中国軍機から自衛隊機がレーダー照射された問題・・・日本政府は照射されたレーダーの波形を開示せよ!
12月7日午前2時、小泉防衛相が緊急記者会見を開き、6日午後4時32分から約3分間と同6時37分から約30分間の2回、対領空侵犯措置を実施していた空自のF15戦闘機が、中国海軍の空母「遼寧」を発艦したJ15戦闘機から断続的にレーダー照射を受けたと発表した。(午前2時という発表時間については、なぜ前日の夜またはよく朝ではダメなのか疑問が残る。「緊急事態」という演出効果を考えたか?)
小泉防衛大臣は「対領空侵犯措置」をとっていた自衛隊機がレーダー照射を受けたと言っているが、「対領空侵犯措置」とは具体的に何をすることか?
「レーダーや早期警戒管制機で周辺空域を監視し、領空侵犯の恐れがある航空機を発見する(探知・識別)。戦闘機を即座に発進させ、対象機に接近して状況を確認する(緊急発進=スクランブル)。領空に接近する航空機の行動を監視し、必要に応じて追尾する(監視・追尾)」ことだ。
実際、小泉防衛相は「緊急発進した自衛隊機がレーダー照射を受けた」と報告している。中国軍が訓練している中へ割って入って追跡するというのは常識では考えられないような危険な挑発行為だ。
小泉防衛相は近くに沖縄本島など日本の領空があるから「対領空侵犯措置」をとったのは当然と言っているが、ここで問題になるのは、中国から事前に訓練をするという情報があったかどうかだ。
小泉防衛大臣は、9日の衆院予算委員会で「艦載機などの訓練海空域に関するノータム(航空情報)や航行警報が事前に通報されていたとは認識していない」と述べ、事前に公表していたとの中国の主張に反論していた。小泉防衛相はこのことを「対領空侵犯措置」をとった理由の一つとしていた。 ところがその夜、中国側は「自衛隊側に通報したという音声データ」を公表したため、小泉防衛大臣のウソがばれてしまった。音声データは次の通り。
中国側「日本の海上自衛隊116艦、こちらは中国海軍101艦、当編隊は計画通り(空母)艦載機の飛行訓練を実施する」
日本側「中国の101艦、こちらは日本の116艦、貴艦のメッセージを受信した」
小泉防衛相は、この音声データ公表の後「今回の事案において、問題の本質は日本が対領空侵犯措置を適切に行う中、中国側が約30分にわたる断続的なレーダー照射を行ったことだ」と言い訳し、通報のあるなしは関係ないと言う主張をした。
12月16日、人民網日本語版が次のように伝えた。全文を転載する。
国防部「日本側の責任転嫁は決して成功しない」
人民網日本語版 2025年12月16日11:43
国防部(省)の15日の定例記者会見で、蒋斌報道官が日本の「レーダー照射」問題喧伝について質問に答えた。
【記者】報道によると、中国の空母編隊の艦載機飛行訓練に関して、日本側は先ごろ、事前に中国側から通知を受けたが、訓練の時間や区域などの具体的内容を欠いていたため、十分な危険回避情報を得られなかったと主張を変えた。この報道について、コメントは。
【蒋報道官】今回の件については、事実関係が明白で確たる証拠もあり、日本側が詭弁を弄して言い逃れることは許されない。実際の経過は以下の通りだ。12月6日、「遼寧」空母編隊が101艦を通じて艦載機飛行訓練を実施する旨を通知し、日本の116艦はこれを受信したと回答した。その後、中国の101艦は、艦載機飛行訓練を15時に開始し、約6時間継続すること、主に空母の南側の区域であることを再度通知し、日本の116艦はこれについても受信したと回答した。この状況でもなお、日本側は航空機を出動させ、中国側の訓練海空域に繰り返し強行侵入し、妨害行為をはたらき、飛行の安全を脅かした。その全ての責任は、当然日本側が負うべきである。
日本は何度も自国民を欺き、国際社会をミスリードし、中国側の正常な軍事訓練をいわゆる「安全保障上の脅威」と騒ぎ立て、自身が挑発者であるのに被害者を装っている。これでは、高市首相の台湾関連の誤った発言がもたらした深刻な結果から視線をそらさせようとしているのではないか、戦後体制の打破や軍事的制約の緩和、軍国主義の復活のために口実を作ろうとしているのではないかと疑わざるを得ない。我々は日本側に対し、現在の中日関係が困難に直面している根本的原因を正視し、過ちをしっかりと反省して正すよう強く促す。問題の本質を避けて空虚な論を成し、論点をすり替え、責任を転嫁するいかなる行為、政治工作も、その目的を達することはできない。(編集NA)
「人民網日本語版」2025年12月16日 (転載ここまで)
中国は訓練の時間も場所も事前に通報していたのだ。しかも訓練場所は「遼寧」の南側、日本の領空を侵犯することはないと通報しているのだ。自衛隊機も訓練を少し見ていればこれがウソではないことが判断できたはずだ。
捜索用レーダー照射か?
それとも火器管制レーダー照射か?
さて、今回の中国軍機から照射されたレーダーが捜索用のレーダー照射だったのかそれとも火器管制レーダー照射だったのかという重要な問題がある。
海上衝突回避規範(CUES)では火器管制レーダー照射、レーザー照射、武器の照準行為は挑発的で危険とされ、明確に禁止されている。これについて小泉防衛大臣は「航空機の安全な飛行に必要な範囲を超える危険な行為」と表現し、火器管制レーダー照射とは明言していない。また、自衛隊トップの内倉統合幕僚長は記者会見で「(火器管制レーダーなのか捜索用レーダーなのか)私どもの手の内が明らかになるため、明らかにすることはできません。」と応答している。中国外務省は「飛行訓練中に捜索レーダーを起動するのは各国の通常のやり方で、飛行安全を確保するための正常な操作だ」と説明している。日本政府は火器管制レーダーとは明言せず、中国政府は「捜索レーダー」と言っている。日本政府と中国政府の発表に矛盾はない。
にもかかわらず、日本の大手メディアは「防衛省幹部」などという匿名の「情報源」を根拠に「火器管制レーダーを照射した」としか受け取れない報道に終始している。悪質なのは「自衛隊ナビ」というサイトで、火器管制レーダーと断定している。「自衛隊ナビ」というサイトは自衛隊員の婚活や再就職などを支援しているので防衛省が運営していると思ってしまうが、防衛省ではなく民間ということで、責任者の所在はネット上では不明である。防衛省は意図的にこうしたウソ情報を垂れ流す機関を容認しているのだろう。そうでないのであれば、当然取り締まるべきだ。
過去のレーダー照射事案における防衛省の対応と今回の対応を比較してみよう。
2013年2月、防衛省は、「東シナ海」(東中国海)において中国軍のフリゲート艦から自衛隊の護衛艦が「火器管制レーダーの照射を受けた」と発表。(中国は当初は否定、その後レーダーの使用は認めたが捜索用レーダーと主張)この時、防衛省はレーダーの波形などの証拠は開示していない。
2018年12月20日、能登半島沖の日本海において韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が海上自衛隊のP-1哨戒機に対し、火器管制レーダーを照射したとされる事件では、日本政府は動画、およびレーダーの波形や音声データを公表している。(ただし韓国側の主張は日本側とは真っ向から対立している。)公開されている動画や音声データ、韓国側の主張などの詳細は下記URLをクリックしてご覧下さい。
⇒ 韓国海軍、自衛隊機に火器管制レーダー照射2018/12/20
今回を含めて3つの事例を比較すると、日本側の対応には一貫性がない。内倉統合幕僚長は「手の内が明らかになるため、明らかにすることはできません。」と言っているが、韓国の時はすでに情報を開示している。すでに「手の内を見せている」のに何で今回は見せないのか?中国に対して強く抗議するのであれば、データを公開した上で「見てください、これは明らかに火器管制レーダーの波形でしょ。こういうことは二度としないでください。」といえばよい。「韓国海軍レーダー照射問題」にある動画を見てもわかるが、二つのレーダーの違いはさほど高度な技術がなくても峻別できるのではないか?機内に警報機が鳴り響くとパイロットが「FC(火器管制)レーダーらしき電波探知」と言っている。「手の内を見せる見せない」の技術レベルの問題ではないのではないか。
それともう一つ疑問点がある。小泉防衛相は「断続的なレーダー照射」と言う言葉を繰り返している。二つのレーダー照射の特徴は、火器管制レーダーは一点集中の「持続的安定的」な照射で、捜索用レーダーは広範囲に「断続的」な照射ということだ。小泉防衛相は「断続的な照射」と言っていることから、自衛隊機が受けたのは「捜索用レーダー」ではないのか?長時間にわたって受けたのは回避行動をとらず、中国軍機の訓練の周辺をウロウロしていたということではないのか?海上衝突回避規範(CUES)によれば、火器管制レーダー照射を受けた場合は、自艦・自機の安全のために速やかに回避行動を取る(進路と速度を大きく変えること)とされている。30分もレーダー照射を受け続けたというのであれば、回避行動をとらなかったということだ。それは火器管制照射ではなかった、あるいは危険な照射とは考えなかったからではないのか?それとも命がけで中国軍を挑発していたのだろうか?
今回の事件で最も危険なのは、メディアが「中国=敵」という前提で報道していることだ。政府はまた、そういう報道を引き出すような情報を流している。
日本政府、防衛省はすべての情報(レーダーの波形など)を開示し、白黒を明確にするべきだ。中国側にも言い分はあるだろう。もし中国が火器管制レーダーを照射していたのなら、なぜ照射したのか?理由は何か?議論を重ねればよい。その方が平和的な関係を再構築するのに役に立つ。
情報を隠したまま、一般人の疑念を増幅させて中国を敵に仕立てあげる方法こそ、最も危険で悪辣、戦争を呼び込む策動である。(山橋宏和)

