高井弘之さんの論考【高市「存立危機事態」発言に、どう反対するか】を掲載します。(掲載:伊関)

 

 

愛媛の高井です。

 

「高市発言」問題についての拙稿を送らせていただきます。

時間のあるときにご一読していただければ幸いです。

 

////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

 

高市「存立危機事態」発言に、どう反対するかその1)

 

【高市発言の前提にある「対中戦争態勢」そのものを問わなければならない】

 

 連日、いわゆる「台湾有事」についての「高市発言」をめぐる報道が繰り広げられている。

  しかし、不思議なのは、私が知る範囲では、報道は、その発言自体の問題に焦点をあてるのみで、実際に構築されている日米の「対中戦争態勢」の現実・実態との関係であの発言の意味を捉えようとはしないのである。

 

「台湾有事が存立危機事態になりうる」、つまりは、中国が台湾の武力統一行動に出た場合、軍事力を行使してそれを妨害する―― 中国に戦争を仕掛けるという高市の発言が酷いものであるのは確か だが、それは、言葉だけのものではない。現実に、日米は、 この数年間、そのとき「中国に戦争を仕掛ける」 共同の実戦訓練を繰り返し行い、その規模と実戦レベルを拡大・ 強化し続けているではないか。

 

 「台湾有事」における『日米共同作戦計画』の存在

 その「日米共同作戦計画」は、2021年の暮れに共同通信の石井記者がスクープ記事を配信し、全国の地方紙で報道されて明らかになって以来、その「計画」の存在は公然の事実である。そしてそれが、奄美・沖縄の人びとの犠牲を当然の前提として作られている「作戦」であることも、すでにその報道で明らかにされ、実際にその前提に立った訓練が、いま、沖縄・奄美を中心にこの列島全体で頻繁に繰り返されている。

 

 「中国の統一問題(両岸問題)への軍事介入計画」をこそ止めさせなければならない!

 したがって、仮に、高市が発言を撤回しても、この「問題」が解決し、終わるわけではない。 この「作戦計画」を白紙にし、それに基づく軍事訓練を今後一切やらない、そして、中国の統一行動にいっさい軍事介入しないということを、日本政府が中国政府に対して公式に約束しない限り、この問題は解決しないのである。

 

 政府は、「日本の立場に変わりはない」などという皮相な言葉で解決しようとしているようだが、「中国の統一行動に軍事介入する」という「政府の立場」を変えない限り、この問題の本当の解決はない。私たちは、政府に、これをさせなければならない。

 

 日米らによる「対中軍事包囲網」の構築

 ところで、いま私たちが直面している問題は、「台湾有事」問題だけではない。いま日米NATOら 「西側中心国」は、「没落する自らと台頭する中国(・グローバルサウス)」という現実を前にして、 「中国弱体化戦略」としての「対中軍事包囲網」の構築を急ピッチで進めている。 「対中戦争態勢―中国封じ込め態勢」の構築である。

 

 数年前から、日米NATO豪らは中国の近くで合同軍事訓練を繰り返し、その規模も頻度も増大し続けている。今年の3月、中谷防衛大臣(当時)は、朝鮮半島・東シナ海・南シナ海を「ワンシアター」(一つの軍事作戦が実行される地域・戦域)と捉えて、日米を中心とする関係国が共同で行動しようという構想を、ヘグセス米国防長官に提起した。まさに、南シナ海を含めた「対中軍事包囲網構築」の提起である。実際に、この海域でも、すでに数年前から日米等の合同軍事演習が行なわれ、2024年からは、米日豪比の形での合同軍事演習が開始されている。

 

 「対中戦争マシーン」と化している日本列島

 沖縄・奄美から始められた「対中戦争態勢」の構築は、いま、九州・西日本から全国へと拡大している。各地に大規模なミサイル弾薬庫が作られ、ミサイル部隊が配置され、中国大陸まで届く長射程ミサイルが全国各地に配備されていく。その最初の配備地である熊本の陸自健軍駐屯地への配備はいま直前の状況である。

 

 自衛隊の輸送や訓練に民間空港・港湾・道路・民間地まで使われ、いま、この列島は、まさに、「対中戦争マシーン」と化している。そして、自衛隊は、中国に対する自らの攻撃によって――それに対する中国からの反撃によって日本列島が戦場となることを想定し、司令部の地下化を進めている。地上の住民のことなど関係なく、自らは生存して、戦闘を続けるつもりのようである。

 

 「対中戦争態勢構築」全体を止めさせなければならない

 以上、日米の対中軍事態勢は、まさに、臨戦態勢の域に達している。この「対中戦争態勢」づくりを止めさせない限り、ここ東アジアに住む私たちの平和・生活・命の保障はない。この態勢づくりの元となっている「安保三文書」を撤回させ、この「対中戦争態勢」全体を批判し、その構築を直ちに止めさせなければならない。

 

「高市発言」を機に、私たちは、その発言を撤回させるだけでなく、この「対中戦争態勢構築」全体を撤回―白紙化させることにこそ、取り組まなければならないと思う。

 

 

高市「存立危機事態」発言に、どう反対するか(その2)

 

【「日本に奪われた台湾を回復しようとすること」を許さない元宗主国・日本】

 

 日本政府・社会・メディアでは、「高市発言」への中国の反応を理不尽な過剰反応だとする認識が大勢を占めているようだ。このままでは、現在の大軍拡―「対中軍事態勢の構築」の推進力たる「反中国感情/中国脅威論」はますます高まっていくだろう。

 

いま私たち日本の市民・国民に必要なのは、「中国にとっての台湾」は、日本との関係において、歴史的に、また現在的に、どのようなものとして在り続けているかを知ることだと思う。「台湾統一」の問題(両岸問題)について現段階で考えるには、すでに政治構成体―政治的実体として存在している台湾(政府・人びとの主体的意思)と中国の統一政策との関係等々についての考察も必要である。ただ、ここでは、「高市発言」をめぐる状況に向き合うにあたって必要な、日本との関係における「中国にとっての台湾」の意味するものに焦点をあてて考えてみたい。

 

 「高市発言」は、仮に中国政府が台湾を武力統一しようとする行動に乗り出した場合〔注〕、日本はそれを阻止するために軍事力を行使するという意味である。このことは中国にとって何を意味するのだろうか。

 

 中国から台湾を奪った日本

 周知のように台湾は、日本が行なった日清戦争(中国侵略戦争・朝鮮植民地化戦争/1894~95年)後の講和条約によって日本が中国に割譲させ、その後の「台湾征服戦争」によって完全に植民地にしたところである。つまり、日本が中国から奪ったところである。

 

「台湾統一」とは、中国にとって、日本に奪われ、日本の敗戦後も米国の妨害によって分離・分断状態であり続けた(経緯は後述)その台湾を取り戻す――「回復」する行為である。

 

 台湾は元宗主国・日本が属する「西側」のものである

 高市が言い、実際にいま日米が準備している行動とは、かつて帝国主義列強の一国・日本に侵略・支配された国が、その日本に奪われた地域・台湾を回復しようとする行為を、日本は決して許さないというものである。台湾のかつての宗主国・日本が軍事力を使ってでもそれを妨害し、「西側・帝国主義」勢力圏にそのまま留め置こうとする行為である。

 

 台湾のために――台湾の人びとや民主主義・「独立」を中国から守るために、行なおうとしているものなどではない。

1949年の中華人民共和国建国以降、ずっと台湾は、沖縄とともに、中国への攻撃および「中国に対する軍事封じ込め」の拠点であった。日米らが「対中軍事包囲網」を構築しようとしているいま、その要に位置する台湾は、これまでにも増して、日米・西側のためにこそ必要なのである。日米・西側にとっての台湾とは、いわば、帝国主義的利益と欲望――私利私欲の対象として存在している。

 

 「台湾の植民地支配・中国への侵略」を無視する高市ら日本政府

 ところで、高市首相は、日本が台湾を中国から奪ったこと、その台湾を植民地支配し、中国への侵略戦争を行なったこと、これらについて反省していないどころか、その歴史事実に向き合うことを全くしていない。そして、日本の侵略に対する中国側の寛容な姿勢があって締結し得た日中平和友好条約を全く無視し、それに反した言動を行ない続けている。このような政府・政治家が、かつて日本の植民地であった台湾を自らの下に抱き込み続けようとしているのである。

 

 高市発言は――いま日本がやろうとしていることは、端的に言えば、以上のことである。中国の政府・人びとに――日本の凄まじい加害・侵略を許して日本との「国交正常化」を決めた中国に、いま目前で展開されている日本の行為・現実は、どのように映るだろうか、それは、いったい、何を意味するだろうか。

 

 私たちは、他者・他国を踏みにじり続ける近代日本国家の継続として在る、日本政府のこの行為を許してはならない。

 

 

※  以下、長くなりますが、参考までに、上に述べたことの歴史過程について記しておきたいと思います。

 

///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 

[その歴史的経緯]

 

台湾は、日本が行なった日清戦争(中国侵略戦争・朝鮮植民地化戦争/1894~95年)後の講和条約によって日本が中国に割譲させ、その後の「台湾征服戦争」によって完全に植民地にしたところである。したがって、19世紀半ばから20世紀半ばまでの百年にわたる日欧米・帝国主義列強の侵略―「半植民地」状況を克服して建国した中華人民共和国政府にとって、台湾は、列強に奪われた地の「回復」対象として存在している。

 日欧米諸国によって半植民地状況に置かれていた中国の人びとは、1945年に大日本帝国を追い出し、その後、列強・アメリカの支援を受ける国民党を追いやって(国共内戦)、中国大陸に反帝国主義国家・中華人民共和国を建国する。

 

 建国の中心となった共産党は、そのとき、大陸での内戦に敗れ台湾へと敗走した国民党を追い、日本に割譲させられた台湾も含めて新しい国家とする予定であり、情勢的には、その実行―実現に時間はかからないと見られていた。しかし、朝鮮戦争(1950年6月~53年7月)が始まると、アメリカは、台湾海峡に第七艦隊を派遣し、台湾―国民党の防衛姿勢を誇示した。

 

 その後、米国は、台湾を中国(本土)から切り離して――分離させて、自国陣営の側に置き続ける政策を追求し続けた。台湾を拠点とする国民党―中華民国と軍事同盟(米華相互防衛条約/1954年)を結んで、台湾に米軍基地を置き、国民党を軍事支援し、台湾を「中国封じ込め」の拠点とし続けた。これらの経緯によって、中国は台湾を新国家へと含めること(台湾統一)を実現し得なかった。

 

台湾が米国にとっての「中国封じ込め」拠点であることは、米中国交正常化後も基本的に変わらず、2010年代後半から始められた「対中対決姿勢―中国弱体化戦略」の下、米国による「台湾の「対中」軍事力」強化が急ピッチで進められており、すでに米軍の軍事顧問団も駐留している。

 

 

〔注〕

実際は、台湾の平和統一が中国政府の正式な方針である。「武力行使の権利を放棄することは約束しない」という趣旨の中国要人の発言がよく報道されるが、それは、アメリカが「台湾を中国から切り離す」方向で介入をして来たらその場合は武力行使も辞さないという、アメリカに向けた牽制の言葉である。武力統一の実行は、中国の一党統治体制安定の前提である経済発展に大きな負の影響を与える可能性が大であることなどからも、考え難い。