竹林に風が吹いた。ラオンは、爽やかな風の真ん中に立っていた。顔の上から降り注ぐ風の感触に、ラオンはそっと口を横に長く伸ばした。静かに目を閉じると、全身で風を感じた。
気持ちいい。
風に、ほのかな香りが伝わった。どこか、麝香の香りのようで、また、夏野原に咲いた菜の花に似た香りでもあった。
誰かしら?この香りの主は・・?
ラオンは、香りが感じられる方へと目を向けた。しかし、突然周りの風景が急激に変化した。高貴な気品漂う、部屋の中だった。
ここは・・・・・!
「何をしているのですか?ホン内官。早く頭を下げて。」
その時、チャン内官の切羽詰まった声が聞こえてきた。振り返ると、床にべたっと伏せたまま、手振りを見せてきた。すぐに、扉の外で朗々とした声が聞こえてきた。
「世子邸下が参られます。」
ラオンは急いで床に伏せた。扉が開かれると、静かな足音が聞こえてきた。それから、足音と共に、一筋の風が吹いてきた。
ちょっと前に感じていた、ほのかな香りだ。
ラオンはそっと目を閉じた。
この香り。とってもいい。
人の心を柔らかく包むように、暖かくなるような、そんなかすかな香りだった。
厳しくて恐ろしいという世子邸下の香りが、暖かく感じるなんて。本当に妙なことだった。ところで、この香り・・・・・どこかで、嗅いだことがあるみたいなんだけど・・・。
ラオンは、かすかな記憶の片鱗を探り始めた。
まさにその時だった。
「頭を上げよ。」
世子邸下の声がラオンの頭の上から聞こえてきた。
「畏れ多くもそのようなことはできません。」
ラオンが答えた。すると、断固とした命がまた下された。
「頭を上げよ。」
ラオンは慎重に、頭を上げた。
「あ!」
ふと、彼女の口から小さな悲鳴が漏れた。なんと、ラオンの前にいる人は・・・・・世子邸下ではなく、花草書生だった。
「花草書生(ファッチョソセン)?こんなところへどうされたのですか?」
ラオンの問いに、花草書生は、冷たい顔の上に笑みを浮かべた。普段とは全く違う、悪戯っ子のような笑顔。妙にその笑顔は、気楽で、身近に感じられた。子供のように無邪気に笑っていた彼が、ふと手を差し出した。彼の指が、ラオンの唇に触れた。その上、その指を、今度は自分の唇へと持って行った。ラオンは驚いて言った。
「な・・何をされるのですか?」
「本当に記憶がないのか?」
まさか。唇が触れたことを言っているの?
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オモオモ??
ちょっと楽しいのでここで区切ります(笑)あはは~