ロマンティックを探そうよ! ~let's look for romantic!~ -3ページ目

ロマンティックを探そうよ! ~let's look for romantic!~

ちいさなロマンティック、いっしょに集めましょう!

 
 
 
 
 
 
世の中の
 
 
善と
 
 
惡とを
 
 
比ぶれば
 
 
恥ずかしながら
 
 
惡が勝つ
 
 
神も
 
 
仏も
 
 
無ぇものか …
 
 
浜の真砂は尽きるとも
 
 
尽きぬ恨みの数々を
 
 
はらす仕事の裏稼業
 
 
へへッ
 
 
お釈迦さぁでも
 
 
気がつくめぇ …

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ

 

ちょいと

 

お兄さんッ

 

ご覧なさいな

 

ほらほらぁ〜

 

ふたり仲良く

 

おんなじ升に

 

とまりましたぇ

 

……

 

はてさて

 

ナニが書かれているのやら

 

えーと

 

 

 大嵐

 

宿にて脚止め

 

ひと休み

 

 …

 

ですッてぇ

 

越すに

 

越されぬ

 

大井川

 

ッてトコかしらン

 

ウフフ

 

 

さぁて

 

どうしたもンかねぇ

 

 

ン ?

 

男と女が ?

 

ひとつやに ?

 

差し向かいとくりゃあ ?

 

するこたぁひとつだ ?

 

 

床に這入ろう ?

 

……

 

ンもうッ

 

ナニ言ってンのさぁ

 

ほ~ンと

 

好兵衛さんなンだからッ

 

 

だぁッてェ

 

ほらぁ

 

まだまだ

 

酔いもまわらぬ

 

宵の口

 

 

濡れごとは

 

この雙六を

 

あがってからの

 

お楽しみッ

 

……

 

もっとも

 

お兄さんが

 

ご無事で

 

あがられたらの

 

おはなしですけどッ

 

アハハ

 

……

 

でも

 

まぁ

 

長い道中

 

行く手には

 

山あり

 

谷あり

 

物の怪棲まう

 

里もあり

 

 

はじめたばかりの旅だけど

 

此処で

 

ひと息いれますか

 

 

さあさあ

 

お兄さん

 

お熱いのを

 

おひとつど〜ぞッ

 

……

 

ン ?

 

どうしたのサ ?

 

……

 

酒よりも ?

 

妾の

 

なさけのみず ( 肉水 ) が欲しい ?

 

……

 

ダメダメッ

 

いま言ったぢゃないかぁ

 

“ いたす ” のは

 

無事あがりに

 

辿り着けたらッてサ

 

ネ ?

 

そしたらぁ

 

妾のぉ

 

お乳でもぉ

 

おさねでもぉ

 

好きにさしたげるからサ

 

ウフフッ

 

……

 

え ?

 

こんな旨そうな

 

馳走を前に

 

据え膳食わぬは

 

男の恥だ ?

 

 

おやまあ

 

ずいぶんと

 

買いかぶッて

 

おくれぢゃあないかい ?

 

 

うれしいけどサ

 

生娘を

 

捧げようッてンぢゃあ

 

あるまいし

 

ええ

 

ええ

 

もうすっかり

 

阿婆擦れちまった

 

粗末な膳にございます

 

ウフッ

 

 

だからァ

 

此処はひとつ

 

武士は食わねど高楊枝ッてネ

 

辛抱なさいな

 

お兄さんッ

 

アハハ〜

 

……

 

ン ?

 

粗膳すら ?

 

据えてもらったコトがない ?

 

ひもじくて

 

ひもじくて

 

もうくたばりそうだ ?

 

 

あのねぇ

 

空きっ腹ッてのは

 

どんなモンだって

 

旨く喰えちまうのサ

 

辛抱

 

辛抱ッ

 

……

 

ココでくたばるなら ?

 

せめて末期は ?

 

観音サマ拝ンで ?

 

極楽浄土へ逝きたい ?

 

……

 

ふ〜ン

 

よっぽどの

 

女日照なンだねぇ

 

気の毒に

 

……

 

けどねぇ

 

おあいにくさまッ

 

妾の

 

濡れ観音は

 

秘仏なのサ

 

だから

 

滅多矢鱈と

 

ご開帳とは

 

いかないンだよ

 

フフフ

 

……

 

ねぇ

 

そンな眼で

 

見ないどくれよぉ

 

……

 

このとおり後生だ ?

 

……

 

なンだい

 

なンだい

 

こんどは

 

泣き落としかい

 

妾ァ

 

そンなに安かァないよッ

 

……

 

ヤダ

 

ちょいとおよしよ

 

土下座なンか

 

みっともないッ

 

……

 

アタマ下げて叶うなら ?

 

鰯のアタマにだって

 

下げてやる ?

 

……

 

ほぉらぁ

 

オトコが下がるよ

 

お兄さんッ

 

……

 

え ?

 

オトコだったら ?

 

いつも股の間に

 

ぶら下げてらァ ?

 

……

 

ナニつまんないコト

 

言ってンのサ

 

……

 

はぁ~

 

しょうがないねぇ

 

……

 

男と

 

女が

 

いっしょのお宿に

 

脚止めされちゃぁ

 

床入りするのは

 

天地自然の理

 

……

 

そのじつ

 

妾も

 

ご無沙汰で

 

……

 

身体が

 

疼いておりますのサ

 

……

 

そういえばぁ

 

美斗ノ麻具波比セム

 

ッてさぁ

 

神代のむかしから

 

イザナギさんだか

 

イザナミさんだか

 

たいそうご立派な

 

神サマですら

 

辛抱できなかった

 

ッてゆうぢゃないか

 

アハハッ

 

……

 

妾らに

 

こらえろッてのが

 

どだい無理な話サ

 

……

 

避けちゃあ

 

通れないンだねぇ

 

……

 

お〜や

 

いま泣いた烏が

 

もう笑ってるよ

 

 

ンもぅ

 

ドコさわってンのさぁ

 

……

 

はぁン

 

……

 

ダァメ

 

……

 

お兄さん

 

ここぢゃあ

 

イヤ

 

……

 

寝間に

 

お床の支度を

 

いたしますからぁ

 

……

 

あわてなくても

 

今宵は長く

 

なりますぇ

 

……

 

だからァ

 

……

 

ふたりきりの

 

……

 

水入らず

 

……

 

挿しつ

 

……

 

挿されつ

 

……

 

わかめ酒

 

……

 

たっぷり

 

……

 

注いで

 

……

 

くださいな

 

……

 

フフフ

 

……

 

ちょいと

 

一貫

 

貸しましたぁ

 

……

 

あッ

 

 

あァン

 

……

 

 

 

 

 

 

 

今は昔

遥か唐天竺の涯

西方浄土よりなほ遠き

庫魯什國王 ( クルシュ ) の治むる

波斯國( ペルシア ) に

瑣羅亞斯德 ( ゾロアスター ) なる

僧正在りし

恩に報ひ徳に謝す

清く正しき人なりき

 

或とき

天の聲したため

經文 ( アヴェスターグ )

あらはしき

 

其に拠らば

世に善と惡との神在りし

阿胡衚拉馬茲達 ( アフラマズダー) なる

善き神

阿裡曼 ( アーリマン ) なる

惡しき神

二柱の神は爭ひたり

 

やがて

大焔 ( ほむら ) をもちて

雪山 ( ヒマラヤ ) 融かし

大海 ( ペルシア湾 ) 枯らす

世の終いとなりしとき

いずくんや

彌勒 ( 救世主 ) 來りて

笛吹きたまふ

 

しかうしてのち

惡しき神

滅せられん

 

裁かれしは

惡神のみにあらず

惡に順ひ

心捧げし者も裁かるる

 

善き神は光明に在り

惡しき神は闇に潛む

人の理も斯くの如し

眞なる理は天照らし

邪なる理は天閉ざす

 

善き心保つには

焔拜みたまへと云ふ

火焔よりあらはれし神

邪心燒き盡くしたまふ

 

然れど

常に心を懸けざりなば

惡神まじりて

人を亂らんと謀るる

 

人亂るるに

世亂れはべり

世亂るるに

惡榮ゆはべり

 

惡に滿ちたる世は

救はれず

ただ消えはつるなり

 

あなかしこ

 

あなかしこ

 

 

 

 

大山は

相模國の

ほぼ中央に聳えている

 

西方の冨士より

連綿と続く山並みは

この大山が最先峰となり

その裾から

関八州への平野が

広がっている

 

相模國の

最高峰であり

堂々たる

三角錐 ( ピラミッド ) の山容は

街道 ( 東海道 ) をゆく旅人や

相模灘を航行する船舶の

陸標 ( ランドマーク ) でもあった

 

大山はまた

古より

神宿る霊峰として

崇敬されてきた

その故由は

正史によらば

遥か

平城の世にまで遡る

 

平城京

東大寺初代別当

良辯 ( ろうべん ) が

大山寺を開創し

神祇との習合

修験の隆盛と

幾多の曲折を経て

後の大山信仰が

形づくられたのであった

 

万葉の歌人にも詠われた

その雄姿は

悠久の時の流れにも

かわることなく

相州の主座を誇っている

 

 

 

 

相模嶺の

  雄峯見過ぐし

   忘れ來る

    妹が名呼びて

     吾を哭しなくな

 

 

大山の麓に

伊勢の國の何某かが

原野を開墾し

その出自に因み名付けた

比較的新しい在がある

 

伊勢原という

その新開地は

周辺に

岡崎

高部屋

板戸など

古くからの在があるなか

大山の門前として

興起する兆しをみせていた

 

乱世を収束し

徳川の統治となると

大山は苛烈な粛清をうける

 

なぜなら

戦国の頃

大山の修験者は

山岳で鍛え上げた

屈強な肉体と

忍をはるかに上回る

諜報力を武器に

小田原の北条に加担し

徳川・豊臣の連合軍と

対峙したからであった

 

伊豆國において

呆気なく敗残するも

徳川は

大山修験道の

潜在能力を

懼れつづけていた

 

そのため

山から

その勢力を一掃し

支配下に置くことを

幕藩体制安定のための

重要案件のひとつとし

素早く着手する

 

先ずは

寺領を剥奪し

経済的基盤である

山林・檀場・諸堂等の権利を

書き換えた

 

さらに

宗派を

台蜜 ( 天台宗 ) から

東蜜 ( 真言宗 ) へと

転宗させ

北条色を一新する

 

くすぶる反幕勢力と

漂泊の民との

接触を警戒し

監視の強化と

森林資源輸送のための

街道整備も進捗させた

 

結果

江戸をはじめ

関八州一円

信州

甲州

遠州からの

幾筋もの道が

この伊勢原で

合流することとなった

 

いつしか

山麓へとつづく

本参道沿いには

旅籠や宿坊が

建ちならび

狭隘ながらも

宿場の様相を呈しはじめた

 

利便性 ( アクセス ) が

飛躍的に向上した伊勢原は

為政者の思惑とは裏腹に

豈図らんや

市井の民の

行楽の地として

活況を催すこととなった

 

 

 

 

雨情寺は

山号をもたぬ

古刹である

 

この地が

伊勢原と

呼ばれるよりも遥か昔から

野に

ひっそりと佇んでいた

 

寺の縁起は

大山寺と

時を同じくし

開基されたと伝えるが

定かではない

 

大山は

またの名を

雨降山 ( あぶりさん ) と云い

寺号にある “ 雨 ” の文字は

そこに由来するものと

推し量ることができる

 

高僧の輩出も

政 ( まつりごと ) との関わりも

皆無ではあるが

その寺歴は

名刹にも

けっして引けをとらない

 

しかし

 

禍乱を食らうこともなく

千歳もの

時の過ぎゆくままに

ここに在る雨情寺は

いま

荒れるに任せ

まさに廃寺のごとく

雨に濡れていた

 

いつの頃からか

住職が姿を消し

寺を預かる者もない

 

かつては

板戸

比々多の在に

僅かながら檀徒もあったが

冠大明神 ( 比々多神社 )や

伊勢の國の祭神を勧請し

新たに創建された神宮に

仏徒を奪われてしまっていた

 

大山道が賑わうなか

雨情寺は

在の隅へと追いやられ

野に晒されていた

 

 

 

 

書紀に拠らば

夏四月

吐火羅國 ( トカーレスターン) 男人

舎衛國 ( シュラーヴァスティー ) 女人

風に蒙ひて

日向 ( ひむか ) に

流れ來たり

 

幾歳を経て

來朝し

皇尊へ珍異しき等物

奉げ進る

 

世尊の石鉢

蓬莱の玉枝

火鼠の皮衣
龍頸の五玉
燕の子安貝

 

皇尊むがしけり

なかにも目にゐしは

 

祆神の黄金剣

 

なる

いと麗しき剣なりき

 

舎衛の女人いはく

我らが神

阿胡衚拉馬茲達 ( アフラマズダー) の

剣なり

善き心保つもの

剣をもちて

惡を絶つなり

 

されど

風に蒙ひ

浪に漂ひ

いま一刀を失ひけり

 

其は

惡しき神

阿裡曼 ( アーリマン )  の

邪剣なり

 

もし邪な心穢すもの

剣もちけらば

世亂れ惡満つるなり

さだめて

とぶらふべし

 

女人いはく

 

我は

波斯國( ペルシア )  の

姫なり

 

漂い泊まれり

日向にて

孕みけり

 

我胎に

彌勒 ( 救世主 ) 宿りにけり

 

やがて

世を救ふものとならむ

 

 

風は西より吹きにけり

 

 

 

 

七重八重

  花は咲けども

    山吹の

      実のひとつだに

        なきぞ悲しき

 

 

肘まくらで

板床に寝そべりながら

書物をめくっていた男は

軒先から滴る雨水へ

格子越しに目をやった

 

風鐸も落ち軒反りもくずれ

雨水がとめどなく

沓石を打つ

 

割れ瓦から

染み込んだ雨が

脇陣の天板を

等間隔に叩く

 

堂内の湿気が

にわかに高まった

 

永く風雨に耐えた

向拝柱の足元も

心もとなく

天板も大きく撓み

いつ屋根が落ちても

不思議はない

 

男は腕を替え

寝返りをうつ

 

木彫りの本尊

大日如来像が

格天井から入り込む

薄明かりに

煤汚れた面相を

男に向けていた

 

けッ

俺は坊主じゃあねぇンだ

念仏は唱えられねえぜ

 

男は

経蔵から拾ってきた

古い書物を閉じると

そのおもてを

今いちど

しげしげと眺めた

 

『 西域拝火伝 』

 

退屈しのぎに

何とは無し

文字を追い始めたのだが

いつの間にやら惹きこまれ

気がつけば

一時余りもたっている

 

片手で書を

やおら経机に抛ると

上体をおこし

大欠伸とともに

伸びをする

 

まったく

よく降りやがる …

 

眼をしばたたくと

不精に伸びた剃髪を

掌で撫でる

 

闍梨闍梨 ( ジャリジャリ ) とした

擦過音が

男の耳奥にひろがった

 

伊勢原には雨が多い

 

二里ほど離れた

相模灘から

暖かな南風が吹くと

大山に雲が懸かり

時置かずして

野面 ( のもせ ) を濡らす

 

しかしそれは

決して陰鬱な雨ではない

 

春は芽吹きをうながし

夏は炎天に涼をもたらす

秋は山を彩らせ

冬は一雨ごとに風温ませる

 

四季折々

大地を潤す

恵みの雨なのだ

 

男は

一間格子の戸を引くと

素足のまま表にでた

 

雨は小降りになったが

しとどに濡れた

三和土 ( たたき ) に

構わず腰をおろすと

作務衣の袂から

煙管をとりだし火をつける

 

雁首から昇る煙を

ぼんやりと

ながめながら

男は

この寺に流れつくまでの

己の身を追念した

 

正雪の乱より

三十年 ( みそとせ )

爾来

綿密に謀をめぐらせたはずが

まるで

おのずから罠へと

飛びこむかの如く

しくじりに終わる

 

身延参りに紛れ

命からがら

江戸を脱し

高尾の山中から

中津川を下り

八菅 ( はすげ ) 修験に

身をあずけた

 

暫し

山窩 ( サンカ ) とともに

潜伏ののち

大山修験の手筈により

ここ

雨情寺へと辿りつくまでに

七たび

梅香を嗅いだ

 

 

梅が香を

  袖にうつして

    とどめてば

      春はすぐとも

        形見ならまし

 

 

誰かが

葵 ( 徳川 ) と

通じていやがったんだ …

 

思い返すも腹立たしく

奥歯を強く噛み締めた

 

和尚 …

 

庫裡の陰から声がする

 

和尚

梅安和尚 …

 

男はようやく

我にかえる

 

おっといかん

俺はここの和尚だったな

 

ええかげん

自覚したってや

 

修験道の装いをした三人が

班蓋を目深に被り現われ

口元にそろいの笑みを浮かべた

 

なんでい

笈まで担いで

旅にでも出るみてぇじゃねえか

 

そうでっせ …

上方もどりますねん

 

梅安の問いかけに

真ん中の男が答えた

 

糸雨の音が判ぜられるほど

沈黙ののち

修験が声をひそめた

 

四代目 ( 将軍 ) が

逝きはりました …

 

梅安の瞳が僅かにひらく

 

慈聖院が …

動きまっせ …

 

 

 

五古鈴が幽かに鳴った

 

 

 

 

 

 

 

 

これより

 

幕間と

 

相成りまする

 

直しの柝の音が響くまで

 

しばしお待を …

 

 

 

from Noah ♥

 

 

 

※参考文献 : 川島敏郎氏著 「大山詣り」 有隣新書