昼下がり、最寄駅前のセブンでレジ待ちしていると、支払いを終えたばかりと見えるごく痩せた老女が、出口へと向かおうとしていた。


 あ!お客さま!!
 お待ちください
 お支払いが完了していません
 もう一度、Suicaのタッチを
 お願いします!


女性店員がレジから大きめの声で呼び止める。

老女は鈍い反応ながらも店員の求めに応じ、手に握りしめる透明なポリ袋をタッチの的へゆっくりと押しつけようとするが、半分近くが枠外だ。

ポリ袋の中にはたたまれた千円札とじゃらじゃらとした小銭が放り込まれている。財布のようだ。

握りしめるそのお札の中に、Suicaが隠されているようで、彼女はタッチ決済の的をなんとかクリアでき、店員が礼を云う。

もう片方の手に小さめのレジ袋を握りしめ出口へと向かう彼女とすれ違う。

灰色の長い髪の前は大きく膨れ上がって固まっており、背中は横方向にも屈曲している。衣服はうす汚れ、すれ違いざま刺激臭を覚える。アンモニア臭であろうか。

レジ袋の中には、いつものように、500mLの高アルコールのチューハイ缶が2本、入っていた。


彼女を見かけるのは3年ぶりにもなろうか。以前は数ヶ月に1度くらい、最寄駅の商店街のどこかで見かけた。

とても痩せていたが割とスタスタと歩き、小ぎれいにしていたが、いつも1人。チューハイ缶2本が入った小さなレジ袋を運んでいた。

すれ違うたび、胸が痛んだ。どんな理由があってかはわからないが、孤独なアルコール依存なのだろう。あの痩せ方では、肝臓も腎臓も弱り切っている。そしてレジ袋に缶チューハイ以外が入っているのを見たことがなかった。

時々すれ違うだけのまったくの赤の他人な訳で、胸を痛めるなどというのは完全にこっちの勝手なのだろう。

ただ、彼女のような人は、自分でコントロールできる範疇を越えているのだから、福祉の網で救えないのだろうか。

考えたが答えはない。


元々小柄で細い人だったが、今日みかけた彼女は、絶望の閾値を遥かに超えているように思えた。

わかったことは、今でも彼女は福祉はおろか社会とも隔絶されたまま、また今日の分の束の間の気晴しを確保したことだ。

そして今日も、わたしは胸を痛めることしかしない。

(おわり)