うちには、天使がいます。140.再び抗がん剤治療へ | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。

 


・登場人物
<ゆかさん>
やまねこの奥さん。2020年9月、卵巣がんにより永眠。
2018年4月初めに腫瘍が見つかり、月末にはトルソー症候群による脳梗塞を発症。
手足や会話に障害が出ながら、摘出手術を経て、
2018年9月には全6回の抗がん剤治療も完遂。
諸事情により、ふだんは実家で母と暮らしながら、歩行のリハビリを中心に、
手足のしびれや難聴、高次脳機能障害など、脳梗塞の後遺症や抗がん剤の副作用と闘いつつ、
週末はやまねことうちで過ごす、という生活をしていましたが、
2019年11月12日、ついに新居でやまねことの生活がスタートしたのもつかの間、
12月11日にはがんの再発を宣告されてしまいます。
<やまねこ>
ゆかさんの夫。
落ち着きがなく要領が悪く、おまけにコミュ障。
いまいち頼りないだんなさまですが、
たまにライブハウスでピアノを弾いて歌をうたっていたりします。
<メイさん>
17年前にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮していた、寄り目のみけねこ。
2018年12月29日、突然猫てんかんの発作を起こし
翌2019年1月9日早朝、病との闘いの末、永眠。


(なお、病院関係者のかたがたほかの名前は、すべて仮名です)


2019年12月16日、月曜日。
卵巣がんの再発(がん性腹膜炎)を宣告されてから、まだ5日しかたっていませんが、
ゆかさんは今日から新たな抗がん剤治療(GC療法)のため入院です。
抗がん剤治療を再開するにあたって、主治医の葛西先生からは、
「年明けから始めますか?それとも年内に一回やっておきますか?」
と打診されましたが、ゆかさんに相談されてやまねこも考えた末、
年内に始めるほうを選びました。
間が空いてしまうと、どうしてもいろいろなことを(ネガティブなことも)
考えてしまう気がしたからです。その時間がないほうがいいのではないかと。
そして治療を開始したという安心感があれば、
お正月休みも少し心穏やかに過ごせるような気がしたのです。

ゆかさんは前日、入院用の荷物をバッグにつめて、
―いつもどうしてこんなに?というくらい大量の荷物になるのですが―
バッグのファスナーが閉まらず、なんとか閉めようとしていたので、
やまねこはたまらず「バッグひとつやまねこの使いなよ」と言いました。
それでもゆかさんはしばらく意地になってファスナーと格闘していましたが、
とうとう折れてやまねこのバッグを借りることに同意してくれました。


そして当日の朝。
今まで通院のときは時間に余裕がなく、ゆかさんが新居までタクシーを呼ぶ自信がなかったので、
前日に実家まで送り、そこからタクシーを呼んで出かけていたのですが、
今回は初めてうちまで直接タクシーに来てもらいます。
午前中に出発して、血液検査などを行い、結果を見て正式に入院が決まります。
やまねこは普通に仕事に行きますが、ゆかさんから入院決定の連絡が来たら、
帰宅後に入院用の荷物を持って病院へ行きます。そういう段取りです。
「荷物だけしっかりわかるように置いてもらって、あとこたつだけ消すように気をつけてね」
と念を押して、やまねこは出勤しました。

職場で、少しびっくりしたのは、
急に所長から「ちょっと」と声をかけられたことです。
(やまねこはただのCADオペレーターなので、そういうことはめったにありません)
所長室に入ると、
「奥さん、がん再発したんだって?」と訊かれました。
「はい。今日からまた入院して抗がん剤治療です」
「うん。くれぐれも遠慮しないで、そちらを優先するようにね」
優しい言葉をかけてくださいました。
この職場に派遣されたのは、ゆかさんと暮らし始めてからですが、
いつも良くしてもらって、感謝しかありません。

ゆかさんからは「無事に病院着いたよ」
「採血なかなか取れなくて3回めでようやく取れたけど、入院決まったよ。
ティッシュとハンガー荷物に入れるの忘れちゃったから、持ってきて」
「病室は5階のいちばん手前の部屋の窓側になったよ」
「点滴するときノースリーブのほうが良さそうだから赤いベストと、
それからお水も2本くらい買ってきて」
と、その都度連絡が入り、ほっとします。


仕事が終わり、いったんうちに帰って、
ゆかさん特有の大量の荷物を車に積み、病院へ。
病室まで荷物を届けます。
ゆかさんは意外と元気そうに迎えてくれました。
あわただしかったのか、着替えはやまねこの持ってきた荷物に入っているのか、
まだ着替えていません。
荷物を渡すと、忙しく片づけはじめました。
でも大量の荷物、そうそう簡単に片づくはずもなく、
最後は「うーん、このまま入れちゃおう」と、
バッグのままいちばん大きな引き出しに入れてしまいました。
「あはは」とゆかさんはこちらを向いて笑いました。

右腕の採血のあとが、かなり紫色に腫れていました。
「やっぱりなかなか取れなかったの」「うん」
度重なる採血と点滴で、何度も何度も針を刺しているうち、
血管の壁が固くなってしまい、なかなか針が刺さらなくなってしまっているのです。
「痛々しいね」
「うん、でも主任さんは腫れても心配ないて言ってた」
「血液検査の結果、ある?」「うん」
どうしても、最初に腫瘍マーカーのところに目が行ってしまいます。
ふたつの指標。
まずCA19-9。「930か…上がっちゃったね」
標準値は37以下ですから、かなり高いです。がん再発のひとつの目安でした。
そしてCA125。「こっちは43?そんなに高くないね」
標準値は35以下なので、高いといえば高いのですがそれほどでもありません。
卵巣がんはこちらの数値が高くなることが多いので、少し違和感はありました。
「CA125があんまり上がってないのは、いい傾向なのかな」
「うん、でも葛西先生、わたしの場合は腫瘍マーカーあんまりあてにならないて言ってた」

あっという間に20時になり、面会終了の時間です。
「ねこさんあした職場の忘年会でしょ?行ってきていいよ」
「でもあしたゆかさん抗がん剤の日だし」
「うぅん大丈夫。職場大切にしなきゃ。行ってきて」
「うん、じゃ、甘えさせてもらうかも。でもなにかあったら飛んでくるからね。
あさっては必ず帰りに寄るから」
「ありがとう」

病室を出て、帰路につきました。
あわただしいけれど、たぶんこれでいいんだ。気が紛れたほうが―
新しい抗がん剤、効果がありますように。そんなことを思いながら。





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昨日9月1日、ゆかさん3度目の命日のLIVEも無事終了いたしました。
もう3年になるのか、と思うと複雑な思いです。
「まだ引きずってるのか」と言うかたもいらっしゃるかもしれませんが、
ゆうべはゆかさんのために歌ってきました。
聴いてくださったみなさん、ありがとうございました。

次のLIVEは、22日です。
2023.9.22(Fri.)at白楽Nap
「Harvest Moon」
OPEN1810/START18:30/CHARGE:\1.600+1D(予定)
配信視聴はこちらから(無料)→https://m.youtube.com/user/nodutatane
まだ詳細が出ないのですが、来週にはお伝えできると思います。
収穫の季節、お会いできますように。