしてやまとんちゅう(大和=本土の日本人)に関してはどう思っていたのか、、それぞれの立場から論争を繰り広げる。

 

途中から、それぞれの立場を代表するような、言ってみればそれぞれの看板を背負い、決まりきった主張を繰り返す彼らに苛立ちを覚えた(少し退屈した)。緻密な資料収集&分析が古川の武器であるのだが、今回は(当日パンフに多数の資料が列記されていた)そんな資料の言葉が重すぎたのか、、、フィクションのプラスアルファのパワーが弱まっていたように感じた。

人は別の意見を聞いたときに、もっと逡巡したり、時に自分を振り返り迷ったりするのではないだろうか。そんな人としての葛藤、人間らしさが現れてもよかったかも。

劇中で1人自己主張を控え、周りの人の声に耳を傾ける人間、中年の地元の防衛隊がいたのだが、大和田の好演もあり彼の存在の仕方がリアルに感じられた。

 

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今回は全てを通しての観劇は叶わなかったのだが、おそらく全6編をこの夏の観劇イベントとして敢行した観客も多かったのでは無いだろうか。

それぞれの戦争、違った立場からみた戦争を描いたこれらの劇を一度に観るという貴重な機会として、大いに意義のある企画だったと確信している。