2024.5.20

 パレスチナ・ラフア地区へのイスラエル軍の侵攻をめぐってのネタニヤフ政権の強行姿勢とアメリカの思惑とが食い違っているように見えます。アメリカは人道支援として海上より支援物資を搬入していると伝えられています。一方でアメリカはイスラエルへの軍事支援を再開しているとも。このアメリカの二重性はどのように考えればよいのでしょうか。

イスラエルの強硬姿勢は一貫しています。ハマスの殲滅が目的だからです。ネタニヤフ政権、これを支持するイスラエル国民は、「ハマスはパレスチナ・ガザの全ての住民である」と考えていると思えるからです。戦闘員と非戦闘員との区別には意味がなく、実際にも区別は難しいからです。幼児といえども近未来の戦闘員であって、女性や老人といえども反イスラエルのハマス母成員であることに相違ないからです。イスラエルの民の生存にとってガザ住民の根絶やしこそが望ましいのです。イスラエルの自衛権として反イスラエルの武力の根源を断つことが必要だからです。そして、イスラエルにとってはガザ住民の全てをガザ地区より放逐し、ガザ地区の全てをイスラエル・ユダヤの民の入植地にしたいはずです。国土、定住地の拡大のためです。ユダヤ経典の旧約聖書に累々と記述されているように非ユダヤの民、その部族を殲滅、根絶やしすることが生存には欠かせないとするからです。ただこのことは、根絶やしされた悲惨なユダヤの民の歴史の再現でしょう。主役、立場が逆になっているだけです。流亡、離散、迫害、殺戮というユダヤ民族の絶望の歴史を、別の位相で、パレスチナ・ガザの地でパレスチナの民に再現しようとしています。

イスラエル・ユダヤの人々に本当に必要なことは、そもそもイスラエルの民はパレスチナの地への移民で、しかも植民であって、その建国はどれほど自由と民主の政体であろうが、暴力による先住民パレスチナの民の排除、放逐、根絶やし攻撃によるものであったとの歴史に真摯に向き合うことだと思います。そして、イスラエルの国家について、自由と民主とは何か、民族と国民国家とは何か、の人類史の普遍的な命題につながる考察の糸口を探ることだと思います。イスラエルには人類史の絶望が凝縮していると思えるからです。

しかし、現在のネタニヤフ政権は「どんなに世界から孤立してもイスラエルは戦う」と強弁するばかりです。ここにはユダヤの人々の全世界、その歴史に対しての根深い怨念と憎悪、怒りがあるように思えてなりません。わたしたちは、そこまでイスラエルを追いつめたこの世界の歴史構造を深く考えるべきでしょう。

一方、イスラエルという国家を造っているのはアメリカです。イギリス、フランスなどの欧州も加担しています。なかでもアメリカについてはよく考えてみるべきでしょう。

 

残日録5

パレスチナ・ガザについて(4)

2024.4.21

イスラエルはハマス殲滅の方針のもとにガザ南部の武力掃討の機をうかがっています。イランとの抗争がイスラエルによる戦術核兵器の使用にまで拡大するとの懸念も現実味を帯びてきています。イスラエルのネタニヤフ政権は、どれほどの国際社会の非難があっても、ガザの人々の更にとんでもない犠牲があっても、ハマスを根絶やしにするまでその武力行使を止めることはないと思われます。これは、イスラム原理主義組織であるハマスのテロ攻撃に対しての自衛権の行使として、ハマスの根源を断つとのイスラエルなりの合理的な思考によると言えます。武力の圧倒的な差異、その非対称性からしてイスラエルの武力によるガザの占領支配とハマス組織の壊滅がもたらされるものと思われます。

わたしたちは今何を見ているのだろうか。宿痾のような歴史的構造の悲劇の拡大であるでしょう。ハマス戦闘員は理解していたはずであり、わかっていたはずです。自分の命に未来はないことを。そして家族も。天井のない牢獄で、自由な未来のないガザにおいて、「死をもっての抗議、抵抗」が今般のハマスの武力侵攻でした。これによる多数のイスラエルの人々の無差別な殺戮と人質の奪取はイスラエルの圧倒的な軍事力による反撃を招き、ハマス成員の殺害、殲滅に向けてのイスラエルの復讐は徹底的に行われるであろうことをわかっていたはずです。また、彼らを支えるガザ住民への復讐も。イスラエルにとってはハマスの行為は無差別テロであって、その根源を断つことはイスラエル・ユダヤの人々の生存のために必須だからです。

わたしたちは、なによりもまずは、パレスチナ・ガザの人々にとっての生きること、生存のためのハマスの「死の訴え」に目を凝らしたいと思います。この「死の訴え」は、イスラエルによるガザ住民への抑圧、天井のない牢獄からの解放です。その訴えは直接的にはイスラエルに対して、そしてイスラエル建国以来のアメリカ、欧州諸国の国策によるパレスチナ秩序構造に対して、さらにはガザ住民の避難を受け入れようとしない同じイスラム・スンニ派信仰のエジプト、ヨルダン、サウジアラビアというアラブ諸国に対してのものです。

そして、ここでわたしたちには留意しておきたいことがあります。ガザの人々、住民とハマス組織との信頼関係です。虐殺、破壊に直面している住民のハマスへの思いです。ハマスの死の選択はガザ住民の絶滅をもたらすかもしれないことをパレスチナ・ガザの人々はどのように受け止めているのでしょうか。これは最も重要な、大切なことだと思います。また、ハマスはこの絶滅の危機についてどのように考えているのでしょうか。わたしたちは、パレスチナ・ガザの人々にはなんとしても生き延びて欲しいのです。

 

残日録4

ウクライナ戦争について(2)

2024・3・19

 

 新聞報道によると、フランスのマクロン大統領はウクライナ支援のためには地上軍の派遣を排除しないと述べ、アメリカ、ドイツなどのNATO諸国の間に物議を醸しています。彼はまたドイツに対して臆病者とも批判しているようです。更にはスエーデンはNATOへの新規加盟にともなって戦闘機のウクライナへの供与を表明しています。一方、ロシアのプーチンは大統領選挙に勝利し、改めて軍事攻撃を継続して核兵器使用も辞さないことを言明しています。状況が緊迫してきている感があります。泥沼に入り込むのでしょうか。

このような時に、わたしたちが注目しておきたいことはウクライナ、そしてロシアでの徴兵忌避者、逃亡者の増加についてです。

ウクライナでは二万人を超える兵役義務年齢層の若者が国外に出ているとも伝えられています。徴兵忌避、徴兵拒否の行動です。死にたくないとの思いでの徴兵忌避は、ロシアの侵攻排除する自由のための戦いであるとのウクライナ国家の大義に背くことでしょう。彼らはウクライナでは拘束されて刑罰を課されることになります。しかし、死にたくないとの思いは、現在のウクライナの国家意思に同調できないのです。宗教的信条での徴兵忌避かもしれません。あるいは、国家意思の許容の是非にかかわらずに、国家という拘束そのものを認めないという思想での忌避かもしれません。いずれの場合も彼ら諸個人の命と人生の自由意思は現在の国家制度、国家意思を超えているのです。彼らは非国民、意気地なし、臆病者、利敵行為者として非難されるのでしょうか。もちろん志願兵として、あるいは徴兵に応じて、人生と命をかけて、自由解放のために前線の戦闘に従事している人々との違いには根源的な問題があるように思います。忌避者自身も後ろめたさや、裏切りの感情を抱え、苦悩するに違いないと思います。

しかし、現在では、良心的兵役拒否権は国連やヨーロッパ評議会などの国際機関においては基本的人権として認知されて、推奨されています。これを認めて兵役以外の社会奉仕への従事を課している国もあります。兵役拒否権は基本的人権の「良心の自由」の思想」に基づくものです。たとえ自衛の解放自由戦争といえども、その国家は、個人の自由を拘束することはできないとの思想を認めるかどうかは大変に重要な問だと思います。国家制度の制約がある現在、わたしたちの思想は個人とその家族の意思は国家意思を超えることに向かうべきであると考えます。

一方、戦争の前線からの離脱、逃亡は最も深刻な問題を想起させます。敵方への作戦計画の通報などの利敵行為や離脱での人員不足によって部隊行動を困難とすることがまず問題になるからです。また反乱行動も考えられるからです。しかしどうでしょうか。国家意思の出鱈目な、到底承服できない戦争方針、戦争指揮からの離反であるとしたらどうでしょうか。