ジローパパの夜の独り言 -3ページ目

ジローパパの夜の独り言

車のことを中心にのんびり書いていこうと思います。

  多国籍企業の特徴の最後は「カントリーリスクの収益化」です。

  かつては、日産に限らず日本の自動車メーカーは、一部を除いて日本と北米、そしてチャレンジする場としての欧州の3大マーケットを主戦場に選び事業を展開していました。(例外は大金持ちがいる中東でしょうか。)

  これは大量に高額商品である自動車を購入できる中間階層が成立しているのが西側先進国に集中していたことを意味しています。
  
  70年代後半の中国は、鄧小平のもとようやく開放政策にかじをきったところで、日本ではNHKが石坂浩二のナレーションと喜多郎のシンセサイザーのBGMが印象的なドキュメンタリー「シルクロード」を制作し、日本中が中国ブームに湧いていた時代です。
  そのなかの中国の人々の多くは、人民服を着用し、貧しい農村で質素な生活を営んでおり、戦後の高度経済成長の中で故郷を離れ、都市生活を享受していた多くの日本人には、そこはかとない郷愁の念を持って好意的に受け止められました。
  当然、自家用車は庶民には手が届かない一部特権階級のアクセサリーであり、西側のルールが通用しない社会主義経済の中国は、西側の民間企業にとって旨味のある市場ではありませんでした。

  しかし、このタイミングで中国に足がかりをつくっていたのがフォルクスワーゲンです。
  サンタナのノックダウンで中国国内生産の協力を開始しています。
  ちなみにほぼ同時期、日産もサンタナのノックダウン生産を受託していました。
  こうしたフォルクスワーゲンの姿勢は、おそらく先進国企業としての経済協力というだけでなく、膨大な人口を抱える中国への先行投資的な意味合いが含まれていたものと思いますし、実際同社は現在中国で最大のシェアを確保しています。(ディーゼルエンジンの排ガス偽装問題で今後はわかりませんが。)

  当時日本でも鉄鋼業界では、ODAの枠組みのなかで新日鉄が中国の高炉建設に多大な支援を行ったことは有名ですが、民間による純粋なビジネスとしての投資は、まだまだ緒についたばかりの段階でした。
 
  日本のメーカーが、ビジネスとして海外投資を本格化させるのは、80年代の後半から90年代に入ってからです。

  最大の要因はプラザ合意による急激な円高ですが、東西冷戦の終結により資本主義の経済ルールが適用される領域が大幅に拡大されたことも大きな要因のひとつでしょう。

  こうした大きな環境変化のなかで登場したのがカルロスゴーン氏です。

  彼が日産に乗り込んできてからの海外投資、海外展開には目を見張るものがあります。

  そこから感じるのは、経済体制がマージナルな国々に対する、今までの日本メーカーにはない積極的な姿勢であり、先行メリットの追求です。

  たとえば、以前にも触れましたが、日本メーカーのなかで中国への投資は日産が最も積極的であり、ルノーと共同でロシアのトップメーカー、アフトワズ社を買収したというのも、その象徴的な事例のひとつです。

  中国もロシアも、共産主義経済体制こそ崩壊しましたが、なお政治体制は不透明であり、誰もが安心して付き合える国ではありませんが、それを百も承知で強気な投資を、しかも早目に行うところが、ゴーン氏率いるルノー日産連合の大きな特徴です。
 
  こうした投資ができる背景には、高い情報収集力と国際交渉力の存在がある気がします。

ニューヨークのイエローキャブの独占供給権を取得したことや、リーフで採用した電気自動車用の急速充電規格を国際標準にすることができたことなどは、ルノー日産の国際交渉力を見せつけた事例ではないでしょうか。
{340B58FC-F864-444F-A635-91848EC71346:01}


  日本の企業が開発した、高い競争力のある商品が国際基準とすることができずに消えていった話は枚挙に暇がありませんし、そもそも自動車では国際規格に採用させるほど研究開発が先行すること自体がほとんどありませんでした。

  急速充電規格の国際基準については、ヨーロッパ勢が別の規格を持ち出す激しい戦いを繰り広げ、結果として両方が採用されることになりましたが、一時はまた負けるのかと不安視する見方もあるほどでしたから、今回の結果はルノー日産の実質勝利といえると思います。

  日産が社運をかけて開発した電気自動車を世界的に普及させるには、急速充電規格の国際標準化は欠かせないことだったと思いますが、これを取りこぼすことなく、しっかりと成し遂げたのは見事でした。

  こうしたルノー日産の交渉結果を見ると、これまでの日本の大企業とは全く次元の異なった交渉を行っているように思われます。

  なにより、欧州にルノーという頼りになる親(今となっては兄弟)会社があるのは、他の日本メーカーと大きく異なる点だと思います。
  狡猾な欧州に身内がいる(しかもフランス政府が大口株主として鎮座している!)というのは、他国の情報を収集するうえでも、他社と交渉するうえでも大きなアドバンテージになっているのではないでしょうか。
  アフトワズ社の買収など、ロシア政府がチャチャを入れるのが容易に想像され、ただの日本の企業では二の足を踏んで決断できそうもない案件です。いつかその内幕を綴ったルポを読みたいものです。

  また、日本と欧州の2つの顔を持つことを、ビジネスに最大限活用していることも見逃せません。

  日本と韓国の間には、国民が相互に特別な感情を持ち、それに基づく政治的な対立が続いていますが、ルノー日産連合は、ルノーを前面に押し出すことで、サムソングループとの間で良好なヒジネス環境を作り上げることに成功しています。

  恐らくフランスによい印象を持っていない地域には日産が、逆に日本の企業名では商売が難しい地域にはルノーがビジネスを展開することで、全世界規模の事業展開が可能になっているのだと思います。

  自動車業界において、このような世界戦略を描けるグループは、なかなかありません。
  トヨタもホンダも、本質的に持ち得ない属性であり、唯一ルノー日産だけが手にすることができた強みだと思います。

  これまで日産という企業の歴史を一ファンとして振り返ってきましたが、今の日産はかつてとは大きく異なり、日本企業としては類稀なる情報収集力と交渉力を手に入れ、その振る舞いは、日本だけでなく世界のどの企業にも全く似ていない、大変ユニークな存在に生まれ変わっています。

  そして、ダイムラーとの提携です。
  三菱ともクライスラーとも上手くいかなかった、あのダイムラーをゴーン氏は選択し、そしてインフィニティQ30.QX30として具体的な成果物をマーケットに示しつつあります。

  全世界をマーケットに見立て、カントリーリスクを収益化すべく、冷徹なビジネスジャッジのもと着々と布石を打つ多国籍企業たる日産が次に打つ手は何なのか、本当に目が離せません。
ダイムラー