神奈川芸術劇場(KAAT)で小尻健太が1階の吹き抜けのスペース、アトリウムで踊るダンスプログラム「Study for Self/portrait 2022」を観た。

 

長塚圭史新芸術監督のミッションである「劇場を開く」の一環として、劇場の玄関ホールをもっと活用し、日本大通りの街を行き交う人々に中で起こっていることにもっと興味を持ってもらうという試みの一つ。

 

パフォーマンスの会場となったアトリウムの天井からは目も覚めるような蛍光色の光の柱が降り注ぎ—現代アートのアーティスト鬼頭健吾の「Lines」という作品ー床には様々な模様のカーペットがオランダのチューリップ畑のように列になって敷き詰められ、他には舞台セットはないダンスパフォーマンスでの小尻健太の身体一つでのパフォーマンスを彩っていた。ちなみにこの巨大オブジェに関してはいつでも無料で鑑賞できるようになっている。——さらに今年度の岸田國士戯曲賞受賞の山本卓卓(すぐる)による館内を巡回して、そこここに仕込まれた展示品を鑑賞する「オブジェクト・ストーリー」というエキジビジョンも同時期に無料で公開しているのだが、今回のダンス開始の時間には展示場所が閉鎖されていて(展示は10-18時オープン)見る事は出来なかった。

 

レッスン着のようなシンプルな姿で登場した小尻。劇場の外のライブの音(車が通り過ぎる音など)に加え、どこかの町で録音されたインタビュー音声、彼のモノローグ音声などが途切れ途切れに聞こえるぐらいの音量で流される中、一つ一つの動作を確認するように丁寧に身体を伸縮し、ジャンプし、舞う。劇場空間ではないので、手の届く距離で、目の前で一流ダンサーの身体の動き、筋肉の張りまで感じられるこの鑑賞体験は貴重だ。子供はチケット代が500円(大人2,000円)という事で、ダンス好きの母親と一緒にやってきた子供達がプロのダンサーのお仕事を間近に見るチャンスを与えられ、このような企画を公共劇場でもっとやってもらいたい。——— そもそも、劇場の外から中を覗けばこのダンスパフォーマンスもタダでチラ見することができるし。

 

「Study for Self/portrait 2022」は彼が2017年から続けているシリーズ作品で、その時々の踊る場にあわせ、その場・会場の歴史や背景を汲んで作品に落とし込んだサイトスペシフィック・パフォーマンスというスタイルをとっている。今回はKAATの入り口スペースで踊るダンスということで、「劇場」をテーマに劇場に関わる自身の思い出、インスピレーションなどを表現している。

 

世界トップのダンスカンパニーNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)に日本人男性で初めて入団した経歴を持つ小尻の劇場への想いはそのNDTの本拠地であるルーセント・ダンス・シアターへのものが多くあった。

 

コンテンポラリー・ダンスに精通した観客は、そのオランダの劇場について、そして彼のこれまでのキャリアについて思いかえしていたようだ(帰り道にその話を聞く機会に恵まれた)。