それから物干しで何度か蜂が飛ぶのを見かけたが、気にも留めなかった。



別に昆虫に強いわけではない。

ただ周りには山や畑があり

時折、電柱にカブトムシや蝉がひっついている。

カナブンにクワガタ、カミキリムシと家の中で出会うのはそう珍しくはないからだ。

取り込もうとした洗濯物から突然カメムシや蝉が飛び立つのにはいまだに慣れないが。





今日も何かいるだろうか?なんて思いもしないで、上を向いてバスタオルを引っ張った時に身体がよろけた。

いつもは見えない、物干しの屋根の梁の壁側との間に、茶がれた色のそれはあった。

体を立て直し今度はかがみ込んでしっかり確認。

媚び茶色と利休茶色をまぜたような色、昔のシャワーヘッドのような半円形。


あしなが蜂の巣であった。



大方の人はここで取り壊す方へ思考と行動を移すのだろう。
 

けれどそんな気にはなれなかった。



自分の家が突然壊されたら蜂とて嫌ではないだろうか…

単純にそう思うからだ。


アインシュタインが元だとする、蜜蜂の減少は人類の死活問題的な話も数年前に聞いたのも一つの理由に入るかもしれない。

蜂が受粉しなくなると人類に大きな影響がある。

だったら駆除しない方が良いではないか。

うちにいるのは蜜蜂ではないが、人類にも多種族あるのだから、あしなが蜂も自然界には必要なはずだ。

自然に還らない物ばかり作る人間よりもよほど…。


そして何より、20年近く前に二階の軒下に蜂の巣が出来ているとご近所さんに指摘された時のちょっとした後悔があった。

どの部屋の出入りにも支障なく、他家へも迷惑のかからない位置だった。

本当は放っておきたかったが教えられた手前、引っ越して間なしだったのも有り、直ぐに業者を依頼した。


帰り際の言葉が深く心に残っていた。

「蜂の巣は本当は駆除する必要はないんですよ。人間が何もしなければ蜂も何もしませんから」