25~26歳の頃。
このままだと何者にもなれずに終わってしまいそうな気がして、テレビの仕事から軸足を抜きました。
今でも好きで好きでたまらないテレビの仕事が、それほど得意では無かったのかもしれません。

「次に始める仕事は、『世界』に繋がっているモノにしよう」とだけ決めて、毎日いろんなエンタメに触れて、毎晩呑み歩いていました。

その頃、誰よりも一緒にお酒を呑んでいたのがタモリさんです。

「テレビの仕事から軸足を抜いた」といっても、新しくテレビの仕事を取りに行くのを辞めただけで、レギュラー番組はたくさん残っていましたし、そのうちの一つは、日本で一番視聴率をとっている番組でした。

つまり、『露出』があからさまに減ったわけではないので、とても表向きには「軸足を抜いた」ようには見えてなかったでしょうし、「テレビの世界の外で挑戦したい」という話は、本当に近しいスタッフにしか話していませんでした。

しかし、きっとタモリさんには見透かされていて、毎週のように「西野。何してんだ?  どうせ暇だろ? 呑みに行くぞ」と誘っていただきました。

呑みの席では毎回フザけた話に終始したわけですが、ときどき、本当にときどき、ひどく酔っ払った夜に、真面目な話をしました。

その夜、タモリさんから言われた言葉を今も鮮明に覚えています。


「西野。時代を追うなよ。時計の針は一周回って、必ずお前のところにやってくるから、その場にいろ」 


その後、たくさんのブームが始まっては終わり、始まっては終わり…その都度都度で、ブームに乗る人達を羨ましく思ったこともありましたが、タモリさんからいただいた言葉を信じて、毎夜ひたすらアトリエに籠り、まるで世間から相手されていない作品制作に没頭しました。
『人事を尽くして天命を待つ』というやつですね。

とても長い間、時計の針が自分に回ってくることを信じて、待っていました。


あの日から12年が経ち、(大変おこがましいですが)時計の針がようやく自分のところに回ってきたことを感じています。

ようやく回ってきた針は、きっと、またすぐに、いなくなってしまうと思うのですが、追いかけるような真似はしません。

12年間磨き続けてきた表現を今この瞬間に精一杯お見せして、次にお渡しします。


時代は全員に平等で、容赦なく次に進みます。
残酷ではありますが、希望でもあります。

僕みたいな人間が偉そうに言えることではありませんが、今まさに、誰からも見向きされずに自分の表現と向き合っている方に向けて、「大丈夫。時計の針は必ず重なるから」というメッセージを込めた『チックタック ~約束の時計台~』という作品を作りました。
素敵な話があります。

時計の長針と短針が、寄り添っては離れて、離れては寄り添って…そうして追いかけ合いっこを繰り返している様子が恋人同士のようで、『時計』を舞台にした物語を描こうと思いました。

その時、「長針」と「単身」の英語表現が気になって(僕の絵本には英訳が入っています)、調べてみたところ、「針」なので「needle」だとばかり思っていましたが、時計の針は「hand(手)」と表現することを知りました。

時計の針は、「長針」が 「long hand」「短針」が 「short hand」なんですね。
長い手と短い手が、ようやく重なった時に、12時の鐘がなるわけです。
祝福の響きです。

誰からも見向きもされない表現と向き合っている方へ。
ワケあって愛する人と離れ離れになってしまっている方へ。

時計の針は必ず重なるから、必ずあなたのところにやってくるから、もう少しだけ頑張ってください。
応援しています。



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