5-1はコチラ・・・
5-2はコチラ・・・
浅い眠りから覚めると京子は時計を探す。2時10分を少し過ぎたところだ。
ふたつの針が少しだけ離れているところが私たちの距離を表しているようで何だか情けない。
京子は時間がわかると昔から落ち着いた。
自分がいる時間と場所がわかっているのは精神の安定上とてもよい事だといつも思う。
ちょっと眠っただけでずいぶん酔いがさめるのはなぜだろう。
もう少しで夜明けだったら長い夜を孤独に過ごさなくてもよかったのに。
京子は昨日作っておいたジャスミンティーを冷蔵庫から取り出しグラスに注いだ。
ひとくち含んで香りを確かめた。
ふたくち目を飲もうとして、何だか肌寒く感じてグラスをキッチンに置いた。
それからエアコンをつけて、Tシャツとパンツをはいて、キッチンで顔を洗った。
高梨のタバコがテーブルの上に無造作に置かれている。
京子はそのタバコを1本取出して、久しぶりに吸ってみる。
クラクラするし美味しくない。もう受け付けない身体になったのだと感じた。
クリスマスから数えて、高梨が部屋に来たのは今日で3回目だ。
クリスマスの後、京子は絶対に自分から連絡しないと固く決めていた。
酒が入ると電話してしまいそうなので、ほろ酔い以上にならない様に注意して生活した。
すると1週間後の会社の忘年会の後に電話が鳴り、当然のように抱かれた。
先週と同じセックスになぜだか安心した。
しかし、そのあと年末年始に入ったらパタリと連絡が来なくなって、京子は張り裂けそうになった。
胸に重たい石を乗せられているような息苦しさを感じた。
そもそも高梨のことが好きなのかどうか、京子にはわからなかった。
でもなぜか発狂しそうだった。
1回や2回寝たくらいで彼女気取りしているつもりもない。
でも連絡が来ないという事は。
高梨は京子のことが好きというわけではない。という事実を物語っているような気がした。
やっぱり年末年始は実家に帰るべきだったなと京子は後悔した。
もしかしたら電話が鳴って一緒にどこかに出かけたりと誘われるかもしれない。
部屋に行ってもいいかと連絡が来て一緒にお正月のつまらないテレビを見るのもいいかもしれない。
期待していないつもりだったのに、なぜかどこにも出掛けることが出来なかった。
気付くといつも電話を見つめている。
もともと友達なんだし1度くらい電話してもおかしくないのではないか?
「あけましておめでとう」くらい言っても普通なのではないか?
色々な言い訳を考える。
高梨への言い訳。それと自分が電話をしないと決めたことを覆すための言い訳。
京子はベルが3回なっても出なかったらもう2度と掛けない。そう自分言い聞かせながら電話をかけた。
高梨は電話に出た。外出中のようだ。そっけなかったがとりあえず電話には出てくれた。
なんとなくほっととする。
京子は明るく話していたつもりだったが、高梨がもう切ろうとしていることを感じて
「次はいつくるの?」となるべくさりげなく聞いた。なるべく。重くならない様に。慎重に。
「わからないけど新年会の後くらいかな」面倒臭そうな声で高梨は言った。
そして今夜、新年会の後。約束通り高梨は現れた。
京子も同じ会に出席したが、先に部屋に帰って待つつもりだった。
しかしなんとなく最寄駅の改札を出たところで高梨を待った。
早く会いたかったわけではないが、なんとなく並んで歩きたかったのだ。
それに、来ることが分かっている人を待つのはわくわくするものだ。
高梨は10分後に改札に来た。
特にほほ笑んだりはしないが京子を見て小さくうなずくようにしたので、京子はうれしかった。
きょうたのしかったね さむいね コンビニよってく?
ぽつぽつと会話をしながら歩いていると 今まで待たされていた想いが開放されていくような感覚をおぼえた。
部屋がもう少し遠かったら良かったのにと初めて思った。
京子はわざとゆっくりめにあるいた。
高梨は部屋に入ると電気もつけずいきなり抱きしめた。そして京子は強引にベッドに押し倒された。
それは愛のある行為ではなく、欲望を満たすためだけのものだと完全にわかった。
こういうのを望んでいたわけじゃないのに。ただ一緒にいたかったのに。
京子は感じるフリをしながら早く終わることを祈った。
ジャスミンティーを再び口に含みながら 自分のベッドで寝ている高梨を見つめる。
高梨はもうここには来ないだろう。そう思わせるセックスだった。
顔を見ているのがつらくなり時計の針を見つめる。
1秒1秒朝に向かって規則的に進むのを確認すると京子は少し安心した。
お互い好きなわけじゃないのに、こんなに悲しくなるのはプライドのせいなのだろうか。
それとも好きなのだろうか。好きだと言われたいだけなのだろうか?
でもこれ以上頑張っても好きと言われることはないような気がする。
好きだとしても、そうじゃなくても。もう高梨との未来はないのだ。
「泣いているの?」 背中から高梨の声がした。
「来てほしいというから来たのに。泣くなよ。こうしてほしかったんだろ」
その言葉は京子の背中に悲しく響く。
泣いているところを見られたら ますます高梨はここに来なくなるだろう。
サバサバした女だと周囲から思われていたのに。
サバサバした女でありたいといつも願っていたのに。
実際の自分はなんてめそめそしているのだろう。
愛されなくてもいいから一緒にいるなんてやっぱり出来ない。
一緒にいるのに愛をもらえないのなら一緒にいる意味なんてない。
泣いている京子をただただ高梨は見ていることしかできなかった。
高梨は始発が動き出すと同時に部屋を出て行った。
もうこの部屋に来ることはないだろう。
来てほしいと言われても もう来るのはやめておこう。
高梨は泣いている京子の頭をポンとなで部屋を後にした。
つづく