多国籍企業と製品開発
研究開発とは科学的な事実を発見し、その用途を考え出し、実際の製品などに展開することをいう。このようないい方は、イノベーションが技術プッシュで生み出されているような印象を与える。しかし、どのイノベーションであれ、市場のニーズがあるところでないと起こりえないだろう。イノベーションとは人々の満たされていないニーズを充足するために起こるからである。人々に受け入れられるイノベーションをつくるためには市場機会がどう充足されるかのを分析することが大切である。潜在的な機会が存在している市場とこれに対抗する企業との関係が大事になってくる。そこから多国籍企業の存在が重要であることがわかる。
ここでかつての欧州系多国籍企業を年頭においたマルチナショナル型を見てみる。
欧州企業は戦前各国が規制により分断され、コミュニケーションの手段が発達していなかった期間に多国籍展開をとげた。輸出では入れられない状況と本国と同じ商品を現地生産しようとしても必ずしも事業許可がでるとは限らない。そこで同族またはそれにあたるような信頼のおける者を送り、どのような事業を興すのかを委ねた。それを同族資本主義という。また、子会社は極めて高い自律性をもった。親会社は財務上の報告をうけるだけで儲けがでている限り経営の具体的な部分には口出ししない。なので現地における子会社の経営はまったく自由だった。通信技術が未発達で業務や事業マネジメントについて本国から細かい指示をすることができない時代でも企業の海外進出ができたのは、マルチナショナル型の組織形態と財務会計の技術の発展によるものであったと私は思う。しかしマルチナショナル型にはメリットだけでなくデメリットもある。それは、このようなやり方はイノベーションを国境を越えて移転できないとか、開発面、生産面でグローバルな規模の経済性を達成できないといったデメリットもある。
次にインタナショナル型について考えてみる。多くの米国企業が戦後米国および米国企業が圧倒的な優位をもった時期に多国籍的展開をとげた。本国市場は当時世界で最も進んだ市場であった。世界で最も豊かであり、高所得関連型、労働節約型のニーズをもっていた。また科学技術が発達しており、こうしたニーズを充足するのに必要とされる技術を生み出した。また未充足ニーズを充足するモノを作り出すのに必要な新たな装置や部品、材料を供給してくれる幅の広い周辺産業をもっていた。インタナショナル型では現地法人がグローバル本社のもつ製品やノウハウなどを各国の事業環境に適応するための移転、現地化などのイノベーションを担い、新製品の開発や現地での事業展開の方針などをグローバル本社のコントロールの下で現地法人が立案・実行することであると考えられる。
次にグローバル型について見てみる。日本企業は自由な貿易体制の下で輸出によって世界を席戻したあと、70年代、80年代に多国籍的に展開した。日本企業の特徴は集団資本主義にあり、重要な意思決定は、集団的なコミュニケーションと人間関係が貫徹する本社の中だけで行われる。能力もまた本社に集中される。考える力も本社に集中する。現地には組み立てや販売、サービスといった役割しか与えられない。そして海外子会社の経営は、日本の経営システムの特徴を理解しているものに委ねられる。このアプローチにおける大きなメリットとして、開発面、生産面におけるグローバルな規模の経済性を達成できることである。一方このアプローチのデメリットは子会社に製品や製品を生み出す戦略が少なく、既成のものを改良することもできないというところである。まとめるとグローバル型とは日本企業に多くみられる形態といわれる。経営資源や能力の多くを本国本社に集中させ、海外子会社は本社の戦略に従って行動する。標準化された製品を大量生産する場合など、グロー バルな効率性の追求には適した形態であると考えられるが、海外子会社には知識の開発や保有 といった権限が与えられていない。
次にトランスナショナル型について見てみる。トランスナショナル型とは、マルチナショナル型、グローバル型、インタナショナル型の利点を全て併せもつ理想型である。その特徴は能力の分散、専門家、相互依存にある。それぞれの子会社は、高い自律性をもつ。また考える力と実行する力をもつ。担当国は特異な環境の下にある非常に特異な国である。ただ、あるライフスタイルに関してリードマーケットといえる特徴を持っている。まとめるとトランスナショナルは本社、海外子会社に関わらず、独立した複数の事業単位間で経営 資源や能力などを相互依存的に交換しながら、事業単位ごとに戦略策定と責任の分担が行われ、企業グループ全体で機能を発揮させる形態である。したがって獲得された知識、情報、ノウハウ、技術などの管理と分配も企業全体で実行される。例えば基本的な部品を標準化しその他の 部分は市場特性に合わせた特徴をもたせる製品生産を行いたい場合、本社が効率化を追求する ための標準化の役割を果たし、現地の海外子会社が現地市場への適応化の役割を果たすなど、 事業単位それぞれが自立的役割を担うのである。また近年において、製品開発能力が企業の競 争優位のため重要な戦略と位置づけられていくなかで、トランスナショナル企業の知識管理は、 研究開発能力を本社か現地かのどちらかに集中させる方法をとるのではなく、本社と海外子会社の情報の共有、蓄積によって、企業グループ全体でこれらの情報を分かち合い、世界的な解決を図ろうとするのである。つまりトランスナショナル組織は、各海外子会社の役割と責任の分化により、企業グループ内の複数のイノベーションやさまざまな資源を、統合ネットワーク によって同時に管理をし、相互補完的に複数の目標達成を可能にさせる組織システムといえる ものであり、本社、海外子会社のそれぞれの能力に応じて相互に関連性を持つネットワークの 形成が、企業競争力へ繋がることを示唆したものなのであると考えられるだろう。
次はメタナショナルについて考えてみる。メタナショナルとは国を超越したというくらいの意味である。その本質は世界のリードマーケットやCOEにアクセスし、知識を獲得し移転し、既存の知識と融合し活用することでイノベーションを達成することにある。この考えかたの下では自国に優位がない企業であってもグローバルな企業になり得る。大きな特徴が3つある。一つは自前主義でないこと、そして二つ目は新興国の重視ということ、もう一つは自国主義ではないということだ。まとめるとメタナショナルとは、重要かつ希少な知的経営資源が世界各地に点在し、また、本国に培った競争優位性の賞味期限が短くなりつつある状況を鑑み、世界各地の経営資源をオーケストラのように融合し、本国のみでなく世界中で価値創造(イノベーション)を創出し、さらにダイナミックなグローバル・シナジーによって、持続的な競争優位性を確立することを目指すということだ。
次に今日の多国籍企業にとっての研究開発上の課題について考えてみる。
国際マーケティングには先行マーケティングと、後行マーケティングという考え方がある。先行マーケティングは、先行市場に先にはいってそこでの経験を自国が発展したときに生かすという考え方を指している。一方後行マーケティングは自国における過去の経験を後行市場に生かすという考え方をさしている。先行マーケティングは、新興国企業の視点から見ると今もなお有効であるが、それに対して後行マーケティングはやや意味をなさなくなってきている。今日の新興国は過去における先進国とライフスタイルにより大きくことなっている。
次に多国籍企業における新興国への在り方を4つのフェーズに分けてみた。フェーズ1はグローバリゼーションだ。私はグローバリゼーションとは何か疑問に思ったので調べてみた。
国を超えて地球規模で交流や通商が拡大すること。
世界全体にわたるようになること。(広辞苑より)
とある。つまりグローバルという層は新興国のプレミアムマーケットでありライフスタイルに同一化しており、先進国と同一の商品を好む。したがってこの層をターゲットとするかぎり、先進国企業が提供する製品は本国起点でよいということだ。そしてフェーズ2がグローカリゼーション、フェーズ3がローカルイノベーション、フェーズ4がリバースイノベーションと分けることができる。今イノベーションの実施の主体がローカルになっている。ゼロベースから新しいプラットフォームを開発するには現地ニーズの徹底した掘り起こしと現地で調達できる部品、材料にあわせた設計が必要になる。ニーズの掘り起こしには、現地従業員の助けがいる。彼らは顧客と生活様式や価値や経験を共有しているために顧客が、本当に必要としているもの本当にほしいと思っているものを捉えやすいからである。したがって現地が抱えるニーズの重要性さえわかっていれば、またそれを充足することへの本社の肩入れさえあればイノベーションは現地主体でも起こり得るし、本社主体でも起こり得るのでたる。
次にアーキテクチャと開発の類方について見てみよう。これまでの議論は大量生産時代を想定して行われてきたが今からはデジタルについてみていく。製品のアーキテクチャには、モジュラー型とインテグラル型の2つがある。これら2つでは、産業構造が異なるだけでなく、市場競争での勝ち負けを決める基準や企業戦略、マネジメントのあり方まで大きく異なってくるだろう。近年、モジュラー型の商品が増えたことによって、日本企業のものづくりの強みが発揮できなくなったのではないかと考えられる。日本語で表現するとすれば、モジュラー型は組み合わせ型、インテグラル型は擦り合わせ型と考えてもいいかもしれない。ある国に偏在する組織能力と、ある製品に体現されたアーキテクチャの間に、ある種の相性が観察される場合に、その製品はその国において 競争力を発揮し、その国からの輸出が得意になる可能性が高い。
次に米国企業が強みをもつ領域であるデジタルモジュールについて見てみよう。デジタルモジュールは最初からグローバル化していることが多く、アーキテクチャをとる企業は国境がない市場に対面していることが多い。アーキテクチャをとる企業はCOEの中で生まれることが多く、すぐにグローバル化していた。しかし最近ではリードマーケットの位置、要素技術にかかわるCOEの位置が分散し、それらにアクセスし知識を獲得し移転して既存の知識と融合して活用することが大事になってきている。一方でデジタルモジュールは生産において場所をえらばない。デジタルはモジュールアーキテクチャとの相性がいいことがわかったが、インテグラルと組み合わさることも稀にある。開発、生産をインドのような低コストの国に集約させることによってカスタムテーラーによる差別化優位とコスト面での優位を同時に達成することができるのである。
最後にフィジカルモジュールについて考えてみる。フィジカルモジュールとは中国企業が得意とするアーキテクチャである。これはモジュールを調達して組み合わせるだけの簡単なものだ。このため機敏に顧客ニーズに応えることができるのだがデメリットとして誰でも簡単に作れることから他者にすぐ追いつかれてしまう。したがって顧客ニーズに敏感に答え続けることや大きなスケールメリットをいかし残存者利益を享受することが生き残るポイントになってくるだろう。このアーキテクチャの売りは製品がとにかく安いことである。広大な国内市場を背景に低コストでの加工、組み立てをした場合安さでグローバル優位を達成することができる。しかし、これは中国の場合であり、もし日本企業がこのアーキテクチャをとるならばボリュームを稼げる企業との共同調達が重要な鍵になってくるだろう。安い労働力を求めて多くの企業が中国に進出することがあるが日本と中国の違いを理解した上で企業と共同し、アーキテクチャをフィジカルインテグラルからフィジカルモジュールに変えるなど対策をすることによってモジュール調達においても巨大なスケールメリットをだすことができるだろう。
