【めいきるこつ】
深く心にきざみつけて忘れないこと。

◇  ◇  ◇

時代劇などで、「名乗るほどの者ではございません。」という台詞をよく聞く。

私は昔から、そんなカッコいい台詞をどこかで使ってみたいと常々思っていた。

週末、飲みに行こうと駅へ向かっていたところ、うら若き乙女に呼び止められた。「逆ナンか!となると……」と、3年先までの妄想を膨らませたが、どうも様子が違う。

聞けば、車で彼氏を迎えに行く途中で体に変調をきたし、運転できなくなってしまって困っていると。止むを得ず車を面倒な場所に停めてしまったので、安全な場所に移動してくれないか、とのこと。

彼氏はあと10分足らずで到着できる場所にいるらしいので、「それならそこまでお連れしましょうか。」と提案し、代わりに運転することになった。

「この女子が美人局だったら……」「不慣れな他人の車など危険では……」「任意保険は?」などなど、懸念される事項は多々あったが、危ない雰囲気もないし、ちょっとかわいいし、実際に困っているようにも見えたので、屈託なくそんなお節介をしてみた。

結果はもちろん事故もなく、影から怖いお兄さんが出てくることもなく、それはもう面映いばかりの感謝の言葉をもらい、その上、手には千円札ではない紙幣を握らされそうになる(もちろん拒否)という、大変に清々しい出来事となったのである。

私はそのまま、良い話のネタができたと上機嫌で飲みに行き、もちろんその場で武勇伝として語り、そして拍手喝采を受けた。

しかしその後、残念なことに気がついてしまったのである。
「名乗るほどの者ではございません。」って言ってない。
せっかく名乗っていないというのに。

次の機会は間違いなく……。
【けいこむしょう】
故意に犯した罪は小さな罪でも刑罰を与えること。

◇  ◇  ◇

タバコをあまり吸わなくなって気づいたのだが、喫煙により生じる臭気というのは、想像以上に強烈である。

喫煙所からタバコ休憩を終えて席に戻ってきた人間は、その呼気はもちろん、服や髪の毛などからも、煙やヤニ・或いはそれらと体内の何かが化学反応を起こして生まれた臭気を、これでもかと部屋中に振りまいている。

喫煙者の多くは、しばらくは確実に我慢を強いられる会議などの前に、必ずと言って良いほどタバコを吸いに行く。本人達は絶対に気がつかないのだが、一緒に会議室に入っている他の人間は、その臭いとの戦いを文字通り強いられている。

私も過去には、同様に会議前の喫煙をしていた。今となっては身の毛もよだつ話である。

さて街中では、歩きながらタバコを吸い煙を撒き散らしている迷惑な人間をよく見かける。これは喫煙者であっても疑問に思う非道徳的行為だと思うが、そんな者たちの多くは、あろうことかそのタバコを道端に放り投げたりする。

とある酒をのんだ帰り道に、20mほど前を歩いていた男が歩きタバコをしていた。投げ捨てるだろうなと注意して見ていたら、案の定彼は火のついたタバコを放り投げた。

少し酔っていた私は、止せば良いのに怒りにまかせて大声でこう叫んでしまった。
「何か落としましたよー。」

その瞬間、男は回れ右をしてこちらにゆっくりと向かってきた。まさか戻ってくるとは思っていなかった私は、急上昇した心拍数を落ち着かせながら、取っ組み合いのシミュレーションを始めた。

(パンチは手が痛いよなあ。ここはやはり前蹴りで、防御はカバンを使って……。)

しかし、近くまで来た男は満面の笑みでこう言ったのである。
「すみません。いけませんね。」

なんだか余計に腹立たしい人間である。
ポイ捨てが悪いことは百も承知、後ろめたくってしょうがないが、バレなきゃ別にいい、もしバレても誰にも怒られない……そんなことを思っていたようである。

今度見つけたら何と言ってやろうか、奴らを廃人にするぐらい効果的なひと言を、今は探している。
【くうりくうろん】
一応理屈は通っているようにみえるが、現実とはかけ離れていたり、事実と合致しない考えや理論。

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一昔前の携帯電話は、そのほとんどが通話用のアンテナを露出させていた。多くはそれぞれの最上部に突起物として設えてあり、感度調整の為に伸ばせるようになっていた。

『ギフト』というドラマでだったか、木村拓哉が携帯電話のアンテナを口で伸ばしていたシーンがあったが、その頃にそのマネをしている少年たちをよく見かけた。ちょっと恥ずかしい光景だが、まあ、若気の至りというモノだろう。

その後、恐らく受信性能の向上などからか、アンテナは機器に内蔵されるようになり、当然そんな恥ずかしい少年たちを見かけなくなった。

ところが近頃、同じような恥ずかしい輩が巷を闊歩している。

携帯電話がワンセグチューナーを内蔵するようになり、また外に伸ばせるアンテナを備えるようになってきた。しかし、このアンテナは、あくまでもワンセグチューナー用である筈だ。

にも関わらず、先日見かけた20代後半と思しきサラリーマンが、通話中にそのアンテナを伸ばし始めたのである。

彼「もしもし、えっえっ、」(彼:アンテナ伸ばす)
私(意味無いって…)
彼「もしもし、えっえっ、」
私(だから意味無いって言うてるやん…)

一言お知らせして差し上げたかったのだが、そこはそれ、彼は通話中であったため叶わなかった。その後の彼はどうなったのだろうか、今も心配している。

でも、実はワンセグ用アンテナは通話用でもある。ということなら、恥ずかしいのは私の方か。情報求む。