メチャクチャ個人的な話をさせてください。

僕が生まれた時には、父方の爺ちゃんと婆ちゃんと、母方の爺ちゃんがすでに死んでいて、西野亮廣の爺ちゃん婆ちゃん層はわりと壊滅的な状況でした。

そんな中、唯一の生き残りが母方の婆ちゃんでして、僕は、この婆ちゃんに、よく遊んでもらいました。
僕が幼稚園の時に弟が生まれて、母ちゃんは弟の面倒をみなきゃいけなかったので、幼稚園の送り迎えは婆ちゃんがやってくれました。

若いお母さんがズラリと並ぶなか、僕だけがシワシワの婆ちゃんと手を繋いで現場に現れるわけで、その年頃だと「恥ずかしさ」なのか「うしろめたさ」なのか何かしらのネガティブな感情がありそうなものですが、そういったモノは一切ありませんでした。
婆ちゃんのことが本当に好きだったからだと思います。

いわゆる「婆ちゃんっ子」としてスクスク育ち、勢いそのまま芸能界に入り、類いまれなる才能を発揮し(#自分で言う)、芸人史上最速のスピード出世で売れに売れました。

月曜日から日曜日まで、朝から晩までテレビの仕事が入り、婆ちゃんと会う機会も髄分減りましたが、その間も婆ちゃんが僕のことを応援してくれていたのは知っていました。

ある時、「婆ちゃんが入院した」という報せを聞いて、「軽く体調を崩しただけで、すぐに退院するだろうな」と思っていたのですが、姉ちゃんから電話があり、「お婆ちゃん、もう長くないかもしれへん。今のうちに会っとき。あんたの仕事の邪魔をしたくないから、お婆ちゃんから『あっくん(亮廣)に会いたい』と言うことは絶対にないけど、会いたいに決まってる」と言われました。

婆ちゃんがこの世界からいなくなるなんて、まさか思ってもいなくて、そこから、どうにかこうにか仕事を調整して、日帰りで婆ちゃんの病院に向かいました。

病室に着くと、いつもと変わらない婆ちゃんがベットに座っていたのですが、これまでと一つだけ違ったことは、婆ちゃんが僕のことを忘れてしまっていて、僕のことを病院の先生だと思って話しかけてきたことです。

間違いを指摘すると婆ちゃんが傷つくから、しばらく病院の先生として婆ちゃんの話を聞いていたのですが、まもなく、婆ちゃんが「今、自分が話しているのは、病院の先生じゃなくて、孫だ」ということに自分で気がついて、とても悲しい顔をしました。
「あれだけ一緒に遊んだ孫のことを忘れてしまった」という残酷な事実を目の当たりにした顔でした。

僕は、その瞬間に、「もうすぐこの世界から婆ちゃんがいなくなってしまう」というコトを本当の意味で受け止めることができて、残された時間で婆ちゃんとの思い出を一つでも多く作っておこうと思って、仕事の合間を見つけては、病室から連れ出すような形で、婆ちゃんと遊びました。

婆ちゃんが大好きだった『はねるのトびら』の収録現場に招待したり、妻夫木聡君とインパルス堤下君にお願いして、婆ちゃんが一度もやったことのない『合コン』を開催しました。
(※婆ちゃんは妻夫木君に夢中で、堤下君のことはガン無視していました。完全に女です。)

それから半年後に婆ちゃんは亡くなるわけですが、幼稚園の頃のように婆ちゃんと手を繋いで一緒に遊んだ最期の半年は、婆ちゃんと僕の中では、とてもとても大切な時間で、このことを一生残しておきたくて、一冊の絵本を描きました。

ものすごいスピードで飛び回る最新型ロボットと、もの忘れが激しい旧型ロボットの半年間を描いた『Zip&Candy ~ロボットたちのクリスマス~』という物語です。
恥ずかしいぐらい個人的な作品で、絵日記を描くように物語を描きました。

個人的にはとても思い入れが深い作品となったわけですが、その『Zip&Candy』を原作とした音楽劇が東京六本木で開催されていると聞いて、昨日、観てきました。

【公式サイト】http://zipandcandy-stage.com/

『Zip&Candy』が僕と婆ちゃんの物語であることなんて、あまり表で話したことなんてありませんでしたし、もちろん僕が婆ちゃんを病室の外に連れ出す時の会話なんて、誰も知りません。

が、「あの日の会話が聞かれてたのかな?」と思えてならないシーンが音楽劇『Zip&Candy』にあって、込み上げてくるものがありました。
チームの皆さんが原作をとても大切に扱ってくださったのが伝わってきました。
僕は人前で泣きたくないので、こういう仕事をされると、とても困ります。

脚本、演出、演技、音楽、照明、美術、小道具、衣装、メイク、運営……その全てが観客に寄り添ってくれて、エンターテイメントは今日もこんなに優しくて、自分が選んだ道が間違いじゃなかったことを確信しました。

終演後に楽屋挨拶に行かせてもらったのですが、自分から行っといて「ありがとうございます。本当にありがとうございます」ぐらいしか言葉が出てこなくて、チームの皆さんに気を使わせてしまいました。ごめんなさい。



帰り道に「音楽劇『Zip&Candy』は最高だったよ」と友達にLINEをしたら、皆、「観に行くー!」と言ってくれて、すぐにスケジュールを調整してくれました。
絵本を一緒に作った幻冬舎の袖山さんも行かれるそうです。

音楽劇『Zip&Candy』は今月14日まで。
とても面白い舞台でした。オススメです。

また観たいな。

【公式サイト】http://zipandcandy-stage.com/

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