希少難病の診断のために特殊検査が必要となる場合、さまざまな困難が待ち構えています。

患者数がもともと極端に少ない場合、需要が乏しいため、検査会社が進んで検査法を確立して、厚労省に保険収載を働きかけることはほとんど期待できません。
 

これまで臨床、研究、教育に力を入れる大学病院等は、しっかりした診断結果に基づいた症例報告ができるように、病院自体が費用を払って、保険収載されていない特殊検査を外注したり、自前で検査系を確立するなどして、この問題に対応してきました。現在、電子顕微鏡観察も遺伝子解析も、特別な専門病院に頼らずとも、どこの病院でも費用を支払えば、しかるべき検査会社に外注して結果を得ることはできます。しかし市中病院でそこまでする施設は少ないものと思います。
 

そのような状況は本来よろしくないので、国はあえて希少疾患を指定難病として認定することで、その診断や治療法の均てん化を推進しているように思われます。実際、さまざまな先天性疾患の遺伝学的検査は、国主導で指定難病に認められた後に、次々に保険収載が認められています。

 

 

確かに、保険収載されていない項目が指定難病の診断に必要になるのはおかしいことなので、線毛機能不全症候群の診断のための遺伝子検査については、この6月以降に、保険収載されることが発表されています。その他の特殊検査の保険適用については医療者側(学会など)も患者側(患者会など)もボトムアップで国に声を届かせることが必要になります。

 

たとえば気道線毛の電子顕微鏡検査については、内科系学会社会保険連合(内保連)の病理関連委員会(日本遺伝子診療学会、日本臨床検査医学会、日本病理学会、日本臨床細胞学会)が要望書を作成し、厚労省中央社会保険医療協議会(中医協)に上げて、最終的に厚労省に認可してもらうルートが一般的と言われています。この検査は、鼻粘膜(下鼻甲介)表面にブラシ、キュレットを用い、採取した組織片を電子顕微鏡用の固定液に入れて提出することが最も安全で確実な方法です(線毛機能不全症候群の診療の手引き p.36)。
 

しかし、この30年以上前から、線毛機能不全症候群の診断に電子顕微鏡検査が有用とわかっていながら、保険収載されてきませんでした。それはひとつには、指定難病にもなっていない稀な病気については、全国規模での診断体制の確立に目が向いていなかったということかと思います。ですので、指定難病に認められた今が診断体制確立の最大のチャンスなのだと認識されます。