世田谷パブリックシアターの小劇場、シアタートラムで小泉今日子が主宰の演劇プロデュース会社明後日(あさって)の新作舞台、岩松了作・演出の「青空は後悔の証し」を観た。

 

見事な日本のハロルド・ピンター(英国人のノーベル文学賞受賞作家・劇作家)芝居を観たという感想。—まるでピンターの「昔の日々」のよう!

 

キャストの中に風間杜夫の名前を見つけ、彼を2021年のベスト俳優に選んだこともあり、チケットを購入。

 

またもや名俳優の素晴らしい演技を堪能させていただいた。

 

***あらすじ***

初老の主人公ロウ(風間杜夫)が闘病をしながら暮らす高層マンションの最上階の1室。大きな窓から階下の都市の様子を見渡せるその部屋で、身の回りの世話をするお手伝いさんの玉田さん(佐藤直子)とたわいもない会話を交わしながら穏やかに暮らす彼のもとには息子夫婦(豊原功補と石田ひかり)が頻繁に訪れていた。

フリーランスライターの妻ソノコ(石田)はコラムの取材と称して玉田と音信不通になっている娘の話に耳を傾けている。会社が忙しい働き盛りのミキオ(豊原)は妻と父親からの家族招集に苛立ちを隠せない。また、彼は玉田の存在も煩わしさを感じているようだ。さらには夫婦の関係にもギスギスした雰囲気が、、、

そんな中、かつてパイロットとして活躍していたが今は隠居のロウに心おどる出来事が。

ひょんなことから、かつての部下で同僚と不倫関係にあった野々村という女性と何十年ぶりの再会が叶うかもしれないという状況が訪れたのだ。彼女の叶わぬ恋の相談役でもあったロウはかつての人生の華やかな時の忙しい日々を思い出し、彼女とのハッピーな再会を思い描き浮かれていた。どういうわけか、玉田もその再会に夢物語の結末を託していた。

その傍で、異様なほどに父親の再会に反対の声をあげる息子、そしてそんな一方的な夫の姿にため息をつく妻。

だが、再会直前に野々村が経営しているレストランで働いているという若い女性から連絡が入り、再会は延期されることに。さらに、ある晩、その若い娘ユキ(小野花梨)がロウの夢枕に立ち、彼の思い出について問いかける。

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パンフレットの中で、役者たちが演出家から受けた演出で印象に残っている言葉を話している箇所があるのだが、そこで岩松は「書いてある言葉、セリフは嘘だから。。。」「人間って過去も未来もあるでしょう?それを演じているんでしょう?」と役者たちに指示を出していたということだった。

 

確かに、人間が日々生きている中、嘘とまでいかなくても、人と人との関係において相手の顔を見ながら、また相手との関係性を頭に入れながら、その場その場で対応している—返事をしている、というのは誰もがやっていることだと思う。

ピンターの不思議な不条理劇の中でもしばしば現れる出来事なのだが、特にそこに時間軸(過去、現在、そして未来)が絡んでくると、その嘘—もしくは記憶違い、感じ方の違いの幅はもっと複雑に、そして違いの幅が大きなものになっていく。

 

この芝居の中では触れらていないのでわからないが、もしかしたら息子にとって父親と母親、、もしくは父親の女性関係で許せない記憶があるのかもしれない。息子夫婦の関係においても、二人の力関係に何らかの見えない圧力のようなものがあるのかもしれない。そしてその私たちからは見えないもとというのは、登場しない野々村さんの人生にも当然のことながらあるのだろう。

 

そんなわからないことだらけのこの近しい人たち、家族の話。

いかようにでも捉えられる、そこが演劇の自由度であり、深さなのだと感じた。

 

その中で、役者はあくまでもリアル(答えは与えないが、その存在自体がリアルであること)であり、その意味でやはり風間杜夫は名役者だと思う。