対談者:松岡正剛さん × 佐藤 優さん
雑誌『中央公論』2017年9月号 p.117 - 119
◎ アメリカのポストモダンは …
松岡正剛さん:さて、これまで取り上げて来なかった、アメリカの思想を見ていきましょうか。僕は先ずチャールズ・パースの記号論、次にプラグマティズム、そしてアブダクション理論。この三つを重視したいですね。これらはやがてアメリカの分析哲学となって、クワインやローティ、ディヴィッドソンらの議論を作りましたね。
佐藤 優さん:アメリカの分析哲学という分野を、日本に知らしめたのは廣松 渉さんだと僕は思っています。70年代の五木寛之さんとの対談の中で、廣松さんは哲学には大きく分けて三つの流れがあると指摘します。マルクス主義哲学、実存主義哲学、分析哲学です。そして、分析哲学とは言語であり、論理であることを丁寧に説明されています。
📖 第82冊『哲学に何ができるか』 1978
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哲学に何ができるか (中公文庫)
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佐藤:ところで、分析哲学で良い本と言えば何でしょうかね。
松岡:僕はフレーゲの "概念記法" を出発点にして、ライル、カルナップ、そしてクワインに進んだのですが。今思うと矢張り、ローティですかね。
📖 第83冊『哲学と自然の鏡』 1979
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哲学と自然の鏡
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佐藤:うーん。これは難しいですね。
松岡:そもそもアメリカのポストモダンには、欧州とは違う発展の仕方があります。それはポスト・インダストリーという発想があったからなのです。
とりわけ60年代から70年代にかけて、ダニエル・ベルは三部作になる著作を執筆して、工業に代わって、知識・情報・サービス産業が重要な役割を果たす "脱工業社会" が出現すると提唱します。
📖 第84冊『脱工業社会の到来』 1973
1972年にはMIT (マサチューセッツ工科大学) のメドウズらが、ローマクラブ(民間シンクタンク) の委託を受けて「成長の限界」を発表します。このレポートは、高度成長を享受していた先進諸国に猛省を促しました。
1972年(昭和47年)
このように、構造主義からポストモダンへと至った欧州とは違って、米国の脱近代はポスト・インダストリーとオルタナティブという思想から出て来る訳です。そうすると、日々の言語とコミュニケーションが大事になるのですが、そこをアメリカの分析哲学は衝くのですね。
佐藤:フォードが大衆車の大量生産と販売を行う過程で確立した経営理念を理解せずには、脱フォーディズムもまた理解できないということです。
松岡:そうですね。そのうえアメリカは、産業技術そのもののイノベーションからも思想を創ろうとして来たのですよ。
アメリカ軍部で弾道研究をしていたノーバート・ウィーナーは、いち早く情報社会の到来を予見していました。その後を、人工知能の草分けとして知られていたハーバート・サイモンが続きます。これらは技術システムの中に "世界" を見るという思想ですね。
📖 第85冊『サイバネティックス』 1948
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ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)
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📖 第86冊『システムの科学』 1969
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1986年になると、人工知能科学者のマーヴィン・ミンスキーが、心はどう働くのかについて考察し、心とは、一つひとつは心を持たない小さなエージェント達が集まって出来た社会だと指摘します。つまり、システムの中でエージェントが組み合わさって動いているうちに、心と知能が生じるという訳なのです。
📖 第87冊『心の社会』 1986
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佐藤:人工知能の発展の為に、その一環として、人間の脳と心の動きを解明する研究が為されている訳ですね。
松岡:ええ、それは、そうではあるんですがね。これらは未だ未だ統合されてはいないのですよ。こうした仕事は是非、東 浩紀さん達の世代に取り組んで貰いたいと思います。
📖 第88冊『ゲンロン0 観光客の哲学』 2017
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ゲンロン0 観光客の哲学
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📻 気まぐれBGM
ギタリストのロバート・クワイン(禿頭に黒眼鏡)さんは、アメリカの哲学者クワインの甥っ子だそうです。それが何?と言われれば、それ迄なのですが … 。
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