同じ幼稚園に通っていて、その時よく遊んでいた男の子(以下Aくん)がいる。その人とは小中も同じだったが、クラスは9年間のうち1度しか同じにならなかった。同じ学校で育ったはずなのに、学力は天と地の差がつき、彼は1番頭の良い公立高校に進学。私は当たり障りのない私立高校へと進み、次第に彼のことは薄れていった。
そんな幼なじみのAくんとは思いがけないところでよく遭遇した。
前に帰省した時、高速バスを待っていたら前に並んでいた人が彼でびっくりした。それと後に知ったことだが、彼が高校時代アルバイトをしていた塾の生徒に私の弟がいたようだ。親同士も時々遭遇するらしい。
極め付きは私の職場に彼がお客さんとして現れたことだ。
私が熱心に仕事をしていると「(本名)だよね?」と声をかけらた。メガネをかけていたはずの彼がコンタクトにしていたので判別に時間がかかってしまったが、目の前にはすっかり大人になったAくんが立っていた。こんな所で遭遇してしまうとは幼なじみの腐れ縁は怖いものである。彼は私の職場周辺に住んでいるようで、その後も何度かお店にやってきた。
それから月日が経って私が店の近くの喫煙所でタバコを吸っていると、「(本名)だよね?」と声をかけらた。「(本名)もタバコ吸うんだ」とAくんは嬉しそうに言うと、ロングピースを取り出して慣れた手つきで火をつけた。タバコには無縁そうな彼がタバコを吸うようになっていた事に感動を覚えたし、ロングピースというなかなかキツイタバコをフィルターギリギリまで吸っていてだいぶ変わったな、と感心した。
それから当たり障りのない近況報告をし、連絡先を交換して飲みに行く約束をした。
そしてつい先日彼と飲みに行った。
彼とは事前に店を話し合い、予約までしてくれた。几帳面な性格は健在だ。
主に話したのはたったの1度だけ同じになったクラスの話と、学校が離れたあとの話だ。しかしAくんとは空白の期間が長すぎるし、酒豪の彼に対して私は下戸だし、共通の趣味もタバコくらいしかなかったので話の間が大きく空いてしまう事が何度かあった。お互い人見知りなのか私は少々気まずさを覚えていた。
程よく酔いも周り2件目は彼の提案でシーシャのお店に行くことになった。彼は時々そのお店に行くようで、ずいぶんと大人っぽい趣味を持つようになったものだと感心した。(他にもAくんは競馬や将棋も好きなようで、「はぇー、渋いなぁ」とこれまた感心した。)
思い返せば昔はご飯といえば自転車やバスに乗って少し離れた街に行き、食べ放題のお店などに行って21時には解散していたが、今では電車に乗って繁華街にでて、酒を飲んでタバコを吸いながらついでにご飯を食べるようになったので我々はすっかり大人になったんだなと山盛りの灰皿を見ながら時の流れを痛感した。
Aくんの私服は年相応の大人っぽいもので、右腕にはApplewatchをつけているし、鞄の中にはMacBook、ポケットの中にはロングピースのストックが入っていた。タバコに火をつける仕草、火をもみ消す細長い指と手の甲、シーシャを味わう時に目を細める様子をみて成長と色っぽさを感じた。彼は私を見てどう思ったのだろう。
酒豪の彼も程よく酔ってきたのか、不意に
「思い違いかもしれないんだけど」と口を開いた。
なんだろうと思っていると、
「ファーストキスの相手、(本名)だと思うんだよ
ね。」と、とんでもない爆弾発言をした。
恐らくそれはよく遊んでいた幼稚園時代の話だろう。小中のときの話では無いのは確実だ。
私は「うそー!」と驚きつつ狼狽えた。なぜなら全く記憶にないからだ。残像さえも残っていない。確かにAくんは私の初恋の相手……可能性は無きにしも非ず、だ。
昔の私はずいぶんと大胆なヤツだったのか。
どうやら当時、その事をAくんの親に咎められたようで(なんで知ってるんだ)、信ぴょう性は割とある。
彼はずっとその事を胸に抱いて今日まで過ごしてきたのかと思うと、全く覚えていないことに対して少し申し訳なさを感じる。私はなんとか記憶の断片でもいいから思い出そうと頑張ってみたが、シラフの今でも思い出せない。幼き頃の話とはいえ、ファーストキスの相手と何度も遭遇していると考えるとなんだか背中の辺りがむず痒くなってくる。じゃあこれからホテルにでも行って、再現でもしようかと思ったが、話を聞いている限り彼は貞操観念がしっかりしているようなので(たぶんそれが普通。おかしいのは私)それはお酒で奥の方に流し込んでおいた。
家に帰り、死んだようにソファで爆睡した後冷静になって、ファーストキスを全く覚えていなかったことに対して彼に謝らなかった事について少し反省している。
もしまた彼が私と飲んでくれたら、初恋の相手はAくんだったと私も白状し、ファーストキスの記憶がなかったことに対してちゃんと詫びようと思っている。