これで今年のSPACふじのくにせかい演劇祭はコンプリート。

 

南フランス、アヴィニヨンで毎年開催されれている世界最大級の演劇祭、アヴィニヨンフェスティバルの2017年オープニングプログラムとして世界へ向けて上演された(プレ公演としてその直前に今回と同じ駿府城内の特設ステージで上演されてはいるが)宮城聰演出の「アンティゴネ」。アジア人初の快挙をこの眼で、、、とアヴィニヨンまで駆けつけ、目撃した。

 

漆黒の空に月明かりが優しく差し込む街の中心、法王庁広場に作られた特設劇場に集まってきた世界中の演劇好きたちが2時間後には心を一つにして世界平和に思いを馳せるという、そんなおとぎ話のような時間を過ごしたのが4年前。

その魔法のような時間は今年の駿府城の特設ステージにも生まれていた。

 

その時の様子はこちらのリンクから感じることが出来ます。(ロンドンの劇場でSPAC、宮城さんの活動が紹介された映像)

 
アヴィニヨンの屋外特設劇場とおそらくほぼ同じサイズの(そのように感じた)舞台エリア。もちろん同じようにその大部分に水が張られ、客入れ時から(亡者である)役者たちはそろりそろりと水の中を徘徊している。*このあたりの説明がリンクのビデオの中で演出家によりされているのでご参照いただきたい。
その背後には、こちらも法王庁の壁面と同じぐらいの高さの足場が組まれ、そこには黒いネットが張られている。
その中央に、字幕を映す英語字幕版が設置され(この字幕の位置、そして精度がとてもよかった)、また夜が更け暗闇が濃くなってくる後半ではその背面に水辺で演じている役者たちの影が投影されるようになっている。
ただ、アヴィニヨンと違うのはそのまた後ろに連なる日本の山々の影。やはりここは静岡、駿府城内の劇場なのだと思い起こされた。
 
そんな中、鳴り物を手に役者たちが登場し、アンティゴネの物語を語り始める。
有名なギリシャ悲劇の一つである「アンティゴネ」だが、言ってしまえばそのストーリーはいたってシンプルだ。そこで宮城は冒頭にそのあらすじを一気に説明し、その後に続く役者たちの演技から、彼女(アンティゴネ)が貫き通した信念の崇高さ、また日々の暮らしの中で社会通年に流されがちな我々人間の愚かさを身体で、眼で、耳で実際に感じとってもらうようにたっぷりと時間をかけて魅せていく。
 
この舞台を観て、アンティゴネは人としてのDignity(尊厳・品格)とは、という話なのだと思った。その人として生きる中でその根底にあるもの、これだけは譲れない。。。アンティゴネが命をかけたDignityを美加理を通し伝えている。そんな基本の「キ」はいつの世にあっても変わらず、それを考えると、この芝居(舞台)も今後ずっと「こんな舞台があった」と伝説となって受け継がれていく行くのだろう、とそんな100年先を想起させる舞台であった。
 
ラストで人が隊列をなして祈りの踊りを(盆踊り)ゆったりと踏むシーンでは太古の記憶が未来へと続く、そんなスケールの大きさを感じ、それを目撃する場にいられる幸せをかみしめた。
 
国境を超え、人という生き物としての理想のカタチ・心持ちを示してくれたこの宮城聰&SPAC創作の作品が国々で観ている人たちの心に訴えかけているというこの事実にどうしようもない人間たちの未来を託したいと思う。