日中両国の当局および国民への呼びかけ
福井県立大学名誉教授
              全日本華僑華人中国和平統一促進会名誉顧問 凌星光

 

    11月29日、私は高市早苗総理に宛てた公開状を日中両国語で発表し、幅広い専門家や有識者から多くの賛同をいただいた。まずは、このご支持に深く感謝申し上げたい。
 当面の緊張した日中関係の改善のために、この一週間の情勢変化も踏まえ、公開状では十分語れなかった私見を、ここでより丁寧に述べたい。友人からは「趣旨には全面的に賛同するが、一般の読者には分かりにくい部分もあるのではないか」との指摘も受けた。本稿は可能な限り分かりやすい説明を心がけたため、やや長文となる点をご容赦いただきたい。


1 高市早苗総理は発言の撤回、または実質的撤回を

 高市総理が11月7日の国会で述べた「台湾有事は存立危機事態になり得る」との発言は、中国側の強い反発を招いた。その後に示された「具体例に触れたことへの反省」は評価されず、12月3日の「日中共同声明の通りで、一切変更はない」との答弁も、前進が期待されたものの受け入れられなかった。
 日中関係を安定させるためには、発言の明確な撤回、あるいは実質的撤回を示すほかにない。実質的撤回とは、総理自らの言葉で「一つの中国」への「理解と尊重」を明確に表明し、加えて「ポツダム宣言の遵守」に言及することである。
 国交正常化交渉時、栗山条約局長が「理解と尊重」を示した際、周恩来総理に拒否された。局長がポケットから取り出した「ポツダム宣言遵守」を加えた文案は受け入れられたという経緯がある。つまり後者が、日本側の曖昧さを断ち切る鍵となったのである。


2 四つの政治文書に立ち返る国際情勢分析

 高市発言に対し、米政府高官は一定の擁護姿勢を見せたが、トランプ大統領は「同盟国の多くも、われわれの友達じゃない」「中国とは大変良好な関係」と答え、逆の立場を示した。高市首相にとっては痛手だ。

更に欧州では、フランス大統領が中国を公式訪問し、来年初めには英独両国の首脳訪中も予定されている。EUは中国重視を強め、ロシアも中国支持を明確にした。その結果、四つの安保理常任理事国はいずれも日本支持を避け、日本は事実上、孤立に近い状況に置かれている。
 厳しいやとりを経て、トランプ政権は対中強硬政策を調整するに至ったが、米中抗争は今後10~20年続く可能性が高い。中国は日中関係改善を足掛かりに米中関係緩和を図るべきであり、日本も四つの政治文書に基づく相互信頼を回復し、国際情勢分析を共有する必要がある。


3 国連憲章の原点への再認識

 戦後秩序と国家主権尊重は国連憲章の核心である。中国は国共合作期に国連創設へ参加し、中国共産党創設者の一人・董必武も創設会議に立ち会った。
 五大国の拒否権は平和維持に寄与した一方、安保理の機能麻痺を引き起こす弊害もあった。米国と旧ソ連(現ロシア)が拒否権を濫用する中、中国は比較的自制し、国際協調を重視してきた。米国が国連軽視を強める中、中国への期待はますます高まっている。
 国連原則に悖ったサンフランシスコ講和条約及びそれによってもたらされた日米安保条約は、一時期日本に有利に働いたが、今日では日中友好の阻害要因となっている。
 中国の対外姿勢は、かつての「韜光養晦」から積極的発言と多極化推進へと転じた。世界は米国一極支配から、米中協調を軸とした多極化時代への転換期にある。日本は対米一辺倒から、対米・対中バランス外交への転換を迫られている。


4 敵国条項論議に終止符を

 敵国条項は既に時代遅れであり、1995年の国連総会決議では中国を含む多数国が削除に賛成した。但し手続きはなされておらず、国際法上は依然として有効である。

21世紀に入り、中国が急速に発展すると、日本は米国の影響も受け、中国を仮想敵国視する傾向を強めた。抑止力強化の主たる対象は中国である。

それに加えて、ドイツやイタリアは戦後完全に脱ファシズム化を達成したが、日本は「脱軍国主義」が不十分なままである。一つは歴史認識問題、特に閣僚の靖国参拝などによる疑念が高まった。もう一つは台湾問題に対する曖昧な態度への不満である。

こうして敵国条項は息を吹き返し、日中間の緊張は極度に高まった。日本の「台湾地位未定論」に対し、中国は「沖縄地位未定論」で応じる構図が生まれている。日中は四つの政治文書に立ち返り、この非生産的論争を早期に終わらせるべきである。


5 台湾と沖縄を平和の拠点に

 台湾と沖縄はともに日本の侵略を受け、現在は米中・日中対立の狭間で戦略的要地となっているため、極めて敏感な地域となっている。
 しかし、運命共同体の視点から見れば、両地はアジア太平洋の中心に位置し、重要な役割を果たし得る宝の地である。歴史の流れは「米国主導の台湾・沖縄」から「中国主導の台湾・沖縄」へと重心が移りつつあり、対立から融和への転換期にある。
 日本には「大日本主義」と石橋湛山の「小日本主義」の議論がある。後者を採れば、中国の運命共同体論と接合し、東アジア共同体への平和的移行が可能だ。尖閣問題の「棚上げ」論も、そのための知恵である。


6 台湾平和統一の必要性と世界的意義

 台湾問題の解決は「中華民族の偉大な復興」の象徴的事業である。米国が統一阻止に動いたことで実現は遅れたが、米国の衰退と中国の発展により、統一の現実性は高まっている。
 統一には「武力解放」と「平和統一」があるが、改革開放以降は平和統一政策が明確に採られており、武力行使の可能性は極めて低い。米日両国の曖昧政策は既に賞味期限切れであり、平和統一は間近に迫っていると見られる。
 台湾版「一国二制度」は、中国本土と世界をつなぐ架け橋を担うことができ、台湾統一は米中・日中関係の最大の対立要因を解消する。アジアと世界は、平和と軍縮の新時代を迎えるだろう。


7 沖縄が担う先導的役割

 沖縄は日本併合、沖縄戦、米軍統治という苦難の歴史を経験し、返還後も日本の辺境として不利益を抱え、米軍基地の7割以上を負担してきた。
 一方、東アジア共同体構想の中では、地理的優位性を発揮し得る。歴史的にも地理的にも中国との関係に強みがあり、米軍統治の経験と基地の存在は対米関係でも独自の重みを持つ。
 見方を変えれば、沖縄は「特別行政区」として日本の「新国際化」を先導し得る。一部に「琉球独立論」もあるが、後ろ向きであり現実的ではない。


8 反覇権条項の普遍的意義

 1971年、鄧小平は国連で反覇権主義を掲げ、中国は覇権サイクルから脱却しようとしてきた。日中平和友好条約第二条はその精神を体現するものである。米国の衰退と国際社会の成熟によって、覇権なき世界秩序は現実味を帯びている。
 中国は先制不使用、非核国への不使用、威嚇目的での不使用という「核三不使用」を掲げ、軍事力を世界平和の盾として位置づけている。これは日本国憲法第9条の精神と一致する。
 中国は軍事力で覇権主義を抑止し、日本は平和憲法で覇権主義を抑止する。日中が協力して世界平和に寄与する――これこそ1972年の国交正常化共同声明および1979年日中平和友好条約の本質であったはずだ。これが実現すれば、中国は日本の国連常任理事国入りを率先して支持するだろう。なぜなら、日本は唯一の特別な意義のある平和憲法国家であるからだ。


9 互いに謙虚に学び合う姿勢を

 日中両国は文明的に最も近い国である。日本は遣隋使・遣唐使を通じて中華文明を吸収し、大和王朝を築き、漢字と仮名を用いた独自の文化を形成した。
 中国は明治維新後と戦後日本の経験を学ぼうとし、多くの留学生が日本を訪れた。孫文、李大釗、周恩来、魯迅など多くの先覚者が日本に留学し、また拠点とした。中国の過去45年間の発展には、日本政府と多くの友人の協力があったことを忘れてはならない。
 両国は謙虚に学び合うことが極めて重要である。この点、中国は毎年数十の日本研修団を派遣し、日本の長所を積極的に学んでいる。一方日本は、中国に学ぶ姿勢で欧米に遅れをとっている。
 しかし12月2日付日本経済新聞が英『エコノミスト』誌の「中国の技術革新に学べ」を転載したことは注目すべき変化だ。双方が相互に学び合う環境が整い、現在の緊張関係が改善されることを期待したい。


10 「民で官を促す」「経で政を促す」の原則を遵守

 国交正常化前、民間交流が先行して両国の風通しが良くなった。また友好貿易が始まり、経済交流が政治対話を後押しした。そこから「民で官を促す」「経で政を促す」という原則が生まれ、国交正常化に大きく寄与した。
 その後、政府と民間の相互促進のメカニズムが形成され、改革開放後にはさらに成熟した。政府間が困難に直面するたび、民間交流や経済交流が関係を突破してきた。
 ところが近年、民間・経済交流を政治的圧力の手段に利用する傾向が見られる。これは明らかな誤りであり、是正されるべきである。政治的挑発には相応の対抗措置があってよいが、民間や経済にまで影響を及ぼすことは日中友好の基盤を崩してしまう。


結語

 以上の諸点を踏まえ、高市総理が一日も早く7日の発言を撤回、または実質的撤回を行い、日中関係の正常化と日中友好関係の新たな発展が実現することを強く願う。
 平和と共存、そして繁栄の未来は、必ずや両国に開かれると信じている。

 

2025年12月7日