田原俊彦『男痛い』
1.誰も聴かないDJの天使のように美しい心
(作詞:阿久悠 作曲:中崎英也 編曲:大村憲司)
2.危険なハネムーン
(作詞:阿久悠 作曲:大野克夫 編曲:大村憲司)
3.ライバルは二度ノックする
(作詞:阿久悠 作曲:来生たかお 編曲:新田一郎)
4.OVER HEAT悪童連
(作詞:阿久悠 作曲:梅垣達志 編曲:水谷公生)
5.MRS サマータイム
(作詞:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:大谷和夫)
6.踊る王子-Dancing Prince-
(作詞:阿久悠 作曲:来生たかお 編曲:新田一郎)
7.ド真中を撃て!
(作詞:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:大谷和夫)
8.Happy-endリバイバル
(作詞:阿久悠 作曲:中崎英也 編曲:松原正樹)
9.ワンチャンス倶楽部
(作詞:阿久悠 作曲:中崎英也 編曲:水谷公生)
10.45階のスローバラード
(作詞:阿久悠 作曲:大野克夫 編曲:松原正樹)
■1986年リリース、田原俊彦の12作目のオリジナル・アルバム『男…痛い』。
まずは、何より田原氏の作品の中でも群を抜いてお洒落なジャケットであること、まずこれが1つ。
そして、
≪来生たかお×ソウル・ミュージック≫ という最強の配合を発明しているところ、これがもう1つ。
これらが【ハイク・ポップ(High-Quality POPS)の名盤】として当店でも売り出さずにはいられなかった理由でございます。
郷ひろみ然り、西城秀樹然り、
キャラクターとしての人気、そして連発されるヒット曲といった“タレント的”な全盛期を過ぎた後、
次の段階として“音楽的”な面での全盛期に突入することになる歌手が一定数存在する中、
田原俊彦に関しても80年代後期はそんな時期だったのではないかと鑑みています。
“デジタル・ファンク”的な要素を取り込んだ85年作『Don't disturb』を皮切りに、加藤和彦などを招いた85年作『失恋美学』、
そして阿久悠をプロデューサーに招いて制作された『男…痛い』と『目で殺す』、
そして全曲が筒美京平先生の作曲による『Yesterday My Love』、
といったアルバム群がその音楽全盛期にあたる作品なんだと思います。
というのを踏まえた上での本稿の『男…痛い』。
冒頭で前置きした一つ《ジャケがオシャレ》について。
ファッショナブルな衣装に身を包み、奇抜なポージングをとり、
商業写真の様に広告的なヴィジュアルでまず目を引きます。
CMのコピーみたいなアルバムタイトル『男…痛い』がアルファベット表記で配置されていて、
ほんと広告っぽくて、おしゃれ。
ジャニーズアイドル作品のレコードジャケットとしては良い意味で“異質”なお洒落さではないでしょうか。
これほどのスタイリッシュさと言ったら、後のSMAPアートワークくらいしか思いつきません。
洗練された音楽を、洗練されたアートワークと共に
といった思惑なのは自明の理。
そして幕を開けるTr.1「誰も聴かないDJの天使のように美しい心」。
タイトル、おしゃれ。
よく意味が分からないところもまた、おしゃれ。
グラム・ロックを経由した“シンセ・ロック”のサウンドと、綿密に編まれた歌謡的メロディーの組み合わせには、
新旧リスナーを取り込まんとする間口の広さを感じます。
曲、おしゃれ。
そしてその他全曲、おしゃれ。
全曲がおしゃれな中でも1つ頭抜けて素晴らしいのが、
冒頭でもう一つ前置きしていた≪来生たかお×ソウル・ミュージック≫のTr.6「踊る王子」。
当時SSWとしてもヒット作家としても絶頂期であった来生たかお氏の、脂の乗った名メロディ。
彼独特の、セクシーで、センチメンタルな、マイナー調のメロディであることは言わずもがな、
そんな “来生メロディ” に乗るのが、ホーンセクションとベースがマッスルに鳴り響く “マッチョ・ソウル・アレンジ” 。
≪来生たかお×ソウル≫というのが、あまり他では聴いたことのない組み合わせだと思います。
元来日本人はマイナー調メロディが大好きなので、
マイナー調メロディとダンス・ミュージックという良いとこどりの組み合わせはヒット曲の鉄板ともなっていますが、
先述の通り “セクシー” で “センチメンタル” な≪来生印≫のマイナー調メロディとなるとまた話が違ってきます。
その “セクシー”さが起因して、
ただ踊れて楽しいだけじゃない、ぬめぬめとした気持ちよさも孕んだ、やはり独特のダンスミュージックとなるのです。
これは大発明。
そんないくつもの “エポック” に彩られたこの名作を
その手に取りましょう、聴きましょう。