現在、線毛機能不全症候群(PCD)の原因として、運動性繊毛の形成や機能に関わる50以上の遺伝子の機能不全が知られています。そのうちDNAI1遺伝子の異常は、今から25年ほど前にPCDの原因として一番最初に報告されたものですが、日本ではこの遺伝子によるPCDはかなり稀です。

 

最近、海外で、機能していない繊毛遺伝子DNAI1に注目し、安全性と効率を高めた上で正しく働くmRNAを合成して、特殊な脂質ナノ粒子に封入して、エアロゾルとして吸入することによって肺に送り、繊毛の動かない呼吸上皮細胞に取り込ませ、正常なタンパク質を発現させようという取り組みが、培養細胞や動物を用いた実験で試みられています。あまり長大な遺伝子では技術的に難しそうに思われますし、ヒトでは実用化されてはいませんが、うまくいけば、今後、他の原因遺伝子についても同様な方法が試みられる可能性があると思います。
その現状が下記の論文で紹介されました。

 

吸入型DNAI1 mRNA療法とCOVID-19 mRNAワクチンは、mRNAを細胞内に送って特定のタンパク質を産生させるという点では原理がよく似ています。PCDの場合、mRNAを送る方法が、注射ではなくて吸入であること、作らせるタンパク質がウイルスの一部ではなく、欠損している繊毛の構成成分であることはちがいますが、両者とも脂質ナノ粒子を使用してmRNAを保護・運搬し、細胞内で翻訳させる仕組みは共通しています。

今、海外では第一相試験が始まりましたので(NCT06633757)、実際にこの仕組みが本当にPCDで実用化され、どのくらいの間隔で吸入すればどれほどの効果があるのか、副作用はどうなのかなど注目されるところです。