最近の研究によると、線毛機能不全症候群の50以上の原因遺伝子の分布は国や人種集団によって大きな偏りがあることがわかってきました。
 

 

その結果、この疾患の診断に用いられる遺伝子以外の古典的検査手法について、注意すべき点が明らかになってきました。例えば明らかな繊毛超微細構造上の異常が見られない遺伝バリアント(DRC1の大規模欠失など)が、この疾患の原因として頻繁にみられる国や地域では、電子顕微鏡による診断だけでは患者の半数以上を見逃してしまう可能性があります。

 

一方、遺伝子診断は国際的なACMG/AMP基準に準拠した判定が提唱されていますが、曖昧な部分が残っており、本症の診断法はかなり複雑です。さらに遺伝子検査の適応や解釈に習熟している(成人患者のための)呼吸器内科医が少ないことも問題です。しかし遺伝子診断は今後、線毛機能不全症候群の患者中心のケアにおいて、ますます重要になっていきます。たとえば将来的に、まだ実用化されていない遺伝子特異的mRNA補充の試みなど、個別化医療のための国際的な臨床治験に参加するには、遺伝子検査結果の確認が必要となると考えられます。

 

繊毛の動きに関わる特徴的な超微細構造欠損があると、内臓逆位を有する可能性が高まるため、電子顕微鏡診断では内臓逆位を有する古典的カルタゲナー症候群がより診断されやすくなります。また繊毛超微細構造の欠損がない場合、鼻腔一酸化窒素(NO)産生量が異常を示しにくい傾向があります(ただし日本人のDRC1の異常では、鼻腔NOは低くなりますのでこの点は当てはまりません)。まとめますと、日本人の場合、カルタゲナー症候群の場合を除いて標準的な電子顕微鏡による診断法が欧米ほど効率的でないと考えられます。一方で、遺伝子検査では診断のつかない場合もあり、いくつかの検査を組み合わせることが、本症の診断上、有用とされています。

 

また冒頭の報告では、CCNOCCDC39、およびCCDC40を原因とする場合に、肺機能が低下しやすい傾向が示されています。日本ではまだ症例数は少ないので全体像は不明です。みなさまのご協力により、今後そのあたりがはっきりしてくるのだと思います。

 

結論として、繊毛超微細構造の病理学的欠損がなく、内臓逆位が見られないタイプの遺伝子異常が高い割合で存在する場合、電子顕微鏡を主体とする従来の検査では診断が困難であり、遺伝子検査がより重要になります。また原因遺伝子によっては臨床的特徴が異なり、遺伝子診断をすることにより、本症の臨床的予後予測に役立つ可能性があります。特定の遺伝子が原因であることがわかったなら、より厳密で集中的な臨床管理が必要となるものと予想されます。