残日録3

2024.3.14

 

 報道によれば、イスラム教徒の人々にとってとても大切なラマダンの期間であるにもかかわらず、パレスチナ・ガザへのイスラエルによる攻撃が続いています。昨年の10月7日以降、ガザ地区の死者は三万人を超えています。数多くの女性や子供たち、お年寄り、さらには心身障害者という弱者の人々や医療従事者まで殺されています。これほどの殺戮を繰り返し悲惨な人道危機をもたらしているイスラエルの行為はジェノサイド(大量殺戮)に他ならないと思います。また、イスラエルはパレスチナ・ヨルダン河西岸地区においても理不尽な殺戮とパレスチナ人の捕縛を繰り返しています。

 イスラエルによるガザ地区への地上軍の侵攻、そして空爆による攻撃の発端は、パレスチナ・ハマスのイスラエル領内への武力侵入による約1400人ユダヤ人他の殺害と200人弱の人質の奪取という行動でした。これを契機としてのイスラエルによる自衛権の行使としてハマス壊滅を目的とするガザへの侵攻でした。その侵攻は今も続き、ガザ地区を徹底的に破壊してパレスチナの人々を殺戮し、辛うじて生き延びた人々を死の淵へと追い詰めています。

 ハマスの武力侵入は無差別殺戮のテロ行為であって、ハマスは過激テロ集団であるとの世評が一部にあります。そして、イスラエルの攻撃は自衛権の行使として正当であるとも。しかし、わたしはそうは思いません。ハマスは2006年の民主選挙で第一党として選ばれたイスラム抵抗運動という組織です。ガザの人々の信任を受けている政治的組織であって、イスラム国(IS)のような武装テロ組織とは本質的に異なります。そして、ハマスのイスラエルへの武力侵入は、ガザ・パレスチナをめぐる紛争当事者の一方の占領者イスラエルの強権政治、ネタニヤフ政権、これを支持するイスラエル国民への身命をかけての異議申立てのための政治行動であったと理解されます。ガザ地区の軍事封鎖、ヨルダン河西岸地区への入植地拡大による軍事占領への抵抗であると言えます。

長年にわたり軍事的にガザ地区を封鎖し、あたかもかつてのナチスによるユダヤ人ゲットー、強制収容所のようにパレスチナの人々を隔離し、しかもガザ地区でもヨルダン河西岸地区同様に暴力的にユダヤ人入植を拡大し、パレスチナの人々の命を奪い生活を破壊していること、そして、極めて多数のパレスチナの人々を捕縛拘束していることなどの状況がネタニヤフ政権によってますます悪化しつつあることへの異議申立て、反抗であったと理解されます。パレスチナ占領者としてのイスラエルにパレスチナの抵抗への自衛権を認めることはわたしにはできません。

 ハマスの武力行使に対しては、好戦的なネタニヤフ政権が圧倒的な武力をもって反撃に出るであろうことはハマス自身が予期し、承知していたはずです。相当数のハマス戦闘員が戦死することや、多くのガザの住民が犠牲になるであろうことも予想していたはずです。また、ハマスを支持するガザの住民も事態の推移を固唾をのんで見守りながら、犠牲を覚悟していたようにも思えます。このことは大変に悲しいことで、本当に心が痛みます。

 

2024・3・16

パレスチナ・ガザについて(2)

 ハマスのイスラエル領内への侵攻を発端とするイスラエルによる封鎖中のガザ地区への攻撃は、過去の何度かのイスラエルの武力行使の場合に比べてはるかに大規模でガザ地区住民のジェノサイド(大量殺戮)と言うべきものです。イスラエルのネタニヤフ政権は自衛権の行使としてハマスを殲滅するための行動であると称しています。しかし、ハマスはガザ住民総体を基盤とし、戦闘員はこれらの人々と共に命を繋いでいる強い共同性を構成しています。イスラム共同体です。そうであれば、ハマスを殲滅することはガザ住民総体を殺戮する以外にないことになります。ネタニヤフ政権はこのことを承知のうえで自衛権を振りかざしているのです。しかし、パレスチナ占領者のイスラエルにパレスチナの抵抗に対しての自衛権そのものが認められないはずです。不法行為者に、不法行為の防衛、自衛行動についての正当性がないのは明らかです。それにもかかわらず、アメリカ、イギリスはこのイスラエルの自衛権の行使を支持し、多大な軍事支援を供与しているのです。圧倒的な武力の非対称性からしてイスラエルへの軍事支援などまったく馬鹿げたことです。欧州諸国、そして日本もアメリカなどに同調しているのです、

 そもそものハマス侵攻に至る問題の根源について考えるべきでしょう。イスラエルは、パレスチナの人々を民族浄化することで建国された、入植者による植民国です。植民を促してきたのは害二次大戦後のユダヤ難民の処置に困ったパレスチナ委任統治国のイギリスであり、これを助けたアメリカであり、フランスなどでした。1947年の国連総会で、パレスチナ原住民の同意も、承諾も全くなしに、これら諸国の主導により「パレスチナ分割案」が採択され、パレスチナの民族浄化がはじまります。1948年のイスラエル建国宣言後の第一次中東戦争、1856年の第二次中東戦争を経た1967年の第三次中東戦争以来ヨルダン河西岸とともにガザ地区は50年以上イスラエルの占領下にあります。1973年の第四次中東戦争、イスラエルによるパレスイナ難民キャンプでの虐殺、パレスチナの抵抗による武力衝突の混乱がその後も続きます。

 そして、1993年にオスロ合意が調印されます。イスラエルとパレスチナ代表としてのパレスチナ解放機構(PLO)が相互に承認し、イスラエル軍はガザやヨルダン河西岸から撤退し、パレスチナが暫定自治を始め、向こう5年の間に最終的な地位について合意し、公正で永続的包括和平を実現することになりました。この合意はアメリカが仲介しました。この合意によればガザと西岸にはパレスチナの独立国家をつくり、イスラエルとパレスチナは二国家共存を目指すものでした。

しかしイスラエルの占領は続きます。パレスチナの人々の怒りは2000年にはインテファーダとなって爆発しました。

 

2024・3・18

パレスチナ・ガザについて(3)

 2006年のパレスチナ立法評議会選挙で勝利したハマスの政府をイスラエルとアメリカは認めませんでした。ハマスをテロ組織と見なしていたからです。そこでハマスはそれまで自治政府を担っていたファタハとの統一政府をつくりますが、アメリカの介入、画策によりハマスとファタハはガザで内戦状態になります。ハマスが勝利します。しかしパレスチナは分裂状態となります。そして、イスラエルはハマスを選んだパレスチナの人々のイスラエルへの抵抗の意思を圧殺するために、2007年にガザの完全封鎖を始めます。人の出入り、物質の搬出入のすべてをイスラエルが軍事管理し、南のエジプトとの国境も管理するものでした。その後のガザ地区の人々の抵抗、ハマスの武力抵抗に対するイスラエルの軍事対応は凄惨なものでした。2008~2009年22日間のガザ攻撃(死者1400人超)、2012年8日間(140人超)、2014年51日間(2200人超)、2021年、2022年の攻撃などです。現在のガザ攻撃は2023年10月7日のハマスの侵攻への反撃となっています。

 何度も強調しますが、今般のハマスのイスラエルへの侵攻は完全封鎖を続けるイスラエルの占領不法行為に対する抵抗であって、前述のオスロ合意を履行せず、これを反故にして

ハマスを武力行使にまで追い込んでいるイスラエル、イスラエルを支持、支援するアメリカこそが、殺害され、人質にされたイスラエル国民はもとより、イスラエルによる大量殺戮で血の海に沈でいるガザ地区住民に対しての責任を負わねばなりません。イスラエルによる自衛権の行使としてガザへの空爆、地上軍の侵攻による大量殺戮を許容し、あたかもそれが正義であるとする世評は誤りで、到底認められません。パレスチナに対してのイスラエルの自衛権はないからです。

 イスラエルの自衛権の行使を軍事支援するアメリカは、イスラエルによる侵攻でガザ地区でのジェノサイドの様相が深まるにつれて「やり過ぎだ」と諌め、今更ながらアメリカ国内世論に押されて人道支援と称してガザへの食料、医薬品などを供与し始めています。まったく出鱈目なヒューマニズムです。イスラエルの行為は自衛権の行使ではなく、残虐な復讐行為です。イスラエル・ユダヤの人々に残忍なナチスを想起させ、復讐心を煽り、自らの封鎖占領の無法行為を隠蔽するものです。パレスチナ・ガザの若者がガザ住民の深い絶望を背負って祖国の地を占領から解放するために死を覚悟して戦っているという歴史的な経緯はイスラエルにとって都合の悪いことだからです。

 わたしたちはパレスチナ・ガザをめぐる凄惨な状況からは遠く離れた日本にいますが、「自衛権」とは何か、その行使とはいかなることか、そして戦争にいたる歴史的な経緯のもつ重みについて考えざるを得ません。また、アメリカをはじめとする世界の国家間の秩序構造の過去、現在、今後について考えざるを得ません。パレスチナをめぐるアラブ諸国の関係についてもそうです。ただ今は、パレスチナの人々の悲しみと絶望に思いを寄せます。はっきりしていることはハマスが問題ではなく、イスラエルが問題だということです。