作業療法士として「死」をどのように捉えていくのか? | 作業療法士杉長彬(すぎながあきら)のやる気を高めるコミュニケーション

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精神科の病院で、認知症高齢者の方に作業療法をしていると、
予後という点で、最終的な所を見ちゃうと、結局は「死」なんだよなあという、
事実をどうしても考えてしまう事があります。



「お薬飲んで、リハビリやって、他職種チームでいろいろ頑張って、いろいろやって良くなっても、結局は人間はみんな死んじゃうんだもんなーー」っていうのは、たぶんそれを言っちゃあおしまいでしょ?的な発言なのですが、

そういった事が、頭の中によぎる事があるっていう事です。



ここに事例を一つ紹介します。
80代後半のAさん(男性) 認知症の方
自宅での生活にて、暴力や暴言などあり、家族介護困難になり、精神科病院に入院された方です。

入院後は、薬物療法により、暴力や暴言などが収まり、穏やかになります。
しかし、その後、自室に閉じこもり傾向になって、
「オレはだめだ」など否定的な発言が多くみられるようになります。

さらに、夜間の失禁なども多く見られるようになり、家族が、以前の暴力的なAさんが強く印象に残っていることもあり、家に引き取るのを嫌がるようになりました。




この方、どうしようかという事になった時に、作業療法士は、Aさんの趣味であった“将棋”を使って、作業療法の時間に将棋を行うようにしていきました。

すると、Aさんは、みるみるうちに笑顔を取り戻し、引きこもりがちな生活が一転、自分からホールに出てくるようになり、将棋を通して他の患者さんとも交流するようになりました。

生活の幅が広がってくると、日中の覚醒度もあがり、夜間はしっかり眠るようになったので、夜の失禁もなくなりました。

その様子を見て家族も「これなら家でもやっていける」と安心し、入院から3ヶ月後、Aさんは、自宅に退院する事になりました。



しかし、その後退院して3ヶ月後、Aさんは自宅にて、ちょっとした段差につまづき、転倒し骨折、そのまま入院してしましました。

しかも運の悪い事に、入院後肺炎を併発してしまい、そのまま亡くなってしまいました。






例えば、こんな事例があったとします。


これに似たようなケースは、たまにあるのですが、このようなケースに出会った時、自分は作業療法士としていったい何ができたんだろうか?といろいろと考えこむ事になります。



「せっかく、退院できたとしても、その後転倒して亡くなってしまったのだから、もっと歩行能力を鍛えるようなリハビリをするべきだったのだろうか?」


「いやいや、そうは言っても、まず本人の良い所を引き出して、引きこもり的な生活から脱却し、自宅退院までこぎつけたのだから、あのアプローチでよかったのではないか?」


「しかし、そうはいっても、もう少し入院中から、歩行能力などの評価もして、もう少し退院を引き伸ばしてもよかったのではないか?」


「いやでも、あのタイミングで退院しなかったら、きっと家族は引き取る気をなくしてしまい、あのまま一生入院しているような状況になってしまったかもしれない。。。」


などなど、自分のやったことに対して、ああでもない、こうでもないと色々考えてしまいます。

なんだか、最終的に「死」という事実に直面してしまうと、自分のやった事が良かったのか、悪かったのか、

なんだかわからなくなってきてしまうし、

ネガティブに考えると、自分のやった事すべてが失敗だったような気分になる時もあります。




しかし、こんな時自分は、あまり自分のやったことがどうだったか?というよりは、

Aさん自身はどうだったんだろうか?

彼は、人生の最後にどんな事ができたんだろうか?と考えるようにしています。


最後に、趣味の将棋が存分に楽しめてよかったのかもな?ってそういう事です。



出来なかった事をあげ始めれば、きりが無く後悔する事はできます。

しかし、そんな「死」に立ち会うたびに後悔するばかりでは、自分のテンションが下がる一方で、今後出会う患者さんに対しても暗い事しか考えられないセラピストになってしまいそうです。


それより、その人が、今どれだけ、この場で輝ける存在に慣れるのか!
そのことについて全力を出せるセラピストになりたいなと思います。

作業療法士として「死」をどう捉えていくのか、それは、今後の自分の課題だと思っています。


そして、自分もいずれ死にます。自分が死ぬ時に、あれもできなかった、これもできなかったと後悔して人生を終えるのではなく、自分が生きている間にできた事を承認できるような人生を送りたいと思います。



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