アメリカ人のD君の頑張りで完成したハンコのオンラインショッピングサイトは日本に留学したり日本駐在でやってくる外国人の日常用いる認印や銀行印のニーズはもとより、日本文化や漢字に興味のある欧米人が自分用や家族へのギフト用に買い求めることを想定していました。

 

いざオンラインショップの営業を開始してみると、確かにそういったニーズも多少は見受けられましたが、最も注文が多かったのは実は落款印だったのです。

 

絵画、特に日本画や水墨画を趣味にしている欧米の方々や、書道をたしなむ海外の方々が自らの作品の隅に落款印で名前かペンネーム或いは屋号といったIDを押す目的で購入されるわけです。中には窯に入れて焼く前の表面がまだやわらかい状態の壺に落款印を押しつけてマークを残そうとする外国人陶芸家もいました。

 

さらには、海外で柔道、空手、合気道、少林寺拳法或いは剣道の道場を開いている外国人師範の方々が生徒への級や段の免状を与える際に押す道場印としても落款印が必要とされています。

 

さすがのD君もそういったニーズがあるとは当初は気づいていませんでしたが、結果としてこれだけの落款印のニーズがあるとわかると、早速オンラインショップの顔の部分を、落款印を少し目立つように模様替えすると共に、グーグルやフェイスブックの有料の広告サービスを使って海外の日本文化趣味の人々に訴求する広告宣伝を行いました。

 

また、日本側でこのハンコのオンラインショッピングサイトの窓口業務を当初は私が担当していましたが、昨年3月からは当社に入社してくれたロシア人社員のA君が英語と日本語を駆使して対応してくれています。 彼がフェイスブックやインスタグラムなどのSNSも駆使して販促に努めてくれていることでこのハンコのオンラインショップの売り上げも着実に上昇中です。

 

事業家M氏にとってはそのオンラインショップの売り上げはまだまだ採算がとれるところまでは来ていないので一層の売り上げ拡大を期待していますが、一方でアメリカ人のD君や当社のA君といった外国人材の活躍を身近で感じています。

 

また遡れば上京してくる前の長崎での非常に勤勉な中国人の様子をはっきりと覚えているM氏は実際自らのハンコチェーンの本部で中国人を採用し、直営店との入出金管理等の経理を任せています。

 

こうした状況を背景として、M氏と忘年会を行った昨年末、M氏の事業の中で外国人材を正社員として採用し、積極的に活用することを打診してみました。 少子高齢化の中で優秀な日本人を取り合うだけでなく、優秀な外国人材にも目を向けるという話です。

 

続く

このアメリカ人のD君はカリフォルニア州の州都サクラメント市のウェブサイトの構築、改善、管理などに関する仕事をしていました。 彼は私のクライアントの知り合いで、そのクライアントと進めているロサンゼルスのリトル東京での日本の文化発信のためのショッピングモール兼マンションの複合施設建設を企画する会議に彼も招かれた際に知り合ったものです。

 

そういったバックグラウンドを持っていた彼なので、事業家Mさんの印鑑輸出用オンラインショップの話を打診すると二つ返事で賛同してくれました。

もちろん彼は日本人が日々どのように印鑑を使用しているか知っており、実際自分でも日本の銀行口座用の認め印を持っていました。

ただ、海外向けとしては日本の文化薫るギフトという切り口でオンラインショップをデザインしようと考えていました。

 

D君はまず彼が支援中で、日本発の海外向けヨーヨーのオンラインショップで成功しているMIさんを紹介してくれました。 高校からアメリカ育ちの彼はヨーヨーの世界チャンピオンで、ヨーヨーのブログを英語で書いていたところその閲覧数が膨大になり、それをベースに彼が良いと思う日本製ヨーヨーの輸出販売を始め、今や名古屋と渋谷にも実店舗を持つほどに成功しています。このMIさんからのアドバイスは海外、特に欧米の人々に印鑑に興味を持ってもらうためのコンテンツ作りと多くの画像・写真の活用でした。

 

ただ、どういった背景やシチュエーションで印鑑の写真や動画を撮ったら良いのかわからなかったのでそういった点も踏まえ、事業家MさんはD君が来日した際にこのオンラインショップのあるべき姿をじっくりと話し合いました。アメリカ人にとってハンコがどう映るか、自分の名前を漢字で表現することに興味はあるのか、どういったスタイルのハンコに興味があるか、許容できる価格帯はいかほどか、ギフトとして贈る場合、誰が誰に送ることを想定するか、どこまで字体などのオプションは必要か、ハンコを彫る前のデザイン承認の機会を与えるべきかなど細かいところまで話し合いました。

 

D君は日本の文化好きなアメリカ人の感性や嗜好をなぞるように思い起こしながらこのオンラインショップのデザインと運営の仕組みを考えてくれました。

 

日本のはんこ屋さんの日本人向けのオンラインショップのデザインに比べ顕著に異なるのはカラフルな写真画像の取り込みでした。 特に「さすが!」と思ったのは、一つ一つはただのハンコにも拘わらず、1つは松の葉に挟み込む格好で撮ったり、或いはハスの草の上に寝かして撮ったり、岩の上に立ててみたり、或いは開いた牡蠣の上に置いたりと、バックグラウンドにストーリー性を持たせて撮影したことです。

 

そしてできるだけ多くのオプションをお客様に与えることを提案してきました。結果として①材質で11種、②サイズ(径)で5種、③書体で6種を提示し、また縦書き、横書きの選択、文字選択(アルファベット、カタカナ、ひらがな、漢字)を設けたのです。 そして極めつけは外国人の名前の漢字変換を行い、その意味を説明するサービスや、デザインプルーフと称し、お客様が選択した結果に基づくデザインをpdfファイルで送りお客様に変更のチャンスを与えたことでした。 確かに欧米のレストランに行くと、飲み水の選択、サラダの種類とドレッシング、ステーキの焼き方、付け出しの選択、デザートの選択、コーヒーの選択などオプションが多いことからして、オンラインショップであっても多くのオプションを設けたのはアメリカ人の感性を持つD君ならではの判断でした。

 

 

続く

今回は実業家Mさんにアメリカ人のD君を紹介する話です。

 

前回、Mさんが日本の旅行代理店に勤める外国人の方々に手作りの教科書で印鑑を海外からのインバウンド旅行者向けに販売していく努力をされた話をしましたね。

何も単なるアイデアだけでこのトライをしたわけではありません。

 

彼には1つ大きな成功体験がありました。 それは有名なサッカーのクラブチームのレアルマドリードのメンバーが来日した際、手土産にプレーヤー一人一人の名前を漢字にした印鑑を渡して好評を博したことでした。

 

日本に彼らを招聘したスポンサーからの相談を受けてMさんが対応したもので、ベッカムやロナウドといった有名プレーヤーの発音に近い漢字を自ら選び、デザインして印鑑に仕立て、朱肉と共に届けたわけです。

選手たちは大いに喜んだそうですが、一方でなぜ朱肉(朱色)を使うのかと選手がスポンサー経由尋ねてきたので「それは(諸説あるが、1つは)サムライの血判状、即ち血の色を表し、血判を押すことと同等の約束の重みを表すため」と説明したところ、選手らは大いに納得したそうです。

 

ということでそれなりの地位にある外国人は自分の名前を漢字にすることへの興味、好奇心を示すと共に、印鑑の美的・歴史的価値を認めるとMさんは感じたわけです。

とはいえ、極めて事業センスの鋭いMさんは、日本に来る外国人旅行者が、忙しい旅程の中で定番の日本土産とは別に、印鑑にわざわざ注意を向ける余裕がまだないと気づきます。

そこでMさんは方針を変え、実店舗や現物展示を中心に考えるのでなく、名前を漢字にする面白さ、印鑑の美しさや歴史をインターネット上で、英文で情報発信することで海外の人々に訴求し、オンラインで輸出販売をしていこうと考えました。

 

その相談を受けた私がこのインターネットのオンラインショップづくりのパートナーとして白羽の矢を立てたのがD君です。 彼はアメリカの西海岸カリフォルニア州の州都サクラメントに住んでいますが、もともと日本に興味を持ち、早稲田大学の国際教養学部での留学経験があります。従い日本語も上手です。 日本の歴史・文化に強い関心を抱き、卒業後も時間があれば来日して彼にとっての「日本文化」が感じられる地方を旅してまわります。 あるときは四国お遍路めぐりを自転車で、かなり短期間で回り、全88か所の納経所の納経印を取り付けた納経帳を持っていました。またあるときは、屋久島の樹齢数千年というスギに抱きつきに行ったりしていました。 彼が日本のヨーヨーの海外向けオンラインショップの構築を手助けしたことを知っていたので、この印鑑の海外向けオンラインショップについてD君がどう思うか尋ねてみようと思ったのでした。

 

続く