線毛機能不全症候群が指定難病として長らく認められなかったのは、その病気の可能性を臨床医が強く疑っても、日常的な検査だけでは 繊毛がおかしいことを直接示すことができない、つまり確定診断には至らず、指定難病として必要な客観的な診断基準を満たしていないと判断されたためでした。


この10-20年間、この領域の研究が進歩して、この病気を客観的に診断できる道すじが見えてきたので、ようやく今年から指定難病に認められました。


しかし依然として、線毛機能不全症候群は稀少疾患であり、繊毛がおかしいことを示す検査は日常的には行えないため、ごくわずかの専門医療機関でしか、診断経験が蓄積されていないことは問題でした。


そこで国としては、現在、国際的にこの病気の確定診断法として最も重要と考えられる遺伝子検査を保険収載して、採血管に採った1-2mlの血液を特定の検査施設に送りさえすれば、日本全国、どこでも施設要件さえ整っていれば、その結果が手元に戻ってくるような道筋を作りました。

 

 

ただし検査費用は掛かりますし、病気の可能性が高くても確定的な診断結果が得られない場合があります。それでも一度診断が確定されれば、半永久的に通用する検査所見ですので、現在、日常的に医療費が高額であるか、今後そうなりそうな場合に、大きな意義を持つと思われます。

 

その際に、遺伝学的検査の持つ意味については、検査の前に主治医の先生を中心とした医療者側に十分説明してもらい、手続きを踏んで、納得してから受けるのでないといけません。一方、一般の臨床医がこの仕組みをうまく利用していくには、遺伝カウンセリングを含めて、検査結果や意義をしっかり説明できるよう、専門医、専門施設と相談しながら確定診断を進めていくことが必要になります。
 

あらためて、線毛機能不全症候群の指定難病申請要件として記載されている線毛機能異常と遺伝学的検査の項目について再掲します。どちらかを満たしていることが申請に必要とされています。


<診断基準>
Definite、Probableを対象
とする。 
A 主要項目
1.~ 6.省略
7. 線毛機能異常(鼻粘膜または気管支粘膜の生検で上皮細胞を採取して高速ビデオ顕微鏡で線毛の動きの異常を認めるか, あるいは電子顕微鏡で微細構造の異常を認める)
B 遺伝学的検査
線毛機能不全症候群に関連する遺伝子(遺伝子名、以下省略)・・・常染色体潜性47遺伝子では両アレルに病原性変異を認め、常染色体顕性1遺伝子では、片アレルに病原性変異を認め、X連鎖潜性3遺伝子は、女性では両アレルに、男性では 1つのアレルに病原性変異を認める。
C 鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
嚢胞性線維症、原発性免疫不全症候群
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの1~6のうち少なくとも1つを満たし、かつBのうち少なくとも1つを満たし、かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Probable:Aの1~6のうち少なくとも1つおよびAの7を満たし、かつCの鑑別すべき疾患を除外したもの