新国立劇場で芸術監督小川絵梨子演出の井上ひさし芝居「キネマの天地」を観た。

 

「キネマの天地」というと1986年松竹大船撮影所50周年記念で作られた映画がパッと頭に浮かぶがこちらはその映画の後に劇場版として新たに井上ひさしが書き下ろしたもので、内容は映画とは異なり、犯人探しのミステリーを外側に、その中身は映画界、俳優業の業界・内輪話が満載の喜劇となっている。

 

2011年に井上ひさしの劇団、こまつ座で上演した舞台を観た感想がこちらに載っているので↓どうぞ。

 

 
映画が大船撮影所で松竹のスター新人女優が誕生するまでを、映画の聖地である撮影所を紹介しながら、独特な映画業界の裏話などをおりこみ、記念映画らしく華々しく、大勢のスター俳優を配して(主人公の女優の卵は新人の有森也実が演じた)娯楽作品としてみせた作品だったが、劇場版では4人の年代が少しずつ違う看板女優たち(高橋恵子、那須佐代子、鈴木杏、趣里)と、映画監督(千葉哲也)と助監督(章平)、そして万年下積み役者で監督の協力者(佐藤誓)の7人だけで、閉ざされた空間の中で女優という人たちについての秘密のベールを引っぺがして、最後には映画にかけた人たちの作品づくりへの思いを込めている。
 
初演(1986年)は日生劇場で、商業演劇娯楽作として上演された経緯もあり、井上作品ではあるが、そこに社会批判、政治色、歴史の検証・反省などはなく、あくまでもみんなが日比谷の大劇場で楽しめる喜劇になっている。
 
とは言え、井上カラーはその緻密に練られた台詞の中に確実に見ることが出来て、例えば、幕開け後、各女優が各々の人気シリーズの映画の題名を列挙するシーン、そのバカバカしくも可笑しいタイトル、それでいてちゃんとシリーズとして韻を踏んでいるあたり、最終稿までには様々な案が出たり入ったりしたのだろうなと想像出来る。
 
主役である4人の女優たちがはまり役だ。押しも押されぬ大女優の高橋、根強いファンを持つ演技派女優の那須、新しい時代の顔、絶賛売り出し中の女優鈴木、、、と一人一人の個性が立っている。
新人女優の趣里はコケテッシュな魅力で、昭和とはちょっと合わないが、独特のコメディエンヌぶりを発揮している。
また助監督役の章平も強い印象を残していた。
 
新国立劇場には珍しくカーテンコールでスタンディングで拍手をしているお客さんもいたということは、兎にも角にもお客様にはエンタメを喜んでもらえたということだと思う。 —どこかのサイトで「人の思うちから」というこの演目が入っているシリーズ名に関して、疑問を投げかけるコメントがあったが、確かにそれについては???と思うところ。