教科書には載っていないですが、過去問を解析する中で出会うことのある論点「民法物権/不動産の物権変動/時効による所有権の取得の判例」に焦点を当てます。

 

なお、有名な行政書士Youtuberの佐藤先生がこの論点について分かりやすい解説動画を上げているので、併せてご紹介致します。

 

この論点は不動産の物権変動の基本と取得時効が分かってから理解すべきものであり、全くの初学者の方は、お手持ちの教科書などを見た後にご参照ください。

(私も復習しながらノートを掲載しています。)

民法物権/不動産の物権変動/占拠されて時効を迎えた判例

取得時効の基本原則となる民法の条項をまずはおさらいしましょう。

民法 第162条【所有権の取得時効】

  1. 20年間】、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
  2. 10年間】、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、【善意】であり、かつ、【過失がなかった】ときは、その所有権を取得する

 

それでは、3つの判例を見てまいりましょう。

1.基本パターン

占有者が土地を無断で占有し始めて取得時効(善意10年/悪意20年)を迎えた場合

➡取得時効が成立し、登記なくして物権は占拠者の所有になります。

 

2.応用パターンA

占有者が土地を無断で占有し始めて取得時効(善意10年/悪意20年)を迎える前に、第三者がその土地を手に入れて登記した場合

➡取得時効が成立し、登記なくして物権は占拠者の所有になります。

(理由:第三者の取得が承継取得であるため、前主の占有されている状態を承継したと考えます。)

 

 

3.応用パターンB

占有者が土地を無断で占有し始めて取得時効(善意10年/悪意20年)を迎えた後に、第三者がその土地を手に入れた場合

➡登記の先後で、どちらの所有かが決まります。

 

今日は五択問題の過去問を解いてみます。

過去問

平成25年・2013|問28|民法・時効
不動産の取得時効と登記に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。
     
  2. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができない。
     
  3. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して、登記がなければ時効取得をもって対抗することができず、このことは、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したとしても、特段の事情がない限り、異ならない。
     
  4. 不動産の取得時効の完成後、占有者が、その時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた者に対して時効を主張するにあたり、起算点を自由に選択して取得時効を援用することは妨げられない。
     
  5. 不動産を時効により取得した占有者は、取得時効が完成した後にその不動産を譲り受けて登記をした者に対して、その譲受人が背信的悪意者であるときには、登記がなくても時効取得をもって対抗することができるが、その譲受人が背信的悪意者であると認められるためには、同人が当該不動産を譲り受けた時点において、少なくとも、その占有者が取得時効の成立に必要な要件を充足していることについて認識していたことを要する。
     

過去問(〇×問題)

  1. 即時取得が成立するためには占有の取得が必要であるが、この占有の取得には、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさない、占有改定による占有の取得は含まれない。
  2. 被相続人の占有により取得時効が完成していた場合に、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
  3. 不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続したときは、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。
解答・解説(表示するにはクリックして下さい)

平成25年・2013|問28|民法・時効

【解答】1

  1. 上記のパターンAを参照
  2. 上記の基本パターンを参照
  3. 最判昭36.7.20:上記のパターンBの後に基本パターンが発生した
  4. 最判昭35.7.27
  5. 最判平18.1.17

過去問(〇×問題)

  1. 【解答】〇
    【解説】(ChatGpt解説)

    即時取得が成立するためには、確かに占有の取得が必要です。民法第192条によれば、平穏にかつ公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得します。これは、取引が有効に成立したときに、物の所有権が移転することを意味しています。

    しかし、占有改定による占有の取得が即時取得に含まれるかどうかは、法律上の議論の対象となっています。占有改定とは、譲渡人が動産の譲渡後も引き続き占有し続ける場合のことを指し、この場合、譲渡人は譲受人の代理人として占有を続けることになります。

    最高裁判所の判例(昭和35年2月11日)では、占有改定による占有の取得は、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさないため、即時取得の要件を満たさないとされています。つまり、占有改定による占有の取得は、即時取得には含まれないというのが現在のところの法的な立場です。

    ☆条文と判例を参照
    民法192条
    取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する
    最判昭35.2.11
    占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、民法第一九二条の適用はない。
  2. 【解答】×
    【解説】判例: 被相続人の占有により取得時効が完成した場合において,その共同相続人の1人は,自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
  3. 【解答】〇
    【解説】判例(最判平24.3.16):不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続し,その期間の経過後に取得時効を授用したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者が,上記不動産を時効取得する結果,上記抵当権は消滅する。