岡辺均平の脳裏に
手術前3日間と
術後の52日間が
走馬灯のように
駆け巡った。
手術の場面だけは
不思議に鮮明だった。
岡部均平は
家族の全員を呼び、
本橋常七夫婦を前に座らせ、
岡辺均平はゆっくり、
みんなを見渡した。
本橋常七は
み登の手を握っていた。
み登の子供もいた。
岡辺均平は静かに
独り言のように、
「もうこれで、完全に治った」
「明日からは普通の生活を
少しずつ始め、
体をならしていこう」といった。
み登も本橋常七も、
そして、家族も泣いた。
岡辺均平は
「やっと終わった」と思った。
外はもう真夏だった。
蝉の声が妙に
はしゃいだように
聞こえた。
それぞれの夏から秋、
そして、
それぞれの未来への路が
始まろうとしていた。