異なる視点論点㉓(2025年11月20日){国際アジア共同体学会HPより}“転載:伊関”

 高市首相の台湾発言はなぜ大事おおごと になったか 

――2012年の「国有化」悪夢

朱 建栄 東洋学園大学客員教授 

 

高市首相の台湾発言はなぜおおごとになったかpdf 

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(本文中の写真、動画、資料等は、上記URLをクリックしてご覧ください。伊関)

 

   この夏は暑かった。「錦秋」を楽しむ間もなく、冬に突進した。日中関係も、10 月 30 日の首脳会談の「錦秋」がつかの間、大吹雪を迎えている。  

  ちょうど米中首脳釜山会談と「貿易休戦」、四中全会について参考消息を編集しよ うと思ったところ、高市首相の台湾有事発言をきっかけとした一連の急展開で驚いた。 横から、この大事(おおごと)に対する日本社会の鈍感、焦点・本質から外れた騒ぎを 見て、2010 年の「漁船衝突事件」、12 年の「国有化」をめぐる双方の思い違い、すれ 違った対応で正面衝突に至ったことがすぐ連想された。このままでいくと、「二の舞」 が必至だ。80 年前どころか、十数年前の「歴史の教訓」すら学ばれていないことを悲 しく思う。そこで、この号は高市発言問題を取り上げることに急遽切り替え、その経緯 を再整理し、行方も展望することにした。  

 

一 中国側の「全面反撃」に至った経緯 

 

 日本の複数の友人から、「なぜ中国はこんなに怒っているか分からない」と言 われた。

  事の発端は11月7日の衆院予算委員会での質問に対し、高市首相は、「戦艦 を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態に なりうるケースだ」と答弁したことだ。 

 この高市氏の発言に、中国外交部は直ちに批判し、薛剣・駐大阪総領事は翌8 日にXで、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬って やるしかない。覚悟ができているのか」とコメントした。木原稔官房長官は 10 日の記者会見で、薛氏の発言の趣旨は「明確ではない」ものの、「極めて不適切」 だと述べた。 

 しかし高市氏は10日、特定のシナリオについてコメントすることは今後は慎 むとしながらも、発言の撤回を拒否した。薛氏のX投稿はこの時点から、「高市 首相の首を切る」との解釈に「定着」し、主要メディアも一斉に批判を展開した。 11 日、自民党の外交部会らが「国外退去含め対応を」と政府に申し入れた。

  中国という巨艦は発動が遅いが、エンジンがかかると止まらない勢いで動き 出す。どうも13日が転換点で、以後、中国外交部、国防部などは一斉に高市発 言に集中砲火を浴びせ、一連の牽制・圧力措置を公表し、「全面反撃」に出た。 外務省アジア太平洋局長が北京に赴いて交渉しても成果はなく、外交部の劉局 1 長がポケットに手を入れたままの物別れの写真だけが残った。薛氏 X 投稿と劉 局長のポーズという具体的場面に関する話は本文の後半に残すことにし、まず 問題の発端に対する中国の反発の原因、理由を検証する。 

 中国の怒りについてBBC Newsはこう解説した。 

 

【解説】 高市首相の台湾をめぐる発言、なぜ中国を怒らせたのか - BBCニュ ース51112  

 日中両国の間には長年、敵意が存在している。(中略)第2次世界大戦における日 本による中国での残忍な軍事行動にさかのぼる。 

 保守派の高市氏は、アメリカとの関係強化を目指しており、日本の防衛費を増やす 考えを明らかにしている。中国政府はこれに警戒している。 

 高市氏の最近の発言は、台湾に関して日本が従来から取ってきた不明確な立場から の脱却を意味する。(中国外務省は)「日本の指導者は『台湾独立』分離主義勢力にど んなシグナルを送ろうとしているのか」、「日本は中国の核心的利益に挑戦し、統一を 阻止しようとしているのか」と問うた。 

 

ここでは⑴かつての戦争に由来した記憶と双方の「敵意」、⑵従来な立場を逸 した高市発言が、台湾分離独立勢力にエールを送り、中国の核心利益に挑戦した と受け止められた、という二つの理由を挙げた。 

 

        二 反発理由①:中国内政への軍事介入 

中国側の一連の公式発言や重要論評から見て、強烈な反発に至った理由は三 つ整理することができる。 

 第一、すでに伝えられるように、台湾問題に軍事介入の可能性を初めて暗示 し、中国側を脅したと理解される日本政府責任者の国会発言を「日中間の合意、 約束に対する重大な違反・挑戦」と見なし、絶対容認しないことだ。安倍氏は退 任後、「台湾有事は日本有事」と話し、厳しく批判されたが、今度は現役首相が より一歩踏み込んだ発言を国会という最重要な場で行った。 

 これについて中国外交部報道官は13日、次のように表明した。 

① 2025年11月13日外交部发言人林剑主持例行记者会_ 

 高市首相は国会で台湾について露骨な挑発発言を行い、台湾海峡への軍事介入の可 能性を示唆した。(中略)「一つの中国」原則、四つの政治文書の精神に重大に違反し、 深刻な内政干渉、中国の核心的利益への挑戦、中国の主権を侵害するものだ。(問題 の深刻さを指摘) かつて台湾を植民地支配した日本軍国主義は、いわゆる「存亡の危機」を口実に繰 り返し対外侵略を行ってきた。「自衛権の行使」を口実とした「9・18(満州)事件」 は、中国への侵略戦争を誘発した。今回の「存立危機」言及は、軍国主義の過ちを繰 り返し、再び中国人民とアジア人民の敵になろうとしているのか。(歴史的影) 

  台湾は中国の台湾だ。日本当局による台湾海峡問題への軍事介入は侵略行為に当た り、必ず「迎頭(頭に向かって)痛撃」し、国連憲章と国際法に基づく自衛権を行使 する。(対抗姿勢の表明) 

外交部、国防部などの発言はほぼこの趣旨であり、呉江浩大使も「指示を受け て」日本外務省に厳正な申し入れをした。

 ② 呉江浩駐日大使は高市早苗首相の誤った言動について厳正に申し入れ、強 烈に抗議_中華人民共和国駐日本国大使館251117 

この中で印象に残った表現: 

 中国側のレッドラインを越え、武力による威嚇を行い、戦争を搔き立てた。 日本の為政者が台湾海峡情勢への武力介入を叫ぶことは、中国側の核心的利益への 露骨な挑戦であり、自ら進んで「中国分裂」という戦車に身を縛りつけるものであり、 日本自身を破滅への道へと導くことになる。 もし日本が敢えて台湾海峡情勢に武力介入する暴挙に出るならば、それは侵略行為 となり、中国は必ず正面から痛撃を加える。 

 

        三 反発理由②:「台独」勢力への唆し

 高市発言を強く批判した第二の理由はあまり触れられていないが、「どんなケ ースでも統一を阻止し、台湾の分離独立勢力を擁護、支持する下心が露呈した」 と理解されたことだ。 

 中国は「最大限に平和統一を求める」と常に表明しており、トランプ大統領は 11 月2日、9月に続いて改めて、CBSテレビのインタビューで中国による台湾武 力行使の可能性について「習近平主席や彼の周辺は"私の在任中には何もしな い"と言っている」と話し、先週の米中首脳会談でも台湾に関しては話題になら なかったことで「我々は少し驚いた」と振り返った。 

① トランプ大統領「自らの在任中に中国の台湾侵攻はない」TBS NEWS 251103 

 トランプ氏は、中国は武力行使の「結果」を知っているからだと強がりながら、 米側の対応への言及を避けた。中国側からいくつかの前提条件を申し入れた上 の発言だったと推察されるが、その後、トランプ発言を肯定も否定もしていない。 最近の貿易戦争「休戦」合意と合わせて、米中間の台湾をめぐる軍事衝突の危険 性は当分遠のいたと判断できよう。

  しかし2005年に採択された「反国家分裂法」には、三つの前提条件の下では 中国は「非平和的手段を放棄しない」と明記されている。 

② 反国家分裂法20050314 

 「台独」分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事 実をつくり、(外国の介入など)台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事 変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる。

 台湾による分離独立、外部勢力の介入などに対して「軍艦出動」の権利を放棄 しないことを法律で規定した。 

 高市発言は、このような台湾や米国に由来する戦争挑発のケースをひっくる めて、前提なしに中国の「軍艦出動」に自衛隊が軍事介入するのだとのメッセー ジを発したことになる。だから①で引用したBBCの解説も、中国側は「日本の指 導者は『台湾独立』分離主義勢力にどんなシグナルを送ろうとしているのか」を重大視 したことを挙げた。 

 シンガポール首相も11月19日のインタビューで日中紛争の早期解決に期待を寄 せつつ、「台湾独立の動向が唯一の戦争を引き起こす理由」と語った。 

 ③ 黄循财希望中日化解纠纷 不预见台海爆发战火 | 联合早报251120 

「予見できる将来において(台湾海峡で)戦争が発生する可能性は高くない」 「台湾が一方的に独立を宣言するなど、レッドラインを越えるような事態がない限 り、中国は一方的あるいは理由もない行動を取ることはない」。 

 「台独」はほぼ唯一の戦争を引き起こす理由と指摘される中、日本の首相が「とも かく中国の軍艦が出れば日本が介入する」と言わんばかりであることは、この「唯一 の理由」があっても日本は中国の反撃を妨害することに出ると受け止められる。

 

人民日報公式アカウントに掲載された高市政権への「七つの質問」にもそれに言及。

④ 这7个问题,日方必须说清楚_人民日报客戸端251120 

 質問 3:「台湾独立」勢力にどんなシグナルを送ろうとしているのか。高市氏他右翼 政客は「台独」勢力と密通し、両岸の対立と対抗を悪意持って挑発し、台湾海峡の緊 張を煽っているのではないか。 

 質問4:中国の核心利益に挑戦し、中国の統一を阻害しようとしているのか。 

 

 高市発言の「事の重大さ」に、ついに人民解放軍機関紙に「重大な警告」を送る解 説文が掲載された。 

⑤ 叫嚣武力介入台海局势只会把日本引向不归歧途 - 解放军报251116

  1,「現職の日本首相が台湾海峡情勢への軍事介入の可能性を明示したのは初めて。 その近年の軍事力増強の取り組みが封じ込め志向であることを裏付けるものであり、 平和憲法を破り、軍事的手段を用いて他国の内政に干渉しようとする日本政府の野心 を露呈するもの。 

 2,もし日本が台湾海峡に軍事介入すれば、日本政府の極めて危険で誤った判断に よって、日本国民と国家が破滅に陥ることは容易に予見できる。第一に、周辺環境の 悪化を招く。(中略)建設的で安定した日中関係の構築は不可能となる。第二に、日 本全体が戦場となる危険性。日本は、北海道から沖縄まで数十の空港と港湾を軍民共用インフラへと転換している。(中略)日本が台湾海峡に介入すれば、国民全体が自 滅的な戦争機械に縛り付けられることになる。第三に、日本は軍国主義の過ちを繰り 返すという危険な匂いを国際社会に感じさせる。 

 

 近年、日本が台湾問題にかなり首を突っ込めていることに、中国側は前から警 戒感を高めている。王毅外相は今年3月の全人代記者会見で警告を発した。 

⑥ 王毅正告:借台湾生事,就是给日本找事250307 

「一つの中国」原則は、中日関係の政治的基盤だ。台湾が中国に復帰して80年経つ のに、日本国内には依然として、台湾独立勢力と密かに結託する者がいる。厳粛に警 告するが、「台湾有事は日本有事」と鼓吹するより、台湾に問題を起こすことは日本 にトラブルを招くことと心に留めるべきだ。 

 

にもかかわらず、その後、日本の台湾コミットはますますエスカレートした。

 ⑦ 日本の元統合幕僚長、台湾の政務顧問に異例の就任…中国「外部勢力と結 託し独立と挑発を企てることは成功しない」 : 読売新聞250321 

⑧ 台湾外交部長が異例の訪日、古屋氏や高市氏らと会談 代表処を視察:朝日 新聞250725 

⑨ 台湾の蔡英文前総統、私的な日程で日本訪問 中国外務省は日本側に抗議 (日テレNEWS NNN) 250910 

 

 かつて退任した李登輝氏が来日することに対し、中国が反対し、「東京に来ず、治 療目的に限定」で合意したが、今や、堂々と来て要人と会うようになった。 

 4 月下旬、高市氏が台湾訪問で、中国を排除した「ハイテク分野のクリーンな供給 網(サプライチェーン)を構築せよ」「台湾も日本もお互いに防衛力を強くせよ」と発言。 ⑩ 自民党・高市早苗氏「日台で供給網作り」提唱、台湾総統と会談 - 日本経済 新聞250428 

 

 台湾一辺倒の高市氏の今度の政権獲りに貢献し、自民党副総裁に就任した麻生氏 は一昨年、「日台米、戦う覚悟を」と叫んだ。 

⑪ 日台米、戦う覚悟が台湾海峡の抑止力=麻生自民副総裁 | ロイター230808 

 

 これらの背景があったにもかかわらず、高市内閣の発足一週間後、日中首脳会 談が実現したことは自分の予想外だった。恐らく中国外交部主導で、対日重視を 示し、首相就任後の高市氏は歴代首相と同じように、個人のカラーを封印し、正 常な対中外交になることへの期待も込めたと考えられる。 

 しかし中国首脳部は直後に「裏切られた」と感じたのだろう。高市氏は APEC 参加の台湾代表と会ったのを写真付きで「台湾総統府資政(顧問)」との肩書着 けて SNS で発信した。会見の前例はあるが、台湾当局の肩書をつけて公に誇示 したのは初めてだ。更に11月11日、もう一人の台湾総統府資政で、台湾独立派 の前駐日台湾代表が旭日大綬章を受勲し、高市首相から勲記を手渡された。

 ⑫ 旭日大綬章を受章 謝長廷前駐日代表「非常に光栄」Yahoo!ニュース251112 

 

 中国側の従来な対日疑念がこの過程で発酵し、ついに高市首相の国会発言と その後の対応で決定的な不信感を持つようになり、日本の台湾関与に「レッドラ イン」を越えるなと警告することを決意したと推察される。 

 

        四 反発理由③:薛総領事発言への「倒打一耙」 

 ここで中国側の三番目の反発理由を取り上げる。薛総領事の X 投稿に対する 日本側の「趣旨と意味をすり替えた工作」と「不誠実な対応」への怒りだ。 中国語に「倒打一耙」の熟語があり、自分の誤りを棚に上げて逆に人をとがめる、 逆ねじを食わせる意味だ。薛氏のX投稿に対する「首相の首を切る」の解釈が独り歩 きし、主要メディアは一斉に中国の「無礼」、「戦狼外交」への攻撃が広げられた。

 しかし冒頭で紹介し たように、木原稔官房 長官は10日の記者会 見で、X投稿の趣旨は 「明確ではない」と述 べている。少なくともそ の時点で政府内部の 一部から、「首相の首 を切る」解釈に異を唱 える疑問があったと考 えられる。ところが政府、自民党、そして大手メディアはその後、歩調をそろえたかの ように、「首相の首を切る」と決めつけ、大批判を起こした。 

 その後の世論調査で高市首相への支持率は上がった。高市発言の重大な過ちに 触れず、大阪総領事がいかに無礼で日本の首相を冒涜したかをテレビ、新聞、SNS で繰り返し煽ったら、誰でも誘導されて怒るだろう。 

 しかしもう一度X投稿の全文を読んでみてください。前半の日本語表現は複数に連 想・解釈されるかもしれないが、続いて「覚悟ができているのか」と書いていることと合 わせて理解する必要がある。一括して読めば、「仮に台湾に首を突っ込めればその 首を切る、その覚悟はできているか」という未来仮定式の警告に帰結するはずだ。 

 実際に、中国のネットでもこの表現の中国語訳をめぐって討論に熱が入り、物好きの人から三通りの(みんなが納得する)中国語訳が整理・紹介された。いずれも未来 仮定式の警告と理解されている。 

 細かく解説する余裕ないため、中国語に詳しい方は是非以上の三つの中国語 名訳を読んでください。(転載できなかったたため冒頭URLより原文でご確認ください。伊関)

  中国オピニオンリーダーの一人、元『環球時報』編集長だった胡錫進氏もこれ について発声し、日本側は「焦点をずらし、問題をすり替えている」と批判した。 

 ① 中日罕见针尖对麦芒,中方浩然正气!251114胡锡进 

 茂木敏充氏は、薛総領事の投稿を「高市早苗の斬首」だと意図的に曲げて解釈し、 一部の西側メディアの助力を得て、作り上げたいイメージに大衆を誘導している。 明らかに極力、問題の焦点をずらし、薛総領事発言を歪曲し、高市氏個人への「斬 首脅迫」とのレッテルを貼ろうとしている。それは真の日中危機とは別の危機を作り 出し、後者を利用して前者を混乱させ、すり替えることで、形勢逆転を図り、主導権 を握ろうとしているためだろう。 

 しかしそれはただの虚勢を張るに過ぎない。台湾問題で中国と対抗することはでき ないし、彼らの首相が中国について重大な誤った言論を発したことに対して、中国外 交官が怒りを露わにしてはならないととやかく言う資格もない。 

 

 気づかれているかもしれないが、その後の中国外交部、国防部の発言、そして 呉江浩大使の発言には必ず次のような表現が使われている。 

  如日方胆敢武力介入台海局势,将构成侵略行为,中方必将迎头痛击!

 勝手に台湾海峡情勢に武力介入すれば、侵略行為とみなされ、中国は必ず「迎頭(頭 に向かって)痛撃する 

 中国政府のどの部署も、薛総領事発言と同じ趣旨、同じ立場であることを伝え ようとしているように思われる。 

 

 薛総領事に「戦狼外交官」のレッテルも貼られた。各国の外交官ともそれぞれ のスタイルで発声するという時代。日本の元オーストラリア駐在大使も自分の 戦狼外交を自慢する本を出している。 

② 豪州人の対中認識の目を覚ます 『中国「戦狼外交」と闘う』(山上 信吾) | ためし読み - 本の話 

 「中国問題に口出しするな」とまで露骨に牽制されたのは一度で済まなかった。圧 力に耐え忍ぶ豪州にエールを送ろうとすれば、中国大使館の戦狼たちから「暴言」と なじられ、「適切に仕事をしていない」とまで批判された。(中略)そんな挑発に接し ても、決して口をつぐむことなく、かつ、相手と同じレベルに引きずりおろされて口 角泡を飛ばすことなく、理路整然と時にユーモアを交えて反論し、豪州社会の理解と 共感を得ていく。これが私の駐豪大使生活の基調となった。 

 次のインタビュー記事では同氏はオーストラリア政府から「黙れ」と圧力を加えられ ても勇敢に戦った自慢話と日本外務省への不満を述べている。 

 ③ 前駐豪大使が明かす、豪政府の「異例の圧力」に反論もできない外務省の“お 坊ちゃん体質” | ニュースな本 | ダイヤモンド・オンライン 

 

 ここまで来て、日本の中でも、高市発言が深刻な問題をはらんでいることを深刻に 受け止める有識者の発言が増えた。 

 ④ 舛添要一氏 高市首相発言は「大失策」と批判 台湾有事巡る答弁「反感がも の凄い…出口なしという感じ」(スポニチアネックス) 251115

 中国の官民の友人たちと連絡をとっているが、台湾有事に関する高市発言への反 感がもの凄い」「防衛省がきちんとレクをしていれば、あのような不用意な発言はな かったかもしれない。「戦艦」などという言葉は今は使わない。どうすれば事態を沈 静化できるのか考えているが、『出口なし』という感じだ。 

 

 ⑤ 小沢一郎氏が苦言「最終的に紛争に…十分あり得る。総理自身が国の危機を 招いてどうするのか」(日刊スポーツ) 251116 

 「トップの相手国への攻撃的な一言で批判の応酬となり、国民感情も悪化、輸出入 も減少、渡航自粛勧告から大使館撤退、最終的に紛争に至り、国民に多大なる犠牲 が出る、そういうことは十分あり得る」「高市総理にはそうした認識・覚悟があっ てのことだろうか。総理自身が国の危機を招いてどうするのか」。

 

 ⑥ 小沢一郎氏が強く警告「高市総理は極めて危うい。取り返しがつかないことに なる」(日刊スポーツ) 251118 二日後の内容更新:

 「就任早々この短期間で、ここまで日本の安全保障環境を悪 化させ、経済不安を増大させる総理というのも珍しい」「総理の一言でここまでこ じれる。だからこそ総理には高い見識と能力が求められる。以前から言うように高 市総理は極めて危うい。皆がしっかりしないと取り返しがつかないことになる」。

 

 ⑦ 高市発言は「国家の危機」招く 日本国内からも批判相次ぐ 新華社251118 

  同記事によると、東大の佐橋亮教授は、高市発言に「大変驚いた」と述べ、高市 氏の説明する「存立危機事態」には法的根拠が乏しく、厳密な認定プロセスも存在しないとして、国会で個人的な感想を語ったかのようだと批判した。 

 

⑧ 高市早苗的言论有多恶劣?这个美国人一针见血!251116

 中国紙が転載したドイツ放送のインタビューに応じたアメリカ人 Jeffrey J·Hall 神田外語大講師は、「高市発言は日本の台湾に対する立場の大きな転換を示し、事実 上、自衛隊が台湾問題に介入することを公言した。これは中国が無視できない発言だ」 「1930 年代、日本が中国を侵略した際も、自国の『防衛』と『生存』のためだと主張 していた」と指摘した。

 

 ⑨ 台湾の頼清徳政権、高市首相答弁巡り中国の対日圧力を批判 「平和と安定 に深刻な衝撃」(産経ニュース)251117

 産経の記事は、台湾の頼清徳政権が高市発言を擁護し、中国を批判したことを 伝えたが、文末には、次のことにも言及している。 

 (国民党)元党首の洪秀柱氏は15日、高市氏の国会答弁を「(中国への)挑発であ るだけでなく台湾を危機の瀬戸際に追い込むものだ」とSNSで非難。「いかなる外部 勢力も中国の核心的利益に挑戦すれば必ず失敗する」と中国側の主張を代弁した。 総統退任後にたびたび中国を訪れるなど対中傾斜を強めている馬英九元総統は「日 本政府の軽率な言行を歓迎しない」と批判。「両岸(中台)問題は外国に介入させて はならない。両岸の中国人は不一致を平和的に解決できる」と訴えた。 

 

 特に紹介したいのは二人の元官僚の深み、重みある分析。YouTubeで見られる ので、ぜひご覧ください。 (冒頭URLよりご覧ください。伊関) 

⑩ (11/12)台湾危機を煽るのは百害あって一利なし(田中均) - YouTube 

 

⑪ 古賀茂明さんに聞く!「高市発言は“戦争のスイッチ”だ」/日本だけが 知らない現実 台湾有事は“日本が起こす”?「タイミングではなく、発 言そのものが大問題」251118 

 

        五 早急な打開策はあるか 

 薛総領事発言は実は直後一旦取り下げられた。恐らく外交担当部門は対日関 係の悪化につながるトラブルを望まなかったからと推察される。しかし前述の 日本側の一連の「倒打一耙」の言動を見て、中国首脳部は、高市氏の従来の台湾 傾斜の言行と近年の日本の「不穏」な動向を首相就任後の最新動向と関連づけて、 もはや看過できないと判断し、「対日反撃」に踏み切ったと思われる。 

 高市首相は「事実上修正した」との弁明も聞こえてくるが、相手に通じないだろう。 中国側は、これは重大で原則的な問題であり、明確に撤回しない限り、日中関係はさらに悪化すること、すなわち中国側は更に対抗措置を取ると外交部報道官談話が強 く示唆した。 

 ① 外交部:日方必须立即收回错误言论,给中国人民一个明确的交代--251118 人民网 

 日中関係の現状の根本原因は、高市早苗首相による台湾に関する露骨かつ誤った発 言にある。この発言は中国の内政に著しく干渉し、『一つの中国』原則と中日間の 4 つの政治文書の精神を深刻に侵害し、日中関係の政治的基礎を揺るがした。

 中国の核心的利益の擁護と国際正義の擁護という立場には何ら変化はない。日本は 直ちに誤った発言を撤回し、自らの行動を深く反省し、方針を転換し、中国国民に明 確な説明を行う必要がある。 

 

 元外務省のアジア担当、交渉のプロの田中均氏は打開するために迅速に行動 せよと訴えている。

  ② (11/18)緊急提言:対中関係を打開するために迅速に行動せよ(田中均) - YouTube 

 

 新華社出身の論客ペンネール「牛弾琴」は、日本側は 12 年の「国有化」騒ぎの教 訓をくみ取っておらず、今のままの対応では解決にならないと書いている。

  ③ 中国对日反制,三个新特点251118 

 2012 年の日本の「島購入」茶番劇がどうしても思い出される。今回も日本が先に 挑発し、中国が再び怒りの報復を繰り出した。 

 10 年以上にわたる紆余曲折を経て、日中関係はようやく最悪の状態から脱しつつ あった。ところが高市早苗氏の暴言によって、この改善は突如として頓挫し、深い淵 に突き落とされそうで、実に心を痛める。 

 高市氏の挑発行為は、日本がそのような思いを完全に払拭するまで、中国によるよ り断固で強力な反撃を受けていくだろう。この核心利益の問題において、中国に妥協 や譲歩の余地はないことを国際社会にも真に認識させることになる。 

 

 筆者も、十数年前の二つの事件の「覆轍」を辿っていると直感した。 

 2010 年の「漁船衝突事件」で船長が長く拘束され、中国側は抗議と解放要求を繰 り返したにもかかわらず、当時の前原外相は「粛々と対応している」と言い、主要メデ ィアも皆この表現をおうむ返しした。「中国側の声なんか聴く必要がなく、日本の法律、 ペースでやればよいのだ」と言わんばかりだったが、温家宝首相(当時)まで重大な警 告を発し、中国側が実質的な報復措置を取ると、日本政府は慌てて船長を解放した。  2012 年の島「国有化」の際も、中国側はなぜそこまで怒り、強烈に対抗措置を出し たのか、その認識と理解が鈍く遅れた。2年間の激しいぶつかり合いを経て、14年秋、 

係争の島を事実上棚上げにする「四項目合意」がようやく交わされた。 

 

 出口はどこにあるか。中国外交部報道官は「従来の立場が変わらない」というよう な軽い表現では解決にならないと明言。今回の国会発言の問題の重大さを認識し、 高市首相は正式に発言を撤回するか、当局間同士で「台湾」をめぐって踏み込んだ 協議を通じて、より具体的な約束に合意するか。それをしない限り、中国の対日批判 と牽制、中国社会の対日憤慨がエスカレートしていくのは目に見えている。

  首相の言動で誘発された危機を乗り越えた成功例は一つある。1985年、中曽根首 相(当時)が A 級戦犯を合祀した靖国神社に参拝したのに対し、中国は今回と同じよ うに猛烈に怒り出し、「反日デモ」は全国で起きた。確かに後藤田官房長官(当時)が 中国側と裏交渉をし、「首相、外相、官房長官という国を代表する三役が在任中に参 拝しない」(言い換えれば、他の高官の参拝は「批判するが政治問題としない」)との 密約が交わされた。双方ともその後、「密約」の存在を言わないが、実際は密約通り のやり方で今日までの歴史問題をめぐる「均衡」を保った。2014年の歴史問題や「島」 をめぐる「四項目合意」も参考になるかもしれない。 

 外務省アジア太平洋局長が北京に赴いて交渉したが、ほぼ成果ゼロ。局長レベ ルとこれまでの言い分では中国側の軟化を引き出すのは無理だ。しかし高市政 権の周りにはかつての伊東正義、後藤田正晴、野中広務などのような傑出した双 方に影響力ある人はいるだろうか。 

 日本側局長を見送る中国側局長は両手をポケットに入れたままだった写真(下、左) が出て、中国側の傲慢、無礼を非難する声はまた上がった。自分はすぐ、似たような 場面を20年前に見たことを思い出した。

 

(写真は冒頭のURLからご覧ください。伊関)

 

  05 年の「反日デモ」で北京大使館に投石されたとして町村外相(当時)が王毅大使 (当時)を呼んだ時の場面だが、Y などの大手新聞は上の写真(右)を大きく掲載し、 「中国が謝罪した」と伝えたかったのだろう。以下はその真相を暴露した中国側記事。  

 ④ 如何阅读新闻--从一则日本新闻谈起080416  

 実際は中国大使は謝罪をして おらず、ソファーに座り込む過程 の一環(左)で、連続写真から一 枚の「謝罪写真」を捏造した典 型例だった。

  王毅大使は苦笑しながらこの 写真が撮られた一部始終を話し てくれたことを今でも覚えている。  

 当時の駐日大使は今の外交 部長だ。めぐりあわせなか、やり 返しか、どっちもどっちか。 

 

 この号を仕上げようとしたとき、 中国の 10 億人以上使っている SNS 微信(WeChat)に、「あのウ クライナ戦争はいかに悲惨かみんな見ている。台湾攻略はそれより更に10倍も代価 が大きい」と解説する記事を見つけた。

  ⑤ 武统台湾的难度和代价远超多数人想象,是俄乌战争10倍以上!251115 

 武力行使による統一を叫ぶ人もいるが、実際に戦場に赴くのは20代前半の若者た ちであり、損害を被るのは一般市民であり、後始末は次世代に委ねられることになる。 国は14億人の人々に対して責任を負っている。ロシアはウクライナに対して戦争 を開始したら、今や止めようとしても止められない。サンクコスト(埋没費用)が高 すぎる。中国は決して同じ覆轍を踏むな。

 

 この記事が広く読まれ、転送されていることから、中国の学者は冷静な認識を有し ていること、当局もこのような学者の声を通じて、一部の過熱したナショナリズム(どこ の国も存在)に歯止めをかけようしていることが読み取れる。 

 逆に日本社会では「台湾有事」「中国の侵略」を騒ぎ、安保三文書の改訂を急ぎ、 首相まで過分に威勢の良い声を発している。なぜだろうか。 

 中国側には、政府への「全面反撃」が民間交流に影響しないよう配慮してほしい。 日本側には、中国の勃興、米中G2を含む世界の趨勢を見極め、「抑止力」なんか非 現実的なことを考えず、逆に海峡両岸の中国人の平和統一を支持することを表明し てほしい。人工知能の時代に入り、国境を超えた東アジアないし人類の共同体は遠 い将来の夢ではなくなった。日本と中国はまず目の前の波風を克服し、次は真に歴 史的、心理的障害を乗り越えて、責任あるアジアのG2になれるか。(了)