クリスマスの夜の小さなロボットの物語

クリスマス絵本『ジップ&キャンディ』を全ページ無料公開します(前編)


 2019.12.16 by 西野亮廣エンタメ研究所


【前編】【中編】【後編】
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土星の裏がわに、人とロボットがいっしょに暮らす星があります。
これは、その星のクリスマスに起きた奇跡の物語……




ジップ&キャンディ
 ロボットたちのクリスマス


作・にしのあきひろ






最新型ロボットの《ジップ》はご自慢の翼を広げ、
今日も街の空をビュンビュン飛びまわります。
ビュンビュンビュンビュン。
モミの木の丘にも、ノッポのオルゴールタワーのてっぺんにだってひとっ飛び。
「どうだい? ボクのこの翼。行けないところはないんだぜ。知らないコトはないんだぜ」
街の人たちが、「あんまりスピードを出しすぎるとケガをするよ」と声をかけても、
「ヘッチャラさ。なんたってボクは、最新型のロボットだからね」
と、おかまいなしです。



そんなジップが、最近、かならず立ちよる場所があります。
湖のむこう岸にあるサンドイッチ博士の研究所です。
いつもジップは窓にヘバリついて、研究所の中の様子をのぞきます。
おめあては、せっせと働く旧型のおてつだいロボットの女の子。
博士の横にピタリとついて、食事の準備や、掃除に洗濯、お留守番。
女の子ロボットはいつも一生懸命働いています。
サンドイッチ博士はクリスマスの準備に忙しく、
近ごろ、研究所を空ける日が多くなってきました。
ある日ジップは博士の留守をねらって、そっと研究所の窓を開けたのです。



「やあ」
ジップは勇気をふりしぼって女の子ロボットに声をかけました。
ガタガタガタガタとキャタピラーを回転させて、
お留守番中の女の子ロボットが近くによってきます。
「どちらサマ?」
「ボクの名前はジップ、最新型ロボットさ。キミは?」
「ワタシはキャンディ。この研究所のおてつだいロボット」
彼女の名前は《キャンディ》といいました。



「外へ行かない?」
ジップはキャンディを誘いだそうとしました。が、キャンディは言います。
「ダメなの。サンドイッチ博士からソトに出るコトを禁止されているの」
かわいそうなキャンディ。ということは、ヨナヨナの森のむこうのロボットタウンも、
カンパネラのオルゴールタワーのてっぺんも知らないのです。
しかし、ジップにしてみれば外へつれだすいい口実です。
ジップは自慢の翼をキャンディに見せて言いました。
「どうだい? ボクのこの翼。行けないところはないんだぜ。知らないコトはないんだぜ」



「スゴイ! スゴイ! ジップ、あなたソラをとべるの?」
「そんなのカンタンさ。ねえ、キャンディ。空からしか見えない景色がたくさんあるんだぜ。
キミはなにも知らないようだから、ボクがたくさん教えてあげるよ。さぁ、行こう」
ジップはキャンディの手を引きました。
「でも、博士から禁止されているし……」
「バレなきゃだいじょうぶ。ひとっ飛びしてすぐにもどってこよう!」
ジップは強引にキャンディの手を引き、キャンディを背中に乗せました。
「ホントにダイジョウブかなあ」
「だいじょうぶ! だいじょうぶ! ヘッチャラさ」
キャンディを背中に乗せたジップはごきげんです。
「さぁ、飛ぶよ!」



ビュンビュンビュンビュン。
ふたりは、湖を越えて、ロボットタウンの上空を飛びます。
「どうだい? キャンディ、街はこんなになっているんだよ」
「スゴい! ねぇ、ジップ。アレはナニ?」
「アレはエネルギースタンドだよ。
新型のロボットたちはみんなあそこでエネルギーを補充するんだ」
「へぇ。あ、アレはナニ?」
ずっと研究所の中にいたキャンディは知らないことばかり。
ジップは、そんなキャンディにモノを教えるのが楽しくてしかたありませんでした。
「ねぇ、ジップ。あれは?」
「あれはデパートだよ。ちょっくら行ってみようか」
ビュンビュンビュン。



ガタガタガタガタと音をたてて、デパートの中を旧型ロボットが歩きます。
近ごろはとんと見なくなった旧型ロボットに、
街の人たちや新型ロボットたちの視線が集まります。
しかしキャンディはそんな視線などまったく気になりません。
なにせ研究所を出たことがないキャンディにしてみれば、
デパートは知らないものばかりの楽しい世界。
「ねぇ、ジップ。これはナニ?」
キャンディは一冊のノートを手に取りジップにたずねました。
「これはねぇ、絵日記帳だよ」
「エニッキチョウ?」
「人間はねぇ、ボクたちのようにデータをまるまるインプットできないんだよ。
だから残しておきたい思い出をここに描くんだ」
「エニッキチョウ! エニッキチョウ!」
キャンディは絵日記帳をたいそう気に入りました。ジップはうれしくて、
デートをしてくれたお礼に絵日記帳をプレゼントしてあげることにしました。
「さぁ、そろそろ帰ろうか。博士に見つかっちゃうからね」



ビュンビュンビュンビュン。
研究所までひとっ飛び。
「また遊ぼうね」
「ありがとうジップ、楽しかったわ」
博士に見つかることもなく、無事にお別れしました。



とても楽しかった一日、大好きなキャンディとすごせた夢のような一日。
ビュンビュンビュンビュン。
ジップはうれしさをがまんしきれず空を飛びまわりました。
「明日もキャンディにあいに行こう。たくさんたくさん教えてあげよう」
ビュンビュンビュンビュン。
街に夜が降ってもまだ空を飛びまわっていました。



翌日も、その翌日も。
コン、コン。
サンドイッチ博士の留守をねらって、ジップが研究所の窓をノックします。
「キャンディ、遊びに行こう!」
「キョウはどこへつれてってくれるの? ナニをオシエテくれるの?」
「いいから、乗りな」
ジップは今日もキャンディを研究所からつれだしました。
ビュンビュンビュンビュン。
「どうだい? ボクのこの翼。行けないところはないんだぜ。知らないコトはないんだぜ」
「ホントウにすごいね、ジップのツバサは。ソラを飛べるなら、
穴ぼこに落っこちたりしないんでしょ?」
「あたりまえさ。キャンディ、キミは穴ぼこに落っこちたりするのかい?」
「ケンキュウジョのミゾに、よく落っこちちゃうわ」
「ドジだねえ。そんなときはどうするんだい?」
「穴ぼこに落っこちたときはジタバタするの」
「ジタバタ?」
「そう。そしたらその音に気がついた博士がタスケに来てくれるの」
「あははは。面倒なことをするんだねえ」
ふたりの距離は日に日に縮まっていきました。



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