吉祥寺シアターで長塚圭史率いる阿佐ヶ谷スパイダースの新作「老いと建築」を観た。

 

Nylon100℃の人気女優で、2017年に劇団として再(?)出発した阿佐ヶ谷スパイダースの団員でもある村岡希美が演じる老婆が中心の物語。身体の自由がきかなくなってきたその老婆が住んでいる一軒家をバリヤフリーに改築していこうという話がきっかけになり、息子と娘、息子の若い彼女、娘の孫2人ら3世代の家族が久しぶりに集まったところで、それぞれの思惑、記憶の取り違えなどから衝突が起こる。家族の長い歴史があり、一方で現実には老いて身体も記憶も弱ってきている母親が目の前にいる。

 

舞台中央に家族が団欒する大きな楕円形の立派な木のテーブル。そのテーブルを挟むようにラグビーのゴールポールのような木のついたて、その奥には同じ木彫の階段が見える。それらの家具だけで、いかに家の調度品や設計が丁寧になされたのか、老婆がこの家に愛着があるのか、が伝わってくる。

 

徐々に記憶がポロポロとぬけていく老婆、彼女の記憶と働き盛りの子供達の今だから昔を振り返る記憶、そして家にはほとんど思い出、記憶のない孫たちの家に対する思い、それらが複雑に交差したり、衝突したりする。

 

2014年に長塚が演出した英国作家、ハロルド・ピンターの人々の記憶に関する劇作を思い出した。(長塚は「背信」を演出)

 

人の人生の割り切れなさ、どうにもならない過ち、時間が解決してくれること、そして時間が経ってもどうにもならないこと。。。

 

人のわからなさを(心で)わかるように描いてくれる、そんな傑作舞台だった。