通勤ルーティーン | モモロの核心に近いところ

モモロの核心に近いところ

思い思い、浮かんだことをつづっていくところ。矛盾だって御愛嬌。

初めてあの謎の塔を見たのは私が出張でこの街に訪れたときだ。

別に泊りがけで行かなければいけない距離では決してなかったが翌日の大事な面談に寝坊しないように、万全な状態で挑めるように、私は会社に無理を言って前乗りをさせてもらったのだ。経理のおばさんには随分と嫌な顔をされてしまったな。その無理を言って泊まらせてもらったホテルの窓から、山の中に、浮くように白いドーム型の塔が一直線に見えたのだ。なんだか薄気味悪く感じていたがまだカーテンを閉めるには早かったので、あまり目を合わせないように気を付けていた。しかしその塔とはホテル滞在中に何度も目が合った。

その日は怖い夢を見た。詳細は忘れてしまったがとにかく怖い夢だ。確か私は人を殺せとただ言われ、銃を持っていたような気がする。朝目覚めたときは寝汗がひどく、こんな大事な日に何なのかと頭を掻いた。

それから数年経ち、私は塔を見た街に異動してきた。その時にはすっかり白い塔のことは忘れてしまっていた。出世コースに乗りかけていたあの時の私はやけにぎらついていて、さぞかし陰では嫌われていただろう。異動初日から通勤時間はずっとスマホにのめり込んでいて、全く車窓を見ていなかったし、そんな時間が無駄に感じていた。

そんな私が初めて車窓を見たときは、この街に来てからすでに1年近く経ってしまっていた。その日の私は現実に打ちのめされて、意気消沈していた。おごり高ぶっていた自分が恥ずかしく、仕事を辞めて故郷に帰ろうかと考えるほどに沈んでいた。ようやくスマホから目を離した私の澱んだ目に映ったのは、あの不気味なほどに白い塔であった。その塔は途中でビル群に阻まれて姿を消してしまったが、それまでの時間、私は瞬きを忘れて白い塔に見入っていた。

その日、また怖い夢を見た。空から落ちてくる鉛色の雨から必死に逃げる夢だ。走ろうとしても、走ろうとしても足が動かず、殺さないでくれと必死に願っていた。朝起きたときは、寝汗がひどく体が冷えきっていた。

その次の日も、欠かさず私は車窓から白い塔を眺めていた。

雨の日だって、あの塔は見えた。

特異な白さを放っているあの塔は、どんな悪天候にも負けず、

山の中に鎮座している。

強烈な夢はしばらく見ていない。

窓に反射して映る自分の容姿は、この街に来た頃に比べてだいぶ老いてきてしまったな。やれやれ。

 

それじゃ、行ってきます。