ニワタマ時感:5月1日(水)……ニワタマ都市伝説 | ニワタマブログ

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鶏がさきか卵がさきか

開店して2~3年目のことだったと思う。

ニワタマ初代の女性スタッフ、今ちゃんが頑張って働いてくれた頃のお話だ。

 

彼女は栄養士を目指して学校に通いながら、ニワタマで働いていた。背が高くて、ショートカットの髪型がお似合いの美人さん。時々雑誌のモデルを頼まれていたのもうなずけた。そんな彼女の趣味はお菓子作り。僕らも時々ご相伴に預かった。趣味とはいえ、プロ顔負けの腕前だった。

ある時、彼女が嘆くように言ってきた。「もしニワタマにオーブンがあったら(当時のニワタマにはなかった)いつでも、ケーキを作れるのに……」と。

確かに、オーブンがあったらお菓子だけではなく、グラタンやパイ包み、パピヨット(当時はやっていた紙包み料理)など、メニューの幅も広げることができる。それは、重々承知していた。しかし、いかんせん当時のニワタマは、わずか8坪足らずの小さな店(隣の店舗が空いてから、今の広さになるまで3回も改装を繰り返した)だった。オーブンなど置くスペースなどどこにもない。現在のようなオーブンレンジは、まだ存在しない時代のことだ。当時、厨房用のオーブンは、中古でも数十万円。買う余裕もなかった。

 

そんなある日、いつものようにダイエー(今のイオン)に買い出しに出かけた時のことだ。その日は、電球が切れてしまつたので、電気売り場まで足を運んだ。当時のダイエーは、近くに大きな電気屋さんがなかったせいか、テレビや冷蔵庫、洗濯機……etc、電化製品の売り場もかなり充実していた。そこで、見つけてしまったのだ。あれを……。

 

『天火』今の若い人はきっと知らないだろう。天火は、ガスコンロの火の上に乗せて使う持ち運び可能なオーブンのことだ。大きさは、小型の電子レンジくらい。もう少し立方体に近づけた感じで、正面にレンジと同じ窓つき扉(下に向かって開く)があって、扉の上の隙間には、中の温度を知らせるための温度計が付いている。天火の底は、直径15㎝ほどの丸い穴が開いていて、直接コンロの火が、その穴に当たるようにセットして使う。しかも値段は、忘れもしない9800円。もちろん、買った!

 

今ちゃんの出番に合わせて、みそ汁やお湯などを沸かすために、開店当初からあったガス台の上に、すぐにでも使えるように準備して置いた。果たして、今ちゃんはどんな顔をして驚くだろうか……ワクワクしながら彼女が来るのを待った。

 

それから、一週間もしないうちにニワタマの天火は、今ちゃんの天火になっていた。温度調節はガスの微妙な火加減で左右される。今ちゃんは、それを見事に使いこなしていった。もっとも火加減が難しいシュークリームまで作ってくれた。

 

そんなある日、今ちゃんからの提案で、イチゴケーキを作ることになった。一週間の中でもヒマな日を選んでチャレンジ!材料は、今ちゃんメモを頼りにニワタマで用意した。春イチゴが出回る季節。1パックと書かれていたが、奮発して2パック用意した。上手くできたら商品として出そう、プレッシャーを与えた。下準備OK!天火の温度も大丈夫。やはり、その日作ることにして正解。お客様0人。スポンジの生地を型に入れ、トントンと空気抜き。天火の中に入れた途端、カランコロン、ドアベルが鳴った。その日最初のお客様がいらっしゃった。思わず今ちゃんと目が合った。「大丈夫か?」彼女は頷いて「大丈夫」と応え、接客に向かった。カランコロン、次のお客様たちが入って来た。先ほどのお客様は二人だったが、今度は4名様だ。

最初のオーダーが入らないうちに、さらに次のお客様……気がつけば、あっという間に満席(昔のニワタマは6テーブルしかなかった)になっていた。今ちゃんは接客の合間を縫っては、天火の窓からスポンジの焼け具合を確かめている。そして、ひきつった笑顔で接客。僕も上野も自分たちのことで手一杯。手伝ってあげたくてもどうにもならない。

 

あまりにも次から次へと、週末並みにオーダーが入ってくるので、あの時の僕は、すっかりケーキのことを忘れていたに違いない。でも、今ちゃんは違った。ふと天火に目をやると、天火の上には、焼きあがったスポンジを収めたケーキ型が乗せられているではないか!この甘~い匂いの正体はこれだったんだ。天火の中で焼かれていた時よりもはるかに甘い幸せな香りで、小さい店の中が満たされた。お客様たちは、この甘い匂いの正体は何ぞや?といった感じで、厨房の中をのぞき込んだりしている。スゴイ!この慌ただしい最中に、ちゃんとケーキを焼いていた今ちゃんに感心してしまった。しかし、感心に値する今ちゃんの作業は、これからだった。

お客様たちがまばらになり、ホッと一息ついていると、カシャカシャカシャッと厨房の隅から音がしてきた。今ちゃんが必死に生クリームを泡立てているのだ。さっきまで山と積まれていた洗い物は、すでに片付いている。周りをきれいにしてから、ケーキを作る。今ちゃんらしい流儀だ。上野が見るに見かねてホイップづくりを交代。今ちゃんはというと、待ってましたとばかり次の段取りに移っている。すり鉢を使って、イチゴをつぶし始めたのだ。何をしようというのだ?僕は、追加の料理を作りながら、横目でその様子を見ていた。

 

そうして、お客様が皆帰られたころには、イチゴケーキが完成していた。

余熱を取ってからショーケースの中で冷やしていたスポンジは、均等の厚さで3層にカットされて、スライスしたイチゴとホイップクリームを間に忍ばせて、元の形に戻す。今度は残りのクリームに先ほどすりつぶしたイチゴを混ぜ入れ、ピンク色のクリームを作る。それをケーキ全体に塗り、ピンク色のイチゴケーキに仕上げる。そして、形のいいものだけ残しておいたイチゴを上に飾って完成。

 

今なら、間違いなくスマホで写してインスタにあげたりするのだろうけれど、あの頃は、カメラで写すのが精一杯のところ。確かに写した記憶があるのだけれど、残念、その写真が見当たらない。40年近くも同じ場所で行動していると、そんな残念な思いをすることは多々ある。いつか見つけることがあったら、ブログに載せよう

あの日から、ニワタマにひとつの伝説が生まれた。

 

「ヒマタマな時にケーキを作ると忙しくなる」

 

今日僕は、バナナケーキにチャレンジした。ゴールデンウィーク最中だというのに、あまりにも暇だったからだ。

 

ニワタマ伝説健在なり!

 

あれから40年近くも経とうとしているのに、大忙しさの中ケーキを焼く羽目になってしまった。もちろん今は、天火ではなくオーブンを使っているので、かなり楽をさせてもらっているけど……。バウンドケーキ型2本分のバナナケーキ、味は上出来、very good!