20thシングル「劇薬中毒」はそのタイトルもさることながらMV(新宮良平監督)の複雑な設定とドラマチックなアクションシーンでさまざまな考察、解釈を呼び起こしています。

 

MVは一般的に、イメージシーン、リップシーン、ダンスシーンから構成されていて、イメージシーンがドラマ的な作りになると、人物や状況の設定、役名(多くはメンバーの名前)、台本(MVの絵コンテとは別のもの)が用意され、それが公けにされることは普通ありませんがメンバーはそれを知った上で演じることになります。

イコラブは全員がデビュー前に声優や演技の指導を受けていて、演技の上手いメンバーも結構います。なかでも、もともと声優志望だった佐々木舞香と野口衣織(今回のWセンターでありMVのW主演)は舞台やドラマを含めた演技の仕事に積極的で演技派の双璧といえます。他に、声優の実績がある齋藤樹愛羅、幾つも舞台に出ている諸橋沙夏、朗読劇やコントに出た大場花菜などがいます。髙松瞳もドラマに出たことがあります。

 

イコラブのMVにはさまざまなパターンがあり、ドキュメンタリー調からCGを駆使した荒唐無稽な設定、失恋からSF、幻想的な怪奇譚までいろいろあります。中でもドラマ的なMVではその世界観やメンバーの演技が楽しめるので私は特に好きですが、逆にイメージ的MVが好きな人はドラマ部分を余分に感じたり、MV中にセリフや現実音が入るのを嫌う傾向があり、MVも長くなることが多いので再生回数が伸びない傾向もあります。

一例を挙げるとイコラブMVで最も長尺なのは5thシングル「探せ ダイヤモンドリリー」(三石直和監督、19/3/25up)で8:16もあり、イコラブのコンサートで盛り上がる定番曲の一つにしては7年経って117万回と再生回数が少なく、代わりにドラマ部分のないDance ver.(19/4/24up, 4:57)が500万回再生という珍しいMVです(ふつうはDance ver.の方が再生が少なく、「青サブ」のみほぼ同数)。

「探せ ダイヤモンドリリー」は瞳が楽曲センターですが、ドラマ版MVでは齊藤なぎさが主人公ともいえ(なぎさと瞳の関係なのでW主演といえる)、なぎさが仲間を離れ一人旅立つという、後の現実の出来事を予見するような設定の中で、なぎさを想う瞳の心の動きを描いています。映画的な画面にするためか横長のシネスコ・サイズ(1:2.35)で撮られていて、MV中に時々セリフが入り、楽曲前と後にドラマ部分が入るだけでなく、長い間奏の後、(非常に珍しいことに)いったん曲が切れて1:20ほどドラマパート(バスで旅立つなぎさを追うパート)になり再び間奏後半に戻るという特殊な構成になっています。それだけに(代アニの伊藤太郎氏に)スカウトされて東京に出発するなぎさの逡巡となぎさへの想いを伝えられない瞳の感情が丁寧に描かれています。

5thシングルという初期のMVなので、全員の髪型(とくに前髪)とか、メガネをかけた衣織とみりにゃとか、当時15歳だったなぎさの際立ったかわいさとか、今見直すとエモい見どころが多いMVです。

 

今回のWセンター「いかりんぐ」(舞香と衣織のコンビ)でいえば、5thカップリング「虹の素」(三石直和監督, 19/5/11up,舞香・衣織のユニット曲)のMVも異色です。このMVにはダンスシーンがなく、リップシーンもつぶやくように口を動かすだけで、歌唱やダンスではなく二人の芝居(高校の屋上と後日大人になった二人の偶然の遭遇)を終始見せるものになっています。MV中で何度も現在(大人の二人)がカットインしますが、曲が終わった後、30秒ほど再会のシーン(渋谷警察署前の新歩道橋、完成直後に撮影)がドラマ的に描かれて終わります。演技のタイプが微妙に違う二人の演技合戦のようなMVであり、当時まだ10代だった二人のOLふう大人メークの顔と現在の二人(ドラマの実年齢?)の顔を比べてみるのも面白いです。非常に好きなMVの一本です。

 

「いかりんぐ」の二人を百合的な文脈で恋愛関係として描いたMV(今回の「劇薬中毒」も含まれる)はどれもドラマ的MVとなっていて、その最初が3rdシングル「手遅れcaution」MV(三石直和監督、18/4/9up)といえます。ふつうのアイドル楽曲ではなく、イコラブの最初の”攻めた楽曲”だったので、MVも冒頭で楽しそうな記念写真が一転して暗い不吉な表情に変わり、舞香・瞳・衣織の三角関係を軸に、なぎさと先生の関係、教育実習生みりにゃと先生の不倫を思わせる関係、沙夏や花菜が情報リークするような悪役と、アイドルMVらしからぬスキャンダラスな内容でした。

沙夏とみりにゃの二人は他のメンバーが高校生役なのに教育実習生というだけでなくその設定も損な役回りだったといえます。このMVもシネスコ画面で、MV中にセリフ(衣織は叫び)や現実音が入り、楽曲に没入したい人には異和感を与えたと思いますが、人物相関図(非公開)まで作られ、全員に役が割り振られ、それを演技するという形で作られた最初のMVだと思います。

 

別な形で「いかりんぐ」の二人の恋をフィーチャーしたのが13thシングル「この空がトリガー」MV(山戸結希監督、23/1/ 27up)です。映画やドラマで活躍する女性映画作家・山戸結希さんを起用(ノイミーで「空白の花」「君はこの夏、恋をする」「はにかみショート」を撮っている方です)。大学の卒業式で袴姿の二人の(というか舞香の)想いと出来事、現在OLとなってそれを回想する舞香を軸に、メンバー全員と絡む青い(空の色の)髪の男(異性愛的世界)、舞香だけが同性に惹かれていて、劇中で舞香と衣織のキスシーンがある。楽曲終了後の二人の出会いシーンの回想(メガネの舞香からメガネはずし、舞香が初めて衣織に恋心を抱く回想シーン)もすごくいい。このMVはドロドロではなく爽やかです。

 

ドラマ的MVで忘れ難いのは、衣織と花菜(ティンターパンがコンビ名)がWセンターを務めた9thカップリング「祝祭」MV(佐伯雄一郎監督、21/8/26up)で、これもシビれるドラマ作品でした。衣織と花菜は男装の執事役、なぎさと樹愛羅が暮らす古い城館(みりにゃと舞香がメイド、しょこと杏奈が料理人)に招かれた娘たち(瞳、莉沙、沙夏)が青髭の館のように餌食になり殺されて(食べられて)しまうというヨーロピアン・テイストのグロテスクな怪奇譚で、イコラブMVの中でも異色中の異色なインモラルな作品です。オーケストラ的な楽曲もこのMVも独特な魅力と世界観を持っていて、たぶん初センターの大場花菜ちゃんの好きなテイスト、宝塚や倒錯的な幻想世界を盛り込んだ楽曲・MVと思われます。

(参考)当ブログ記事

 

 

もう1本、16thカップリング「誰にもバレずに」(佐伯雄一郎監督、24/3/4up、舞香センター)も非常に演劇的なMVです。アイドルになれなかった人の心理をアイドルになった側と対比して描く、指原Pならではの歌詞の世界を、シンプルな舞台とスポットライト、その外側に置かれた人物たち(主人公は舞香)を、舞台と森の世界で比喩的に描くMVで、こういう作品を見ると「劇団イコラブ」という言葉が頭に浮かびます。楽曲ごとに一つの演劇的世界を全員で作り上げ、それをレパートリーとして演じるグループ、というイメージです。どのアイドルグループもそうとは言えませんし、イコラブはとくにその世界(観)に入り込んでパフォーマンスし、聴衆も一曲ごとにそれに没入させるという印象があります。だからこそ、演劇的・ドラマ的MVはイコラブの特質をよく表わすともいえると思えます。

佐々木舞香は25/6のモデルプレスのインタビュー(野口衣織と)で、イコラブの強みとして「コンサートやミュージックビデオでの楽曲への没入感ですかね。MVにドラマシーンがあったり、今回の『とくべチュ、して』でもそれぞれが考えながらパフォーマンスしているので、ただ歌って踊っているだけではなく、いろいろなキャラクターや背景が見えるのが見ていて楽しいのかなと思います。」と述べたことがあります。

(参考)当ブログ記事

 

 

もう一本触れておきたいのが、11thシングル「あの子コンプレックス」MV(大野敏嗣監督、22/4/30up)です。女優・佐々木舞香の演技、一人二役も。

「『あの子コンプレックス』のMVは、比喩(メタファー)に溢れた、深い解釈のできる作品になっています。表面的に見たり、リアリズムで見てしまうと、主人公は海に身を投げ自殺したのかと思う人もいるかもしれませんが、当然ながらこれはすべて主人公の心の中の世界なのです。

付き合っていた男を別の女性(舞香二役)に取られた主人公のメランコリックな内面の世界、心象風景であって、海の底も地の底も夜の雨も、彼女の沈みゆく心の比喩と思われます(歌詞の海や水もそうでしょう)。「死んだように」とか「死にたいくらいに」といった言語表現と似たようなものです。

冒頭で、イコラブの佐々木舞香ではなく主人公を演じる女優という顔つき佇まいで夜の雨の街路に画面左からゆっくり登場した舞香が中央でこちらを向いて見つめます。

(以下略)」(当ブログの以下記事より)

 

 

また、イコラブ公式YouTubeにはアップされていませんが、1stアルバムリード曲「桜の咲く音がした」には下記MV full(高橋栄樹監督、21/3/23up)の前後にさらに3分ほどのドラマパートがついた「アルバムver. 」MV(アルバム版の同梱DVD収録、Type Bには長尺のメイキングも収録)があり、通常MVだけではわからない関係性(とくに瞳となぎさの関係)や友人関係が描かれています。このアルバムver. MVもドラマ的MVの一つといえます。

 

 

 

イコラブの演劇的(シアトリカル)でドラマ的なMVはほかにもあると思いますが、とりあえずすぐ思いつくものを並べてみました。