ヒトにおける繊毛機能の異常を伴わない内臓逆位についての研究は限られています。

検索しても、最近の日本語の文献はほとんど見つからないようです。

 

一般に、内臓逆位を持つ4分の3の人々は、逆位を持つこと以外は健康上の問題がないと言われています。

 

Postema MC, Carrion-Castillo A, Fisher SE, Vingerhoets G, Francks C. The genetics of situs inversus without primary ciliary dyskinesia. Sci Rep. 2020 ;10(1):3677.

これは比較的最近ヨーロッパから報告された、小規模ですが、現状を理解するには適したケースシリーズと思いました。日本語の要約をつけると大体以下のようになります。

 

内臓逆位(SI)は内臓器官の左右が鏡のように反転したもので、常染色体潜性の原発性線毛機能不全症(PCD)に伴って起こることがある。しかし多くのSI保有者はPCDではなく、その原因はまだ十分に研究されていない。我々は15人のSI保有者(うち6人はPCD)と15人の対照者のゲノムの塩基配列を決定した。これらのうち、PCDでないSI保有者は左利きの割合が高く(9人中5人)、これは発生時に脳と体の左右性が関連する可能性を示唆している。PCDであるSI保有者6人は、いずれもPCDの原因としてすでに知られている遺伝子の潜性変異*を有していた。2例のPCDでない SI例も既知のPCD遺伝子に潜性変異を有していたことから、一部のSI ではPCDの浸透率**が低いものと考えられる。PCDでないSI のうち1例ではPKD1L1遺伝子に、もう1例ではCFAP52WDR16としても知られる)遺伝子に潜性変異がみられた。これら2つの遺伝子は以前にもPCDを伴わないSIと関連していることが報告されている。しかしこのデータセットに含まれる左利きの3人を含むPCDでないSI 9人のうち5人には単一遺伝子疾患を示唆する明らかな論拠が見られなかった。環境の影響あるいは初期発生におけるランダムな影響の可能性についても考慮する必要がある。

 

*潜性変異:対になっている染色体上の同一遺伝子の両方の配列に問題があるときにのみ、症状が現れる性質を持つ

**浸透率:ある遺伝子の病的変異によって発症する可能性のある人々の中で、実際に症状が現れる割合のこと