帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その1の7.火曜日と水曜日 | うちには、天使がいます。

うちには、天使がいます。

ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。


 

・登場人物
<メイ>
3年前の5月にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮している、寄り目のみけねこ。
車でやまねこと旅をする「旅猫」に育ちました。
<やまねこ>
ライブハウスでピアノ弾き語りをする歌い手でしたが、
2004年当時はあまり休みのとれない会社に就職したので、活動は休みがち。
週末に海や山へ出かけるのが生きがいになっています。

・前回までのお話
2004年10月の3連休。
初日は台風でうちに缶詰めになってしまったやまねこですが、
夜に台風が通り過ぎるのを待って、西伊豆へ釣りに出かけました。
連休2日め、いちにち釣りして、車の脇で晩ごはんを食べようとしたところで、
通りすがりの「A氏」に(いちおう固辞はしたものの)誘われるまま、
丘の上のA氏の別荘へと招かれ、そこでメイを放してしまいます。
数分外へ出た間に、忽然と姿を消してしまったメイ。
月曜日、連休最終日まる一日をかけての捜索もむなしく、
やまねこはひとりでうちに帰らざるを得ませんでした。


生死不明のまま、メイを伊豆に残して来てしまった―
「もうメイは死んだんだ、海に落ちたんだ」と自分に言い聞かせて。

メイのいない部屋に入り、ひとしきり叫び声をあげたあとで、
夕食を食べる気にも全くなれず(そういえばお昼も食べていない)
きのう釣った魚を冷凍庫にしまいました。
それも気の重い作業でした。
「魚なんていらないのに。メイがいてくれたらいいのに」
早めにふとんに入りましたが、当然のようになかなか寝つけませんでした。

うとうとしてははっと目が覚めて「メイ、いない」とつぶやいて、
再びうとうとして、また目が覚めてをくりかえすうち、火曜日の朝が来ました。

どうしようもなく虚ろな気分を抱えて、
それでも仕事に出なくてはなりません。
当時のやまねこの仕事は、設備会社のCADと現場。
なんとか仕事はこなしましたが、
合間合間にメイのことを思いだしたり、自分を責めたりするなというのは無理な話でした。
昼ごはんはいちおうコンビニで買って食べましたが、
肉類を見るだけで吐き気がしました。
台風で打ち上げられていたなにかの動物の肉片と、オーバーラップするようにメイの姿を、
どうしても思いだしてしまうのです。

仕事を終えてうちに帰るのは、さらに足が重くなりました。
メイのいない部屋のドアを開け、中に入り、
やはり夕食を食べる気にもなれず、
2週間後に迫った資格試験の勉強をしなければ、と思いましたが、
なにも手につきませんでした。
ただ頭も体もしびれたように動かず、気がつけば自分を責めている自分がいました。
ついこのあいだまで、メイがそこにいた。
今だっているはずなのに。
メイを拾いあげたとき、「この子の一生に責任を持てるのか?」と何度も自問し、
「一生責任持つ!」と誓ったはずでした。
それをこんなかたちで終わらせてしまった、という考えばかりが、
何度も何度も頭の中を回りました。

こんなんじゃいけない。
いけないことはわかっているけれど、じゃあどうすれば?


再び浅い眠りから覚めて、水曜日。
きのうと同じように仕事を終えましたが、
もうメイと過ごした部屋に戻ること自体がいやでした。
それにとてもうちで勉強できる気がしない。
どうすればいい?今のじぶんにできること。
駅前のマクドナルドに寄って、そこで勉強することにしました。
肉は完全に受け付けなくなっていたので、ポテトを食べながら。

うちにいるよりは、集中して勉強を進めることができた気がします。
それでもいずれ勉強を終えて、寝に帰らなくてはなりませんでした。

このままじゃだめだ。いずれ精神がまいってしまう。
今のじぶんにできること―


ふと、
TVで見た「ペット探偵」のことが頭に浮かびました。
信用できるものなのだろうか?と思いました。
その後NHKでドラマ化されたりして、今では知っている人も多いですが、
当時はまだまだ一般的ではなかったのです。
高いだろうな。しかもメイがいなくなったのは旅先なのだし、きっと出張費だってかかる。
たぶん半端じゃない金額がかかるだろう。
でも、とにかく今のままじゃだめだ。
なにも手につかないような状況のままではいけない。
もしもできることがあるなら、やってみるべきだ。
あきらめるのは、できることをすべてやってみてからでも遅くはない。
そのために使うお金は、(結果が伴わなかったとしても)けっして無駄遣いではないはずだ。
とりあえず検索サイトで調べてみよう。
金額のことなんて、それから考えても遅くない。

ググってみると、予想以上にたくさんのサイトがヒットしました。
思ったとおり、やまねこにとっては高価なものでしたが、
今の状態が続くくらいなら、払う価値があるのではないかと思いました。
ただ、旅先で、というのがどうしてもネックでした。
基本料金(人件費)に加えて往復の交通費、
それから1日で見つからなかった場合の滞在費の負担は、
どう考えてもやまねこに出せる限度を超えていました。

いくつかのサイトを見ていくうち、
「失踪ペットの捜索方法」が紹介されているサイトが目にはいりました。
動物の種類別に。
猫の場合
「家の中だけで生活する家猫であれば、非常に近くで発見されるケースが多いものです。
ただ、外の環境に馴れていないので神経質になり飼主の呼びかけにも応えず、
長ければ1~2週間その場所に潜んでいる場合があります」

そうだったのか。
だとしたらあのとき、メイはすぐそばにいたのかもしれない。
隠れていただけなのかもしれない。
メイがいなくなったのではなくて、自分がメイの前からいなくなったのだ。
メイは不安になって隠れてしまったのだ。

そして今でも、生きているのかもしれない―
一筋の希望が灯りました。

メイが生きていると仮定するなら、
「避妊済みのメス猫のテリトリーは約 50m~150m 一日の移動距離は約 5~15m」
まだA氏の別荘のまわりにいる可能性が高い。

そのサイトには、ポスターやちらしの作り方のポイントなども載っていました。

これしかないのだろう、と思いました。
一日探して見つからなかったのだから、
そして自分で探すにしても、探偵に頼むにしても、滞在して探すことはできないのだから、
まずポスターとちらしを作ろう。
まだ試験前に、来週の日曜日だけ休みが残っている。
ポスターを貼って、ちらしをポスティングして、連絡を待とう。
だめもとだったとしても、何もしないよりはきっとずっといい。
日程的にはきついけれど、勉強は来週だってできるのだし。
(どうせ今勉強したって、ろくに頭に入ってこないのだし)


その日はそこまで決めました。
とりあえず道筋は見つかった。
すでに真夜中になっていましたが、久しぶりの深い眠りにつきました。





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やまねこが見たのは「ペットレスキュー」のサイト。
久しぶりに見に行ってみると、15年以上たった現在でも、サイトは健在でした。
(もっともかなりリニューアルされていて、当時やまねこが見た内容はなくなっています)

12月8日の内視鏡検査の結果は、
「とくに大きな異常はなく、胃の上部が少し荒れていて、逆流性食道炎でしょう」
とのことでした。
「様子を見ますか?」
えぇ?
少し荒れている程度としては、2週間前の痛みは尋常なものではなかったですよ。
なんとか胃酸を抑える薬だけ出してもらいました。

そしてきのう11日に父親の葬儀も終わり、次のLIVEもあっという間です。

12/15(Wed.)at祖師ヶ谷大蔵 ライブカフェ エクレルシ →https://cafe-eclaircie.com/
「堤真耶presents 春待月の夜」
OPEN18:30/START19:00/CHARGE\2,000+1D(来場)\2,000(配信)
※やまねこの出演は3番め、20:20~20:50の予定です。
 配信チケット購入はこちらから→https://www.ecllive.com/
 (こちらのLive Scheduleのリンクから、購入ページへどうぞ)

今年最後のLIVE、ぜひお会いできますように。
楽しみにお待ちしてますね。