役務提供(請負、委任、寄託、事務管理)は民法の中で比較的に理解しやすい分野です。ですが、テキストを閉じて細かいところまで覚えていますか? 問題を全問正解できますか? 少なくとも私はあいまいな部分がちらほら残っていて、全問正解に至りませんでした。

 

その穴を埋めるべく盲点となる報酬や費用の前払い/後払いに焦点を当てて、問題演習付きの記事を作ってみました。

 

※請負や委任、寄託、事務管理などの言葉が分からない方は、お手元のテキストなどをよく読んだ後にこのブログを読んでください。また、このブログは役務提供の全範囲を網羅するものではありません。ご注意ください。

 

※以下の表はスマホで見るときは横長にしていただけると、見やすくなります。

役務提供の報酬・必要費・有益費など

  請負 委任 寄託 事務管理
報酬 後払 後払
有償でも無報酬でも善管注意義務
後払
有償は善管注意義務
無償は自己の財産に対するのと同一の注意
なし
必要費 前払
費用償還請求可
前払
費用償還請求可
前払不可
現存利益の限度
有益費 費用償還請求可
有益な債務負担 費用償還請求可 費用償還請求可
  請負 委任 寄託 事務管理
損害賠償

原則:注文者は請負人が仕事について第三者に加えた損害賠償責任を負わない

例外:注文・指図に瑕疵がある➡注文者は請負人に損害賠償をする

その他:

・種類・品質が請負契約の内容に適合しない時➡賠償

・契約解除時➡賠償

受任者に過失がない時➡賠償請求可 受寄者が損害を被った➡損害賠償 規定なし
賠償不可

 

問題演習

過去問(〇×問題)

Aが不在の間に台風が襲来し A所有の甲建物の窓ガラス が破損したため、Aから甲の管理を頼まれていたBがこれを取り換えた場合、 AB間において特約がなければ、 窓ガラスを取り換えるに当たって、 Bは、Aに対して事前にその費用の支払を請求することはできない。

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【正解】×
【解説】上の表と民法第649条を参照

民法 第649条(受任者による費用の前払請求)

委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、【受任者の請求】により、その【前払】をしなければならない。

 


出張先の大阪で交通事故に遭い負傷したAは、東京在住の友人の弁護士Bに加害者Cと示談契約を締結してくれるよう依頼した。 Bは、Cとの示談契約を成立させるまでは、Cと の示談交渉にのぞむために東京から大阪に出張するための交通費等の諸経費をAに請求することができない。

 

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【正解】×
【解説】上の表と民法650条を参照

民法 第650条(受任者による費用等の償還請求等)

  1. 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。 
  2. 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる【債務】を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
  3. 受任者は、委任事務を処理するため自己に【過失なく】損害を受けたときは、委任者に対し、その【賠償を請求】することができる。

 

 

請負契約においては仕事完成義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つため、物の引渡しを要する場合であっても、特約がない限り、仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない。

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【正解】×
【解説】上の表と民法第633条本文

第633条(報酬の支払時期)

報酬は、仕事の目的物の引渡しと【同時】に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定{後払い}を準用する。
 

 


請負の報酬は、仕事の目的物の引渡しを要する場合でも、仕事の目的物の完成時に注文者が請負人に対して支払わなければならない。

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【正解】×
【解説】上の表と民法第633条本文

第633条(報酬の支払時期)

報酬は、仕事の目的物の引渡しと【同時】に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定{後払い}を準用する。


仕事の完成が注文者の責めに帰することができない事由によって不能となった場合、請負人が既にした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請 求することができる。

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【正解】〇 【解説】上の表と民法第634条前段1項

第634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)

次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
  1. 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
  2. 請負が仕事の完成前に解除されたとき。


Aは、Bと寄託契約に基づき受寄物を保管していたが、保管事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、Bに対し、その費用および支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

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【正解】〇
【解説】上の表と民法第665条参照

民法 第665条(委任の規定の準用)

第646条から第648条まで、第649条並びに第650条第1項及び第2項の規定は、寄託について準用する。

 

 

Aの隣人であるBは、Aの不在の間に台風によってA所有 の甲建物の屋根が損傷したため修繕を行った。 Bは、Aから あらかじめ甲の管理を頼まれていなかったにもかかわらず、Aのために修繕を行ったが、強風に煽られて屋根から落下してしまい、受傷した。 この場合に、Bは、Aに対して損害賠償を請求することができない。

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【正解】〇
【解説】上の表参照
事務管理(民法第701条)は委任の損害賠償の無過失責任(民法第650条)を準用していない。

 

委任が無償で行われた場合、受任者は委任事務を処理するにあたり、自己の事務に対するのと同一の注意をもってこれを処理すればよい。

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【正解】×
【解説】(ChatGpt解答)民法第644条によると、委任が無償であっても、受任者は委任事務を処理するにあたり、善良な管理者の注意をもってこれを処理する義務があります1。これは、報酬の有無に関わらず、受任者が委任事務を処理する際には一定の注意義務を負うことを意味しており、自己の事務に対するのと同一の注意をもって処理すればよいというわけではありません23。したがって、無償委任であっても、受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者として適切な注意を払って委任事務を処理しなければならないとされています。
参照情報:1.tek-law.jp  2.crear-ac.co.jp  3.sloughad.la.coocan.jp  4.forjurist.com  5bing.com

問題は、『合格革命 行政書士 肢別過去問集 2024年度』早稲田経営出版 (2023/12/27),p.778,p780,p782,p784,p792より問題文のみ抜粋しました(解説はオリジナルです)。

空欄補充

役務提供の報酬・必要費・有益費など

  請負 委任 寄託 事務管理
報酬 後払 後払 後払 なし
必要費 前払
費用償還請求可
前払
費用償還請求可
※前払不可
現存利益
有益費 費用償還請求可
有益な債務負担 費用償還請求可 費用償還請求可
  請負 委任 寄託 事務管理
損害賠償

原則:注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない

例外:注文や指図に瑕疵があるとき、注文者は請負人に損害賠償をする

その他:

種類・品質が請負契約の内容に適合しない時

契約解除時

受任者に過失がない時➡賠償請求可 受寄者が損害を被った➡損害賠償 規定なし
(賠償不可)

 

以上の記事に誤記など至らぬ点がありましたら、DMなどでご教示くださいますようお願い申し上げます。