久しぶりの新大久保東京グローブ座で中山優馬(ジャニーズ所属だったんですね、知らなかった)主演の舞台「ダディ」を観た。

 

2021年に開催された第74回トニー賞で12部門にノミネートされた「Slave Play」の著者Jeremmy O. Harrisの自伝的作品— 実は彼の名前を一躍スターダムに押し上げた「Slave Play」よりも前に書かれたのがこの「Daddy」なのだが、メジャーでの上演はSlave Play の成功の後に実現している—で、劇作家Jeremmyの分身とも言える主人公、黒人でゲイの若いアーティスト、フランクリンがヨーロッパ系の白人アートコレクター、アンドレと出会い、その後彼のバックアップもありアート界の寵児となっていく様が描かれている。

 

南部出身のアフリカ系アメリカ人のフランクリン(中山)は敬虔なクリスチャンである母親ゾラ(神野三鈴)の厳格な教育のもと育てられ、今はL.A.で新進のアーティストとしての道を歩み始めていた。

初めての展示会の打ち上げパーティーで会ったヨーロピアン系の白人アートコレクター、アンドレに見染められ、彼からの申し出で、アンドレの温度管理されたプール付き高級アパートメントで一緒に暮らし始める。

フランクリンのエージェント、アレッシア(長野里美)は彼の才能を確信し、彼のさらなる売り出しを計画。アンドレからの経済的援助もあり、フランクリンはキャベツ人形ならぬ黒人ベイビーの人形作品で一躍アート界の期待の新人としてセレブ界の一員となる。

そんなおり、息子の成功を祝うためゾラがフランクリンを訪ねてくる。

アンドレと暮らす息子の様子を見て堕落した、と罵る母は昔、教会で唄っていた頃の可愛い息子はどこへ行ったのか、と迫る。一方、母の出現で迷っているフランクリンを見て苛立つアンドレ。二人の間で迷走するフランクリン。

アートを作るだけで満足していた日々にはもう戻れない、現実に直面し、心を痛める。

 

アートとビジネス(お金)、宗教を信じることの功罪、セレブとして成功することの功罪、愛するが故の束縛、アメリカ社会における黒人男性の立ち位置、そして「愛する」とは?、といった多方面の問いを含んだこの芝居、欧米で今一番の注目集める作家の作品だけあって大変面白く、3時間弱があっという間に(休憩を含む)過ぎた。

 

扱いが難しいプールもクレバーな処理でしっかりと水飛沫を撒き散らす(これは観てのお楽しみ)演出、さらにはアメリカ文化が色こく台詞に反映されている戯曲もしっかりと読み込んで、人物造形に反映させている小川絵梨子の演出が見事。

もしかしたら、近年の彼女の演出作品の中でも(芸術監督を務める新国立劇場を含め、数多く演出しているが)トップに入る完成度かも。

 

さらには役者陣が素晴らしく、ナイーブな若いアーティスト、でもって誰からも愛されるキャラの主人公を中山が好演。彼の歳上のパートナー兼パトロンアンドレを演じた大場泰正の適度なリッチマンのいやらしさもGood。そしてやっぱり何と言っても不動の頭ゴチゴチの母親ゾラを演じた神野三鈴が素晴らしい。

—手落ちがないように言っておくと、その他の役者たち、長野里美、原嘉孝、前島亜美、谷口あかり、菜々香 も適役で良かった。

 

残念なことに、まだまだチケットには余裕があるよう(観劇した日は空席があった)なので、時間が出来たら迷わずグローブ座へ直行することをオススメする。

 

こちら作者のJeremy O.Harrisさんへの単独インタビューです。

(後日、日本語でも掲載予定です)